太田述正コラム#4023(2010.5.22)
<皆さんとディスカッション(続x841)>
<きよきよ>
≫どうも私には、北朝鮮との最前線における任務についていたというのに、哨戒艦のソナー要員はもとより、哨戒艦の艦長以下がぶったるんでいたのではないか、と思われてならないのです。≪(コラム#4021。太田)
 ・・・<この>太田さんの疑問・・・のほかに、・・・太田さんは「この北朝鮮による魚雷攻撃は捏造の可能性がある」という含みを持たせていませんでしょうか?
<太田>
 私の書き方がマズかったかな。
 そんな含みは全くありません。
 ところで、疑問と言えば、北朝鮮の方についても疑問があります。
 この事件は、北朝鮮が主張している海上境界線(北方限界戦)の北朝鮮側で発生しています。
 北朝鮮としては、この線を侵犯した韓国の哨戒艦を撃沈した、と言えなくもないのに、どうして早々と自分がやったことを全面否定した↓のだろうか、という疑問です。
 「北朝鮮外務省報道官は21日、韓国哨戒艦沈没・・・「事件のでっちあげと(国際軍民合同調査団の)調査結果は、米国の承認と保護、助長による自作劇だ」と批判した。・・・」
http://www.asahi.com/international/update/0522/TKY201005220104.html
 おまけに米国まで非難しちゃった↑のでは、海上境界線問題を含め、北朝鮮、米国間で平和条約締結が必要だというこれまでの北朝鮮の主張を繰り返す、絶好のチャンスをフイにしたってことになりますよね。
 念の入ったことに、金正日自身が胡錦涛にやってないと言い切ってしまった↓とすると、今後、北朝鮮のマヌーバーの余地は皆無です。
 「北朝鮮の金正日・・・総書記・・・は今月3~7日に訪中した際、胡錦濤国家主席との首脳会談で、・・・韓国海軍の哨戒艦沈没に関し、「我々はやっていない。韓国が勝手に我々の犯行と言っているだけだ」と自身の口から述べていた・・・」
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20100521-OYT1T01220.htm?from=main4
 北朝鮮の哨戒艦攻撃自体の異常性もさることながら、それ以上に北朝鮮自身が現在異常な状況にあることを予感させます。
 なお、本日の朝鮮日報の記事に、もともとの私の疑問と同じ疑問が掲げられてたな。↓
 「・・・対潜音響探知装備(ソナー)を持っている天安がなぜ北の潜水艇の動きや魚雷の発射を探知できなかったのか、という疑問は、なおも提起されたままだ。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20100521000022
 付言しておくけど、米軍は、北朝鮮の犯人たる潜水艦の動向もちゃんと把握してたんだね。
 水深が浅い海域だから、恐らく衛星情報だろう。
 衛星情報だと把握までにタイムラグが生じるだろうから、米軍は韓国軍にこの情報を伝えてなかった、と考えたいところだね。↓
 「・・・哨戒艦「天安」が北朝鮮のヨノ型潜水艇の魚雷攻撃によって沈没した・・・
 <この潜水艇は、>ペンニョン島西側の海底に到着、ほぼ一昼夜水中で攻撃目標を待っていたものと推定される。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20100521000021
 「韓国軍当局は当初、北朝鮮のサンオ型小型潜水艦による攻撃を疑っており、ヨノ型潜水艇の動向は知らなかったものと思われる。しかし、各種の情報を分析した結果、サンオ型ではなくヨノ型が動いたことを把握したという。合同調査団のソン・ギファ情報分析分科長は、「今回の事件前後の数日間、北朝鮮軍の潜水艦・艇2隻が基地を離れ、われわれが識別できていなかったのは事実だ。・・・」と語った。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20100521000022 前掲
<村土俊彦>
 <昨日のコラム#4021>の情報はとてもよかったです。
 関東軍の暴走が災いをもたらしたという見解は間違いですか。
 その背景を知りたいです。
 著者柴田良保さんの本は読んでみたいと思います、<H.Kさん、太田さん、>有難うございました。
<太田>
 1931年に満州を、そして1936年に内蒙古を、日本の保護国化しようとした関東軍の試み・・前者は成功、後者は失敗・・は、どちらも正しいものでした。
 これだけ聞くと、私を極右のキチガイおじさんと思うかもしれませんが、そこはぐっとこらえて、数ヶ月後に公開される私の関連コラムを、じっくり読んでみてください。
 なお、戦前史に係る私の最近のツイッター上でのつぶやきを以下に掲げておきます。
一、第一次世界大戦の時のロイド・ジョージ、第二次世界大戦の時のチャーチル、欧州文明に対する嫌悪感がジョンブルの大局観をさえ狂わせる。
二、太田史観の普及、まだまだですねえ。私から見ると、マルクス主義史観は言うまでもなく、近代主義史観も、司馬遼太郎史観も、そして自由主義史観ですら、「自虐」史観であって、それらに比して私のは極めて常識的な史観なんだけどなあ。
三、敗戦後、ただちに「発症」した日本人の集団的健忘症はにわかに信じがたいほどだ。これは病理現象ではなく、生理現象だと考えるべきだろう。つまり、縄文モードといった補助線を引かずして、理解することは困難だ。
<υΒΒυ>(「たった一人の反乱」より)
 開戦?
