太田述正コラム#9887(2018.6.15)
<『岡正雄論文集 異人その他 他十二篇』を読む(その3)>(2018.9.29公開)

 「これに対し天照神話、特に天の岩戸隠れ神話のモチーフと同じ話は、南中国の苗族<(コラム#4149、6547、6961)>やアッサムのカン族<(注6)>やナガ族<(注7)>にも見いだされる。

 (注6)不明。
 (注7)「インドの北東部,ミャンマーとの国境に沿うナガ丘陵を中心にナガランド一帯に居住する人々。人口約50万。ヒンドゥー・カースト社会の影響をほとんど受けず,比較的古い文化の特色を残していることで知られている。人種的にはモンゴロイドに属<す>・・・る。チベット・ビルマ語派系の言語を話すが,部族ごとの方言差が著しく,物質文化や社会組織の面でも地域差が少なくない。・・・
 霊的な力が作物の生育を促進すると信じ,<首狩りの>犠牲者の四肢,頭部を畑にさしておく。また首狩りは通過儀礼の一環として行われることもある。」
https://kotobank.jp/word/%E3%83%8A%E3%82%AC%E6%97%8F-1191401
 「ナガランド州(Nagaland)は、インドの東部にある州の一つ。 州都はコヒマ・・・
 日本軍がインパール作戦に入るまではナガランドは<英国>の支配を受けておらず、インドが<英国>から独立する前日の1947年8月14日に独立宣言を行う。1947年8月15日より、<英国>から独立したインドの一部になっているが、インドからの独立運動が続いており、現在でも一部の勢力はインド政府に抵抗している。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%AC%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E5%B7%9E

⇒ここまでで、岡が、既に、日本文明の起源に関わる地域として、朝鮮半島、南支那、インド亜大陸北東部、を登場させていることを銘記しておきましょう。
 なお、「カン族」は、岡の勘違いによる誤記(「シャン族」?)の可能性が大ですが、困ったものです。(太田)

 ここでは洞窟に隠れた日神を、鶏を鳴かせ、または花を見せておびき出す話となっている。・・・
 この皇室神話の二元性は、日本島における種族混合の結果として解釈される。
 この混合は・・・高皇産霊を主神とする皇室族が日本島に来入し、天照を主神とする先住の母系的種族と通婚するに至った結果生まれたものと思われ<る。>・・・
 神出現の表象に、著しく対照的な二つの型、すなわち、神の出現を、(一)垂直的に表象するものと、(二)水平的に表象するもの、との二つの形態がある。
 (一)の形態では、神は天上にあり、人間界への出現は降臨の形をとり、山上・森・樹梢に降下してくるという垂直的表象である。・・・
 (二)の形態は、神は妣<(注8)>(はは)の国あるいは地下界にあり、彼方(かなた)・彼岸から村々に訪れてくるという水平的出現表象である。・・・

 (注8)「母親、亡き母、女性の先祖」
http://dic.nicovideo.jp/a/%E5%A6%A3

 祖先崇拝についても二型が考えられ、(一)の天神信仰に基づく祖先崇拝は、父系祖先的および英雄神的傾向が強く、(二)では、死者崇拝、祖霊崇拝、特に母系祖先的色彩の強い血縁的祖先崇拝の傾向が著しい。
 (一)の垂直的表象に類似するものは、朝鮮半島から中央アジア、シベリアの、諸民族に顕著に現れているのに対し、(二)の水平的表象、母祖先崇拝・女神崇拝・霊魂崇拝などは、東南アジアおよびオセアニアの古層文化にみられるところである。
 また仮面・仮装の異形の来訪者を祖先・祖霊とみる、いわゆる原始秘密結社的な宗教・社会的形態はメラネシアやニューギニアに分布している。
 ふつうに神道といわれているものも、神社の祭典の諸儀礼も、少なくともここの二つの宗教形態の重層・混合から成立しているのである。」(8~10)

⇒折口信夫(1887~1953年)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%98%E5%8F%A3%E4%BF%A1%E5%A4%AB
が「信仰上の他界概念を水平表象と垂直表象で論じ」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%82%A4
始めたのがいつなのか、詳らかにしませんが、(折口より10歳以上若い)岡がこの論文を書いた時点では、既に論じられていたと思われるだけに、この箇所で、岡は何らかの形で、少なくとも折口には言及して欲しかったと思います。
 ちなみに、折口は、「琉球<における>・・・ニライカナイを水平の、オボツカグラを垂直の他界と指摘している」(上掲)ところ、柳田國男(1875~1962年)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E7%94%B0%E5%9C%8B%E7%94%B7
は、ニライカナイの概念を、「本土の常世国」、或いは、「日本神話の根の国と同一のものとしてい」(上掲)るところです。
 なお、この時点までに、岡は、更に、中央アジア、シベリア、東南アジア、ニューギニア、オセアニア、メラネシア、まで登場させています。
 まさに、大東亜戦争の戦域とほぼ符合していることに、こそばゆいような感覚が・・。(太田)

(続く)