太田述正コラム#4326(2010.10.20)
<ヒットラーとスターリン(その1)>(2011.2.10公開)
1 始めに
 ヒットラー/ファシズム(ナチズム)とスターリン/スターリン主義のどっちがより悪か、という議論はこれまで何度かご紹介してきたところです。
 このたび、この議論にほぼ決着をつけたと言ってもよい本が上梓されました。
 ティモシー・スナイダー(Timothy Snyder)の ‘Bloodlands: Europe between Hitler and Stalin’ です。
 そこで、例によって書評をもとに、そのさわりをご紹介したいと思います。
A:http://www.guardian.co.uk/books/2010/oct/09/bloodlands-stalin-timothy-snyder-review
(10月9日アクセス)
B:http://www.literaryreview.co.uk/rayfield_09_10.html
(10月18日アクセス。以下同じ)
C:http://www.economist.com/node/17249038/print
D:http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703794104575546611651621270.html?mod=WSJ_Opinion_LEFTTopOpinion
 ちなみに、スナイダーは、オックスフォードで博士号を取得した米国人で、現在、エール大学の東欧史を中心とする歴史学の教授です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Timothy_D._Snyder
2 ヒットラーとスターリンの悪の比較
 (1)序
 「・・・<この本は、>ほとんど知られていない史実であるところの、ポーランドと日本の同盟<をとりあげている。>・・・」(B)
→以前、(コラム#876、877で)とりあげているので、ご覧下さい。
 英米でほとんど知られていないのは、日本が先の大戦の頃、弱者たるポーランドやユダヤ人を積極的に支援したことは、日本ほど支援しなかった部分もある自分達にとってまことにバツが悪い話だし、更に悪いことには、これは、先の大戦についての、彼等のこれまでの見方に根本的な変革を迫る話だからでしょうね。(太田)
 「・・・スナイダー・・・は、自分の対象を、主題(subject)と場所(zone)において限定した。
 彼は、第二次世界大戦における兵士達や爆撃された犠牲者達の運命については書かなかったし、ユダヤ人のホロコーストに限定することもしなかった。
 彼の主題は、特定の欧州圏における特定の時間枠の中での一般住民達・・それがユダヤ人であるか否かを問わず・・の意図的な大量殺害だ。
 時は、ほぼ1930年・・第二次ウクライナ飢饉の始まり・・から1945年までだ。
 場所は、ポーランド中心部と、おおむね、ロシアの<欧州側>国境の間に横たわっている領域、すなわち、ポーランド東部、ウクライナ、ベラルス、そしてバルト諸共和国だ。・・・
 ・・・この年月、この場所で、想像を絶するところの、全体で1,400万人の無辜の人々・・その大部分は女性と子供達・・が撃たれ、ガスを吸わされ、意図的に餓死させられたのは事実だ。
 スナイダーは<また、>・・・、何が起こったかについての我々の記憶を根本的に正そうとする。
 何と言っても、欧米諸国の大衆は、今なお、大量殺害を「ナチの強制収容所群」、とりわけアウシュヴィッツと結びつけがちだ。
 <他方、>スターリンについては、ナチよりもはるかに大人数を、数百万人を強制収容所(gulag)に託すことによって殺したと思われている。
 しかし、このどちらの想定も不正確なのだ。・・・」(A)
 「20世紀の欧州の真ん中で、二つの全体主義帝国たるナチスドイツとスターリンのソ連が、平時と戦時において1,400万人の非戦闘員を殺害した。・・・
 欧米の連合諸国はホロコーストを止めさせるためにほとんど何もしなかった。
 ユダヤ人達を助けるために直接行動した唯一の政府がポーランド政府であったことを思い出さされることを欲する者はほとんどいない。
 地下ポーランド国内軍(underground Polish Home Army)が行った最初の8つの作戦のうちの7つは、<ユダヤ人>ゲットー<における>蜂起を支援するためのものだった。
 (戦後、共産党当局は、ユダヤ人を助けたポーランド人兵士達を「ファシスト」として処刑した。)・・・」(C)
 「・・・成功したジェノサイドは、成功した大逆罪同様、存在しないのかも知れない。
 なぜなら、誰もそれをあえてジェノサイドとは呼ばないからだ。
 英国によるタスマニア原住民の絶滅、ロシアによる1864年のウビフ(Ubykh)族(注1)のカフカスからの追放、等、一人の生存者も残さない回復不可能な行為が言及されることはほとんどない。
 (注1)ロシア皇帝アレクサンドル2世によるカフカス征服に際し、1864年、北西カフカスの半遊牧民のウビフ族は、全員西部アナトリア半島へ脱出し、積極的にトルコに同化し、かつ定着農民化することで生き残りを図った結果、1992年ウビフ語のできる最後の男性が死亡し、ウビフ語は絶滅した。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ubykh_people (太田)
 ジェノサイドは、一般に、下手人達が戦争で敗れた場合にのみ認められる、ということだ。・・・」(B)
 「『血の土地(Bloodland)』というのは、スターリンとヒットラーの下でのポーランド、ベラルス、そしてウクライナについての歴史書に関し、現代のカンボディアやルワンダについての歴史書に関してと同様、適切な題名だ。
 ティモシー・スナイダーは、ドイツとロシアの間の広大な地域の一般住民・・1922年から33年までの間の<農業>集団化の時期のウクライナの農民達、1941年から45年までの間のユダヤ人達、1939年から1945年の間のポーランド人達、そして1937年のスターリンの「大テロル(Great Terror)」から1944年のドイツ軍の撤退までの間のベラルス人達、に係る道徳的に身の毛のよだつ話に焦点をあてる。・・・」(B)
(続く)