http://www.debka.com/article/8794/
<太田>
 こりゃ面白い。
 確かに、イランを狙ったものとしか思えませんね。↓
 ・・・the new buildup of US resources around Iran. It will take place over the next three months, reaching peak level in late July and early August. By then, the Pentagon plans to have at least 4 or 5 US aircraft carriers visible from Iranian shores.・・・6,000 Marines and sailors aboard the Truman Strike Group・・・
 For the first time, too, the US force opposite Iran will be joined by a German warship, the frigate FGS Hessen, operating under American command.(上掲)
 しかし、この話、米国の主要メディアが報じていないのが気になるなあ。
 それにしても、ここまでピュリッツアー賞受賞コラムニストに言われてるオバマ、かわいそうだよな。↓
 ・・・Given Obama’s policies and principles, Turkey and Brazil are acting rationally. Why not give cover to Ahmadinejad and his nuclear ambitions? As the United States retreats in the face of Iran, China, Russia and Venezuela, why not hedge your bets? There’s nothing to fear from Obama, and everything to gain by ingratiating yourself with America’s rising adversaries. After all, they actually believe in helping one’s friends and punishing one’s enemies.
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/05/20/AR2010052003885_pf.html
 言わしておいて、その陰で、実はイラン核施設の攻撃を着々と準備してたとすりゃ、オバマ、やっぱすげえってことになるんだけどね。
 
<きよきよ>
 –宮崎口蹄疫に対する対応について–
 「宮崎県選出の江藤拓衆院議員(自民)は先月22日の衆院農水委員会で「10年前は発生した朝から農水省からファクスで資料が次々に届き、いろんな指示が飛んだが、今回は何の指示もない」と指摘した」
http://sankei.jp.msn.com/politics/local/100508/lcl1005080050000-n1.htm
 この件について、ここまで拡大してしまった原因についての太田さんの見解をお聞かせいただけますでしょうか?
 私の見解は、民主党の対応も確かに遅いと思いますが、ここまで拡大した一番の原因は、10年前に口蹄疫を経験済みであるはずの農水官僚が、「今は政治主導だから」の名目で、政府に対し対策も提案せず、ただ政治家からの指示待ちというサボタージュを行ったからではないかと考えています。
 さらに、この中央官庁からの指示がないため県庁職員も困り果てている状況を見るにつけ、農水官僚が政府を困らせるためにサボタージュを行ったが、結果として国民に「地方分権」の必要性を強く印象付けるという、自分で自分の首を絞める結果になってしまっているのではないかと思われるのですがいかがでしょうか?
