太田述正コラム#9899(2018.6.21)
<松本直樹『神話で読みとく古代日本–古事記・日本書紀・風土記』を読む(その5)>(2018.10.5公開)

 「「天」とはこの場合、「高天原」を指す。・・・
 このスサノヲの発言を受けて、「国つ神」側のアシナヅチは、「それならば恐れ多いことです。
 娘を奉りましょう」と言い、スサノヲの立場を全面的に認めている。
 そして、これ以後、スサノヲから言われるままに行動し、ヲロチの脅威を克服してゆくのである。・・・
 つまり、スサノヲのヲロチ退治とは、「天」の価値基準に従った国作りの一環なのである。
 河川の氾濫は、被害と同時に肥沃な土地も人々に与えてくれる。
 暴れ川をコントロールできた時、より豊かな稲の稔りがもたらされるのだ。
 スサノヲによる国作りは、この後、スサノヲの子孫であるオホクニヌシ<(注7)>へと引き継がれてゆく。・・・

 (注7)大国主。「『日本書紀』本文によるとスサノオの息子。また『古事記』、『日本書紀』の一書や『新撰姓氏録』によると、スサノオの六世の孫、また『日本書紀』の別の一書には七世の孫などとされている。・・・
 『出雲国風土記』においても多くの説話に登場<する。>・・・
 国津神の代表的な神だが、天孫降臨で天津神に国土を献上したことから「国譲りの神」とも呼ばれる。出雲大社の祭神。(天津神の主宰神である天照大神に対し、国津神の主宰神とされる。)」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%9B%BD%E4%B8%BB

⇒私は、ずっと以前から、どうして、天武天皇が、歴史書を二つ作らせたのか、という疑問を抱いていたのですが、ネットをざっとあたってみた感じでは、いまだに説らしい説もなさそうですね。
 「『日本書紀』は本伝+異伝複数で、多様で相対的。『古事記』は物語一本で、絶対的」という「編纂方法」の違いがある、
https://nihonshinwa.com/archives/763
たって、『日本書紀』だけで、よさそうにしか思えませんからね。
 しかも、先にではなく、後で、『風土記』まで、これに加わるんですから・・。(太田)

 <この話は、>不思議なことに出雲国風土記には載っていない。
 ・・・大和王権の側で作られた可能性もあるのだ。
 では、大和王権はどのようにして、これを作ったのだろう。
 ・・・実は、スサノヲのヲロチ退治・・・神話の話型は世界中に分布していて、「ペルセウス・アンドロメダ型神話」と呼ばれている。・・・
 ペルセウス・アンドロメダ型神話<(注8)>のプロットはおよそ次の通りである。

 (注8)ペルセウス・アンドロメダ神話は、「エチオピア王国の王女・・・アンドロメダーは母カッシオペイアがその美貌が神に勝ると豪語したことから、怒った神々によって怪物(ケートス[・・鯨やイルカのような大きく膨れた胴体に犬の頭部を持ち、下半身は魚。尾鰭は扇形で二つに割れている・・])の生け贄とさせられようとして、波の打ち寄せる岩に鎖で縛りつけられた。そこを、ゴルゴーンの三姉妹の一人、メドゥーサを退治してその首級を携えてきたペルセウスが通りかかった。ペルセウスは、怪物にメデューサの首を見せて石にし、アンドロメダーを救出した。アンドロメダーは後にペルセウスの妻とな・・・り、ペルシア王家の祖となったペルセウス<等>・・・を生んだ」、というものであり、スサノオのヤマタノオロチ退治神話のほか、聖ゲオルギウスのドラゴンの奇跡神話も同型の神話とされている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AD%E3%83%A1%E3%83%80%E3%83%BC
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%B9 ([]内)
 聖ゲオルギウスのドラゴンの奇跡神話は、「伝説の成立は11世紀から12世紀頃のグルジアといわれ<、>・・・カッパドキア・・・に、毒気は振りまく、人には咬み付く、という巨大な悪竜がいた。人々は、毎日2匹ずつの羊を生け贄にすることで、何とかその災厄から逃れることとなったのだが、<やがて、>・・・羊を全て捧げてしまった人々は、とうとう、人間を生け贄として差し出すこととなった。そのくじに当たったのは、偶然にも王の娘であった。・・・そこにゲオルギオスが通りかかった。・・・「キリスト教徒になると約束しなさい。そうしたら、この竜を殺してあげましょう」・・・こうして、異教の村はキリスト教の教えを受け入れた。・・・<後に、>ゲオルギオスはキリスト教を嫌う異教徒の王に捕らえられ、・・・斬首され、殉教者となった」、というものだ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%81%96%E3%82%B2%E3%82%AA%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%82%AA%E3%82%B9

一、怪物(多くの場合、大蛇や竜の形)が人々に災いをもたらす。
二、怪物は定期的にやってきて、一人の乙女を生贄として要求する。
三、そこに英雄が現れ、怪物を退治する。
四、最後に、英雄と乙女とが結婚する。・・・

⇒ペルセウス・アンドロメダ神話では、二にいう「定期的にやってきて」はいませんし、聖ゲオルギウスのドラゴンの奇跡神話は、四にいう「最後に、英雄と乙女とが結婚する」わけではありませんから、松本の、この型の神話の紹介は、不正確です。
 なお、聖ゲオルギウスのドラゴンの奇跡神話は、キリスト教布教の暴力性とこのことを含むキリスト教の暴力性が暴力性の連鎖をもたらすことを示唆していますね。(太田)

 大和王権の<この><神話>の一節は、民衆の神話を利用して作られた・・・<と>考えるのが自然であろう。」(35~37)

(続く)

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