太田述正コラム#14762(2025.2.13)
<橋爪大三郎・峯村健司『あぶない中国共産党』を読む(その1)>(2025.5.11公開)

1 始めに

 予告した通り、2024年12月に小学館新書として上梓された本に係る表記シリーズをお送りします。
 大変失礼ながら、中国共産党に「あぶない」という修飾語・・「恐ろしい」と「転びかけ」の二重の意味?・・を付けた本であるというだけで、キッチュ本であることが容易に推測できる、というものですが・・。
 なお、橋爪大三郎(1948年~)は、「東大文(社会学)卒、同大院博士課程単位取得退学、日本学術振興会特別奨励研究員、東京工大助教授、教授、名誉教授、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A9%8B%E7%88%AA%E5%A4%A7%E4%B8%89%E9%83%8E
そして、峯村健司(1974年~)は、青学国際政治経済学部国際政治学科卒、朝日新聞社入社、中国人民大学留学、中国総局北京特派員、ボーン・上田記念国際記者賞受賞、ハーバード大客員研究員、アメリカ総局ワシントン特派員、編集委員、日本新聞協会賞受賞、青学客員教授、等を経て、キャノングローバル戦略研究所主任研究員、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B3%AF%E6%9D%91%E5%81%A5%E5%8F%B8
という人物達です。

2 『あぶない中国共産党』を読む

 「・・・習近平<は、>・・・「超一強体制」ともいえる堅固な権力基盤を打ち立てた。
 新型コロナ・パンデミック後、不動産価格の下落や個人消費の落ち込みで、景気は低迷している。
 にもかかわらず、軍備増強を急ピッチで進めており、国防費は前年と比べて7%前後増やしている。

⇒こういう言い方はナンセンスです。
 というのも、SIPRIによれば、米国の国防費の対GDP比と中共のそれとを比較すれば、比較できる最新の2023年度で、米国が3.36%に対し、中共は1.67%に過ぎず、
https://graphtochart.com/public-sector/world-military-expenditure-of-gdp.php
依然として、中共が、米国に比して相対的に圧倒的な軽武装国家であることが明らかだからです。
 (ちなみに、「世界の防衛費、<2024年に>7%超増加 ・・・」
https://news.yahoo.co.jp/articles/cac8b806ce0d2d5317341318fb7d399ec7248b23
というのですから、奇しくも、この7%というのは、ごくフツーの伸びであることが分かります。)
 接壌核武装国ゼロの米国に対して中共は4つもある、と、地政学的に中共の方が軽武装でよいなどとは口が裂けても言えないにもかかわらず・・。(太田)

 習近平の視線の先にあるのが、「民族の悲願」と位置づける「台湾統一」である。
 2024年に入り、人民解放軍の艦艇や航空機を連日のように台湾周辺に派遣し、圧力を強めている。
 混乱する台湾の政局をあざ笑うかのように、5月と10月に台湾周辺で大規模な軍事演習・・・を実施。
 台湾本島を取り囲むように空母艦隊を含む艦艇と、100機以上の戦闘機や爆撃機を派遣しており、実戦に近い演習内容となった。
 そしてその矛先は、日本にも向けられている。

⇒台湾に対して、特段、中共は軍事力で威嚇する必要など余りない上、核時代において、海洋によって隔てられているところの、しかも、米国と事実上の同盟関係にあるところの、台湾、を、軍事侵攻をして占領することなど、およそ不可能である(コラム#省略)以上は、それはあくまでも政治的な動きであって、その最大の狙いは、日本に、再軍備を促し、ひいては米国からの「独立」をもたらすところにある、というのが、かねてよりの私の見方である(コラム#省略)ことは、皆さん、先刻ご承知の通りです。(太田)

 2024年8月26日、人民解放軍のY9情報収集機が長崎県五島市の男女群島沖の日本の領空に侵入。
 中国軍機が日本の領空を侵犯したのは初めてのことだ。
 続く8月31日には、測量艦1隻が鹿児島県・口永良部島(くちのえらぶじま)の南西の日本領海に侵入した。
 そして9月18日、空母「遼寧」の艦隊が沖縄県の与那国島と西表島の間の日本の接続水域を通過し、西太平洋を航行した。」(4~5)

⇒日本が再軍備に乗出す・・その徴憑は、集団的自衛権の全面行使を認める政府憲法解釈変更です・・までは、表見的には台湾(や部分的にはベトナム)に志向するものも含めたところの、日本への軍事力を用いた威嚇を、次第にかつ着実に、中共はエスカレートさせていくことでしょう。(太田)

(続く)ふ