<太田>
 農水官僚を買いかぶり過ぎです。
 官僚だってしばしばチョンボをするわけだけど、このところ農水省も不祥事続きで、士気が落ちてるだろうから、なおさらチョンボしがちだってだけのことじゃないかな。
 それでは、その他の記事の紹介です。
 米最高裁判事に指名されたケーガンのプリンストンでの卒論、ゾンバルトの有名な問いかけに答えようとしたものだったんだね。
 興味ある方は、このコラム↓を読んで欲しいが、彼女の能力すごいわ。
 ・・・the perennial riddle, first posed by the German sociologist Werner Sombart, of “Why is there no socialism in the United States?” ・・・
http://www.slate.com/id/2254406/pagenum/all/#p2
 あの有名なヴォルテールだって、単に、イギリスの紹介者だったってこと。
 フランス、というか欧州なんて、その程度の存在なんだからね。↓
 ・・・This stay・・・<in> England in 1726・・・of more than two years provided the impetus and material for one of Voltaire’s best-known works, the Lettres Philosophiques, ostensibly an account of English life and culture, but obliquely a criticism of the oppressive French regime. Voltaire characterises the English as “a strange people”, but “a nation fond of their liberty, learned, witty, despising life and death, a nation of philosophers”. The freedom of thought and its expression which Voltaire discovered there suited his intellect and his temperament, and for the rest of his life he would contrast the liberty found in England and the Low Countries with the narrow-minded censorship and repressive regime of France.・・・
http://www.guardian.co.uk/books/2010/may/22/voltaire-a-life-ian-davidson
 青銅の騎士(コラム#3967)のいわれが出てる。
 ロシアは、欧州の外延だが、欧州よりも更にどうしょうもない存在なんだな。↓
 In the fading afternoon light of Sunday, Aug. 7, 1782, all of St. Petersburg turned out to witness the historic unveiling of Russia’s first public monument, the majestic equestrian portrait of Peter the Great that still stands in what is today Decembrists’ Square. Perched on the marshy banks of the mercurial Neva River・・・
 ・・・as captured especially in Alexander Pushkin’s stirring poem “The Bronze Horseman,” it has also become a terrifying embodiment of the imperial might that willed St. Petersburg and modern Russia into being. ・・・
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703460404575244493103619022.html?mod=WSJ_Opinion_LEFTSecondBucket
 シド・チャリシー(1921~2008年)ってすんばらしい!
 このコラム↓に登場する舞踊のURLを下に掲げておいたから、ぜひご視聴を。
  ・・・She was more beautiful than Monroe, and tougher than Muhammad Ali. There should be statues of Cyd Charisse.
http://www.guardian.co.uk/books/2010/may/22/tony-parsons-hero-cyd-charisse
Gene Kelly & Cyd Charisse – from singin’ in the rain
http://www.youtube.com/watch?v=7YWBOfsXsDA
The Band Wagon – Fred Astaire and Cyd Charisse
http://www.youtube.com/watch?v=yuJxYmJlEHY&feature=related
Cyd Charisse in “Party Girl”
http://www.youtube.com/watch?v=rjvJOmY3q7M&NR=1
 ドイツで彗星の如く18歳の超アイドル歌手現る。↓
 ・・・Only a few short weeks ago, the only place 18-year-old Meyer-Landrut was singing was in the shower. In April, after winning a national competition to determine who would represent Germany at the Eurovision Song Contest in Norway, Meyer-Landrut made it into the German singles charts. Her songs rocketed to No. 1, No. 2 and No. 4 on the charts. Germany has had singles charts for the music industry since 1959. But neither the Beatles nor Michael Jackson achieved what Meyer-Landrut has. By early May she had already recorded her first album and in one week she will represent Germany at the Eurovision Song Contest in Oslo.・・・
