太田述正コラム#5674(2012.8.21)
<フォーリン・アフェアーズ抄(続)(その2)>(2012.12.6公開)
・アンドリュー・F・クレピネビッチ「米軍は東アジア海域と ペルシャ湾に介入できなくなる?–危機にさらされる前方展開基地と空母」(2009年9月号より)
 「Andrew F. Krepinevich, Jr<は、>戦略・予算評価センター所長で、国防長官室国防政策ボードのメンバー。ウエストポイント、米国防総省勤務を経て現職。」
 「・・・精密誘導能力をもつ・・・RAMM(ロケット、大砲、迫撃砲、ミサイル)・・・<のような>先端軍事技術が世界に拡散し、中国のような新興大国、イランのような敵対国が台頭を続けているため、東アジアとペルシャ湾を含む、アメリカが死活的に重要な利益を有する地域・海域で任務を遂行していくのに必要な人的・財的コストは、今後、非現実的なまでに高まっていく。うまく戦力を展開できたとしても、現地で地域防衛の任務をこなしていくのはますます難しくなる。・・・<そもそも、アメリカが>戦力展開能力を維持できたのは、米軍が海や空そして宇宙やサイバースペースなどのグローバル・コモンズへのスムーズなアクセスを確保していたからだ<が、>・・・グローバル・コモンズへの米軍のスムーズなアクセスも次第に脅かされている。・・・
 <その結果、>米軍は、東アジア海域とペルシャ湾に次第に立ち入れなくなりつつある。中国は、沖縄の嘉手納空軍基地、グアム島のアンダーセン空軍基地などの前方展開基地から米軍が自由に作戦行動を取れないようにするために、これらの基地をかなりの精度で攻撃できる通常兵器を装填した弾道ミサイルの大がかりな配備を進めている。東アジアの海域はゆっくりとだが、それでも着実に米海軍、とくに空母が立ち入れない海域になりつつある。・・・
 アメリカ・・・は、これまでも現在直面しているのと似た問題に遭遇しては、これをその都度克服してきた。第二次世界大戦において、空母による戦力展開が非常にうまくいったので、戦艦は次第に時代遅れの存在と化していった。冷戦期に、ソビエトによる核の軍備増強を前にすると、アメリカは(衛星や遠隔早期警戒レーダーなどの)早期警戒システムを導入し、抑止力を強化するために(長距離爆撃機、地上配備型核、潜水艦配備型核の)3元核戦略を考案した。
 ・・・今日のオバマ政権も・・・複雑で困難な戦略上の選択肢に直面し<てい>る<わけだ>。・・・
 <しかし、上述したところの、>トルーマン、アイゼンハワー両<政権による>、ソビエトの・・・封じ込めと抑止戦略を支えたのは、強靱なアメリカの経済力、(同じ立場を共有する諸国その他との)力強い同盟関係、グローバルな基地ネットワークのインフラをバックに活動し、先端技術を持つ米軍の対外プレゼンス(前方展開軍の存在)だった<ところ、これらはすべてかつてに比べて相対的に弱体化しつつある>。 ・・・
 <とはいえ、>アメリカの優位は時とともに失われていくかもしれないが、<幸いなことに、>現状からみて、少なくともあと数世代は優位を維持していけるだろう(その理由は<次の通りだ>)。
 他の大国に比べて、アメリカの人口構成はバランスがとれている。中国、ヨーロッパ、日本、ロシアの社会はアメリカよりも速いペースで高齢化している。若年層人口が突出しているインドも、その社会的・経済的余波を管理していくという非常に難しい局面にいずれ直面する。アメリカは能力あるマンパワーにも恵まれている(もちろんこれを維持していくには、主要な領域で立ち後れている教育制度を改革しなければならない)。天然資源にも恵まれており、この点でアメリカに肩を並べるのはロシアくらいのものだ。さらに、世界でもっとも力強い市場経済システムを持っている。 ・・・」
→インドについての説明は理屈あわせのために適当に書いただけ、という感じですね。
 人口も経済力も軍事力も、全球的に見れば、欧米及び日本以外の諸国が相対的に大きくなっていく中長期的趨勢にあることは紛れもないのであって、その中で米国の地盤沈下も次第に加速して行くことは必至でしょう。
