太田述正コラム#0641(2005.2.25)
<米加関係の冷却化>

1 始めに

 カナダについては、米国カリフォルニア州のスタンフォード大学に留学していた1976年夏に、車でバンクーバー、ジャスパー、バンフ、と観光地を回った、というのが私の唯一の訪問歴であり、十分土地勘がないこともあって、今までとりあげたことがありません。
 本格的なカナダ論は他日を期すこととし、今回は、米加関係の冷却化についてご紹介しましょう。

2米加対立の顕在化

2001年の9.11同時多発テロ以降、次第に米加両国の対立が顕在化してきたと言って良いのですが、これは米欧関係の対立が顕在化してきたプロセスと完全に重なり合っています。
対立点が、通商摩擦・対イラク戦の是非・福祉政策重視の是非・麻薬解禁の是非・同性婚承認の是非・妊娠中絶の是非・死刑存続の是非・宗教観、等である(注1)ことも、米欧関係における対立点とほぼ同じです。

(注1)カナダ政府は対イラク戦に反対で派兵も拒否しているし、カナダでは全国民を網羅した医療保険制度が完備している。また、カナダの二つの州は同性婚を認めているし、カナダ政府は少量のマリファナの使用を合法化する計画を推進するとともに、ヘロイン中毒者にヘロインを無償供与する実験を開始しようとしている。更にカナダでは妊娠中絶は個人の自由とされ、死刑は廃止され、1950年代以降毎週教会に行く人の割合は激減してきた。これらはことごとく、米国、特に米国の保守派の逆鱗に触れることばかりだ。通商摩擦とは、米国による(狂牛病発生に伴う)カナダ牛肉の輸入禁止等だ。

米国とカナダは、ベトナム戦争の是非をめぐる対立など、過去においても政治的に対立したことはありますが、両国の間で、政治だけでなく、社会的・文化的な分野を含めた全面的な対立が起きたのは初めてのことです。すなわち、現在の米国内におけるリベラルと保守の対立の構図において、カナダは米国内のリベラルと共同戦線を構築しているわけであり、米独立革命当時は、現在とは逆に保守的な英領カナダ植民地と急進的(リベラル)な英領13州とが対立していたこと、そしてつい最近の1980年代まで、カナダと米国の一体化が進み、カナダは米国に吸収されるのではないか、と言われていた(注2)ことを思い起こすと、隔世の感があります。

(注2)最新の統計によれば、カナダの輸出の84%は米国向けだし、カナダの輸入の71%は米国からだ。

このような米加対立は、カナダの人口の四分の一近くを占めるケベックのフランス系カナダ人の急進的な考え方が、カナダ全土を席巻し、いわばカナダが欧州化する一方で、最近、米国がとみにキリスト教原理主義化しつつあるために起こったと考えられています。
これにブッシュ政権のユニラテラリズムに対する反発が加わり、現在(昨年11月時点)、(1981年には8%でしかなかった)米国に悪印象を持っているカナダ人は45%に達しており、米加関係は、(1867年にカナダの独立する前のことではあるところの、米国が英領カナダの併合を図った米英戦争の頃は別として)史上最悪の状況であると言って良いでしょう。
(以上、http://www.nytimes.com/2003/12/02/international/americas/02CANA.html(2003年12月3日)アクセス)及び(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A15409-2004Nov26?language=printer(2004年11月27日アクセス)による。)

3 最近の動き

 最近の大きな動きとしては、カナダが米国の対ミサイル防衛システム(ballistic missile defence system)に加入しないことになったことが挙げられます(注3)。

 (注3)カナダが米国と合同で北米防空司令部(North American Aerospace Command=NORAD。航空機・ミサイルによる攻撃から米加を守る)を構成していることを考えると、信じがたい成り行きだ。

 カナダのマーチン(Paul Martin)首相は、加入の意思を表明していたのですが、昨年6月の総選挙で自分の党が過半数の議席を獲得できず、左翼政党を抱き込んでかろうじて政権を維持している状況であることから、方針を変更したと見られています。
 (以上、http://news.ft.com/cms/s/14eab4b0-85db-11d9-9011-00000e2511c8.html、及びhttp://www.csmonitor.com/2005/0223/dailyUpdate.html(どちらも2月24日アクセス)による。)
このままでは、米加の安全保障面での、米英間に匹敵する密接な関係が終焉を迎える日もそう遠くないのかもしれません。

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