太田述正コラム#0508(2004.10.20)
<英独愛読書比較>

1 始めに

 前に英国とドイツでそれぞれ行われた自国の有名人人気投票をご紹介したことがあります(コラム#198)。
今度は愛読書の人気投票です。前回と同様、今回も火を付けたのは英国のBBCであり、ドイツのZDFがマネをしました。
そのそれぞれの10位までの結果を、得票順に下に掲げました(http://www.guardian.co.uk/germany/article/0,2763,1319107,00.html(10月5日アクセス)による)。

<英国人の愛読書>
1 The Lord of the Rings – JRR Tolkien(ファンタジー)
2 Pride and Prejudice – Jane Austen (女性)(純文学)
3 His Dark Materials – Philip Pullman(ファンタジー)
4 Hitchhiker’s Guide to the Galaxy – Douglas Adams(SF)
5 Harry Potter and the Goblet of Fire – JK Rowling(女性)(ファンタジー)
6 To Kill a Mockingbird – Harper Lee(女性)(米)(純文学:テーマは黒人解放)
7 Winnie the Pooh – AA Milne(童話)
8 1984 – George Orwell (逆ユートピア小説)
9 The Lion, the Witch and the Wardrobe – CS Lewis(ファンタジー)
10 Jane Eyre – Charlotte Bronte(女性)(純文学:テーマは女性解放等)

<ドイツ人の愛読書>
1 The Lord of the Rings – JRR Tolkien(英)(ファンタジー)
2 The Bible (ユダヤ)(宗教書)
3 The Pillars of the Earth – Ken Follett (英)(歴史ロマン)
4 Perfume – Patrick S?skind (独)(歴史サスペンス。主人公はフランス人)
5 The Little Prince – Antoine de Saint-Exup?ry(仏)(童話)
6 Buddenbrooks – Thomas Mann (独)(純文学)
7 The Physician – Noah Gordon(米)(歴史冒険小説。主人公はイギリス人)
8 The Alchemist – Paulo Coelho(ブラジル)(寓話。主人公はスペイン人)
9 Harry Potter and the Philosopher’s Stone – JK Rowling(女性)(英)(ファンタジー)
10 Pope Joan – Donna Cross (米)(歴史小説。主人公はイギリス人)

 この二つのリストを見ての私の感想は次のとおりです。

2 英国人の愛読書

 英国人は、自国の作家以外には基本的に見向きもしないようです。同じアングロサクソンの米国人作家すら黙殺に近い状況で、リストには米国人作家の作品が一人だけ含まれています。
 また、ファンタジーが四つも含まれており、童話一つを合わせると、大人も子供も楽しめる作品が全体の半分を占めています。SF一つを更に加えれば、六つが無条件に楽しめる作品、ということになります。
 残りの四つには、実は実用書としての側面があります。
 「1984年」はファシズムないし共産主義、ひいては欧州文明を理解するための作品とも言えますし、「Mockingbird」は米国の恥部である黒人差別問題、ひいては米国を理解するための作品とも言えますし、ジェーン・エアは、女性差別問題等の社会問題を通じて、英国の現代のベースとなったビクトリア時代を理解するための作品とも言えるのです。
 また、「自負と偏見」は、「若い女性がいかに良い旦那さんを獲得するか」を追究した、資本主義社会における商品マーケティング・ノウハウものとも言えます(対談「だから経済学はおもしろい」(アイ・フィール No.30 2004(紀伊國屋書店)に収録)中の岩井克人発言(11頁))。
 これを要するに、英国の人々は、自国の作家が書いた、エンターテインメント小説か実用書を兼ねた小説しか基本的に愛読しない、ということです。実際的(practical)で健康そのものである英国の人々の姿が私には浮かび上がってきます。

3 ドイツ人の愛読書

 これにひきかえ、ドイツ人は明らかに自国の作家を敬遠しています。
 (ちなみに、ドイツ人作家の作品は二つ登場してはいますが、うち一つ作品の主人公はフランス人です。)
 かといって、ドイツ人は世界中から最良の作品を渉猟してきて楽しんでいる、ということでもなさそうです。
 つまりドイツ人は、アングロサクソンに対してコンプレックスがあるようで、彼らの愛読書のうち三つは英国人の作品、二つは米国人の作品です。そして良く見てみると、米国人の二つの作品はいずれも主人公がイギリス人であることからすれば、ドイツ人は重症のイギリスかぶれだと言ってよさそうです。
 聖書が二番目の愛読書だというのも注目されます。ドイツ人は心が満たされずに悩んでいる、ということでしょうか。
 以上からは、ドイツの人々が、自分達自身と自国に自信を失っており、アングロサクソン、就中イギリスに全く頭が上がらない、という寒々とした心象風景が私には見えてきます。

4 終わりに

 皆さんはどうお感じになられましたか。
 米国人の愛読書やわれわれ日本人の愛読書も知りたいものですね。