 重要なことは、欧米及び日本の間で、防衛努力の均等化を実現するとともに、新興国中の中共以外の大国たるインドやブラジルやインドネシア等を積極的に欧米及び日本の仲間に引き込んでいく算段を講じることでしょう。
 そのための必要条件、というか必須の呼び水が、米国の全球的前方展開の漸次的取りやめです。(後述)(太田)
・アナス・フォー・ラスムセン「欧州によるスマート・ディフェンスを提唱する ― 緊縮財政時代の大西洋同盟」(2011年9月号より)
 「Anders Fogh Rasmussen 第12代NATO事務総長。デンマークの国際派政治家で、2002年にはEU(欧州連合)の議長を務めた。2001年から2009年までデンマーク首相を務めた後、NATO事務総長に就任。」
 「・・・リビアに対する海と空からの・・・ユニファイド・プロテクター・・・作戦・・・<で>立証された<こと>の<一つ>が、NATOの軍事能力が依然として健在であることだった。・・・
→ここはその通りです。(太田)
 <この>作戦は、軍事費でみれば、アメリカやアジア諸国のそれに比べて見劣りする欧州諸国が、複雑な軍事作戦をめぐって中核的な役割を果たす力を依然として持っていることを立証した。・・・
→ここはほとんどウソであり、この作戦において、米国が次第に軍事的貢献を増やしてくれたおかげでヨーロッパ諸国は何とか面目を保てた、というのが実態でした(典拠省略)。(太田)
 冷戦終結以降、NATOに加盟するヨーロッパ諸国のGDP合計が55%増大したのに対して、防衛支出は約20%減少している。一方・・・、2000―2009年の間に、インドの国防支出は59%増大し、中国のそれはかつての3倍へと上昇している。・・・
 冷戦が終結する1991年まで、ヨーロッパ諸国はNATO防衛予算の34%を負担し、残りの66%をアメリカとカナダが負担していたが、いまでは、ヨーロッパの負担比率は21%へと落ち込んでいる。・・・
→新興国の防衛支出が大幅に伸びているのに、欧州諸国は米国頼みで防衛努力(防衛支出/GDP)を怠れるだけ怠ってきたということです。(この間、GDPが欧州諸国ほど伸びなかったので罪は少しは軽いけれど、日本も同じです。)(太田)
 新興国の軍備強化を欧米に対する挑戦であるとみなしたり、NATOに対する軍事的脅威としてとらえたりするのは間違っている。・・・
→少なくとも、全体主義国家である中共に関しては、このように見ることは間違いです。しかも、このところ申し上げているように、その中共と「非新興国」の国家マフィア主義の軍事/資源大国ロシアがつるんでいますしね。(太田)
 グローバル秩序に利害を共有するプレイヤーの数がかつてなく増えているにも関わらず、それを擁護していこうとするプレイヤーの数が少なくなっている・・・。現在のところ、ヨーロッパは秩序を擁護するプレイヤーの一つだが、あとどれくらい、この役目を果たせるのか、はっきりしない。・・・」
→「擁護していこうとするプレイヤーの数が少なくなっている」こともさることながら、新興国の中に、「グローバル秩序」を自らにとって都合の良い(我々から見て悪しき)形に作り替えようとしている中共のような存在があることの方が問題でしょう。
 結局のところ、筆者は、もっぱら欧州、就中(英国を除いた)欧州大陸諸国、の立場に立って、ご都合主義的な世界軍事情勢「分析」をしている、と言わざるをえません。
 欧州大陸諸国及び日本のこのような姿勢を改めさせるためには、米国が、(既に始めつつありますが、)防衛費を減少させるとともに、(これが何より大事ですが、)前方展開している米軍を、一定の期間を明示して基本的に全面的に米国領内へ撤退させるべきだし、それしか方法はないと思います。 
 それにしても、日本に対して、「独立」して「秩序を擁護するプレイヤー」になることを促すとか、それと平行して、日本やオーストラリア等を取り込む形でNATOの全北半球的存在へと発展的解消を促す、といったことを示唆する記述が全くないのは、何ともやりきれない気持ちです。(太田)
(第二部・完)