太田述正コラム#0555(2004.12.6)
<胡錦涛時代の中国(その2)>

3 体も心もボロボロの中国の人々

 (1)体の問題
昨年中国政府によって実施され、先月公表された調査によれば、中国国民の三分の一は、病気になってもカネがなくて医者にかかれない状態であることが分かりました。
これは、医療費の値上がりが所得の伸びを上回っているためです。その背景には、医療機関も独立採算性になっており、収益をあげるために高い薬を使う傾向があること等があげられています。
中国政府は、特に問題が深刻な農村部を対象に、政府管掌の医療保険制度の導入を検討中ですが、受益者負担分を農民達がきちんと払ってくれるかどうか見極めがついていないといいます。
(以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4034347.stm(11月24日アクセス)による。)
問題はそれだけではありません。
病気であるか体調不良の国民が増えていることです。
中国赤十字が今年実施した調査によれば、中国で最も豊かで高学歴の人々が多い北京・上海・広州の住民の7割もの人々が病気であるか体調不良を訴えていることが分かっています。
また新華社は、ホワイトカラー、特に管理職に最も体調不良者が多いと報じています。
中国科学院による今年の別の調査によれば、知識人の平均寿命は58歳であり、全国民の平均より10歳も短いという結果が出ています。中でも一番ひどいのがジャーナリストで、上海でのデータでは平均寿命は何と45歳でした。
その理由としては、現在の40??50歳代は、大躍進政策の結果の大飢饉時代に栄養不良に陥り、開放政策の採用に伴い激変する社会環境の下での適応障害に苦しめられ、その上特に都市の住民は、経済高度成長に伴うストレス・公害・食習慣の変化(脂肪・塩分の取りすぎ)によって痛めつけられていること、があげられています。
国民全体としても、このところ、平均寿命の伸びは全く見られず、下がる徴候すらうかがえます。
最大の問題は、開放政策がスタートした1978年以降、勤務先や人民公社がもはや構成員及びその家族の健康面での面倒を見なくなったというのに、政府がこれに代わる施策を何も講じようとしてこなかったことでしょう。
(以上、http://www.guardian.co.uk/china/story/0,7369,1308921,00.html(9月21日アクセス)による。

 (2)心の問題
共産主義イデオロギーが全く権威を失い、健康面だけをとっても上記のように不安で一杯の現在の中国国民の間で、宗教が復権しています。
中国では公認された既成宗教(仏教・道教・イスラム教・カトリシズム・プロテスタンティズムの五つ)の宗派だけが18歳以上を対象に宗教サービスを提供できることとなっていますが、これに飽き足らない人々を中心に、公認されていない宗教宗派の信者が猛烈な勢いで増えています。(そもそも、公認された宗教の宗派は農村部でほとんど活動をしていません。)
当然ながら公認されていない宗教・宗派の信者数についての統計は存在しないのですが、キリスト教のプロテスタント宗派の伸びが特に著しいと言われています。仏教の各宗派も都市部のインテリを中心に伸びているようです。むろん、中には新興宗教やいかがわしい宗教も少なくありません。
これらの宗教・宗派が信者の獲得をめぐって暴力沙汰を引き起こしたり、当局による弾圧があったり(注2)、既に宗教をめぐる紛争が絶えることがない状況だといいます。
(以上、http://www.nytimes.com/2004/11/25/international/asia/25china.html?pagewanted=print&position=(11月26日アクセス)による。)

 (注2)法輪功(Falun Gong)が1999年に中国政府によって大弾圧を受けたことは記憶に新しい。

このように、中国の人々は、体も心もボロボロの状況に追い込まれている、と言えるでしょう。

(続く)