防衛庁

今、思い起こしてみると、少年時代をエジプトのカイロで過ごしたことが、私が防衛庁に入ったことにつながっていると思います。

西欧列強の帝国主義の残映、ナショナリズムのうねり、宗教のせめぎ合いの中で、幼いながら、私は世界の複雑と苛烈さ、その中で国家を維持・発展させて行くことの困難さを理解したような気がします。中東の小旅行を行った際、ヨルダン領エルサレム(当時)側から休戦ラインをはさんでイスラエル領エルサレム(当時)を眺めて国境線の何たるかも体得しました。

とりわけ大きかったのは、1956年のスエズ戦争を体験したことです。体験したと言っても、燈火管制の下、窓に目隠しをした暗い高層マンションの部屋の中から、カイロ郊外の空港が爆撃される音を聞いたり、街角で戦意高揚に向けての大集会を目にしたりといったことですが、自らも戦争の渦中にあるという緊迫感を味わいました。

大学時代、公務員試験に合格して、省庁を選ぶ段階で、それほど強い思い入れはなかったのですが、あっさり防衛庁入庁を決めたのは、このカイロ時代の体験を通じ、私にとって国の安全保障の重要性が自明なことになっていたからでしょう。