http://www.spiegel.de/international/europe/0,1518,695965,00.html
 彼女、イギリスを中心としたポップスの切り貼りフュージョン曲を片言英語で歌ってるのね。
 ヴォルテールの昔も、今も、欧州人のやってきたことと言えば、イギリスのサルマネなんだわさ。
 だけど、音楽までもかね。
 クラシック音楽王国であったドイツも、落ちぶれるところまで落ちぶれたもんだ。↓
 ・・・18-year-old Lena Meyer-Landrut has, perversely, captured the hearts of the nation, by singing in my mother tongue. ・・・
 What is a crime however, is that the songs on her new album — “My Cassette Player” — are a hotch-potch of Adele’s pop songs, Amy Winehouse’s soulless soul, ersatz R’n’B and Lily Allen’s plastic ska-pop — all of which she copies badly. It’s imitation, rather than invention.・・・
http://www.spiegel.de/international/zeitgeist/0,1518,696260,00.html
 呆れるのは、彼女のユーチューブへのアクセス、天文学的数字であること。
 何はともあれ、ぜひご一瞥あれ。↓
 Lena Meyer-Landrut Satellite
http://www.youtube.com/watch?v=esTVVjpTzIY
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 既に始まっちゃってる↑ようなもんだけど、一人題名のない音楽会です。
 そろそろ歌劇を正面からとりあげなければなりますまい。
 小学生時代にカイロのオペラハウスに両親に連れられて何度も行き、歌劇やバレーを鑑賞させられましたが、その中でも最も強く記憶に残っているのがヴェルディの歌劇『アイーダ』です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Aida
 家にも『アイーダ』全曲の組レコードがあり、今でもそのジャケットを鮮明に覚えています。
 何と言っても『アイーダ』の舞台は古代エジプトですし、この歌劇は、オスマントルコのエジプト(含スーダン)副王(Khedive)であったイスマイル・パシャ(Ismail Pasha。1830~95年。「王朝」創設者たるモハメッド・アリの孫。事実上オスマントルコから独立を達成。1879年に英国によって辞任させられる
http://en.wikipedia.org/wiki/Isma’il_Pasha
)が、1869年のスエズ運河開通を記念して古代エジプトを舞台にした歌劇の制作を企画し、その作曲者としてヴェルディが選ばれ『アイーダ』ができあがったという経緯があります。
 この歌劇をカイロで鑑賞したことに、子供ながら、格別な感慨を覚えました。
 しかも、『アイーダ』は、やはりスエズ運河開通を記念して同副王によってつくられたオペラ・ハウス(1969年竣工)で1871年に世界で初めて初演されており、そのオペラ・ハウスで私は(1950年代に)『アイーダ』を鑑賞したのですから、なおさらです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Cairo_Opera_House
 ちなみに、このオペラ・ハウスは、1971年に全焼し、その近傍に日本の援助で新しいオペラ・ハウス(1988年竣工)ができています。
 新旧のオペラ・ハウスの写真が以下に掲げられています。
http://www.cairoopera.org/
 アイーダをご存じのない方は、まずは、そのあらすじを頭に入れて下さい。
http://www.geocities.jp/wakaru_opera/aida.html
[第一幕]
序奏 ~5:54まで聴けばよい。
http://www.youtube.com/watch?v=L6kyk8AkdWs&feature=related
Mario del MonacoによるCeleste Aida
http://www.youtube.com/watch?v=x_Dk_ziyQ7A&feature=related
Placido Domingoによる同上
http://www.youtube.com/watch?v=5T2YOepsOYY&feature=related
Maria CallasによるRitorna Vincitor
http://www.youtube.com/watch?v=Xk0fg67qXuc&feature=related
Sophia Lorenが演じRenata Tebaldiが歌った映画から同上
http://www.youtube.com/watch?v=-03QPuO9XTs&feature=related
Teresa Stich-RandallによるPossente, Possente Ftha
http://www.youtube.com/watch?v=6rlGVvGJ-DM&feature=related
Norman ScottによるMortal, Dilleto Ai Numi
http://www.youtube.com/watch?v=Lf2GwwGbwqs&feature=related
[第二幕]
Metropolitan Opera Ballet による舞踊
http://www.youtube.com/watch?v=dgshWUHUKcI&feature=related
The Grand March(凱旋行進曲):あらゆる歌劇の中の一番のスペクタル場面です。
http://www.youtube.com/watch?v=bNEu09pVD8E&feature=fvw
Maria CallasによるGloria all’Egitto
http://www.youtube.com/watch?v=PsHNcK27X4Q&feature=related
第二幕の終奏
http://www.youtube.com/watch?v=qo–vvnKgQ4&feature=related
(続く)
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太田述正コラム#4024(2010.5.22)
<米人種主義的帝国主義と米西戦争(その4)>
→非公開