太田述正コラム#9943(2018.7.13)
<松本直樹『神話で読みとく古代日本–古事記・日本書紀・風土記』を読む(その24)>(2018.10.27公開)

 「・・・日本書記の編纂以前には、「日神(ひのかみ)系」と「天照(あまてらす)系」という<建国神話>の二系統があって、それが日本書記の主文・一書に形を留めていることが知られている(北川和秀<(注59)>・・・)。

 (注59)「文学博士(学習院大学), 文学修士(学習院大学)・・・群馬県立女子大学文学部国文学科教授」
https://researchmap.jp/read0019780/

⇒松本自身もそうですが、これまで、彼によって引用された学者は全員国文学者・・上代文学研究者ということになるらしい・・
http://www.quon.asia/yomimono/waseda/seminar/2012/09/14/3545.php 前掲
であるところ、記紀や風土記は、神代の時代の部分を含め、当然国史学者も研究対象にしているはずであるところ、国史学者の著作の引用が全くないことが気になります。
 互いに(?)縄張り意識がある、ということなのでしょうか。(太田)

 天上界の主宰神を、日神とするか、アマテラスとするかという違いなのだが、その違いが用字・用語の異同にも一致していることから、二系統の存在が証明されているのである。
 第五段から第七段までの諸伝が、どちらの系統に属しているか、明確なものだけを示しておく。

[第五段] 主文「日神系」 一書第六 「天照系」 第十一 「天照系」
[第六段] 主文「天照系」 一書第一 「天照系」 第二 「天照系」 第三 「日神系」
[第七段] 主文「天照系」 一書第一 「天照系」 第二 「日神系」 第二 「日神系」

 第五段の主文は「日神系」である。
 日神の名は「大日孁貴(おほひるめのむち)」<(注60)>で、その注記の中に、アマテラスという別名が紹介されている。

 (注60)「「オホヒルメノムチ」とは、オホ(大)ヒ(太陽)ル(助詞のノ)メ(女)ムチ(尊貴)であり、「偉大なる太陽の女神」の意味である。国内を照らす神であるから、明らかに太陽神である。・・・
 <古事>記によると火の神を生んだイザナミの命が黄泉の国に去り、後を追った夫のイザナギの命が禁忌を犯し、妻の腐乱死体を見て逃げ出し、日向の橘の小門の阿波岐原で禊ぎをした。その時に、左の目から天照らす大御神、右の目から月読の命、鼻から建速須佐の男の命が生まれたとある。紀でも同様の話が載るが、別伝では、イザナギ・イザナミの神は、天下に主たる神を生もうとして日の神を生んだという。これを「大日孁貴」と名付けた。本文注によると、この神は「於保比屡咩能武智(おほひつめのむち)」といい、一書には「天照大神」といい、また「天照大日孁尊」というとある。この神は光り輝く美しい神で、国の内に照り通るほどであったという。」(國學院大サイト・辰巳正明)
http://k-amc.kokugakuin.ac.jp/DM/detail.do?class_name=col_dsg&data_id=68210
 辰巳正明(1945年~)。「二松学舎大学国文科卒業。・・・成城大文学博士。大東文化大学講師、助教授、教授、國學院大學教授・・・<同>名誉教授。・・・専攻は日本上代文学。 」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BE%B0%E5%B7%B3%E6%AD%A3%E6%98%8E

⇒辰巳も国文学者ですね。
 「ル(助詞のノ)メ(女)ムチ(尊貴)」の「ル(助詞のノ)」の意味が分かりませんでした。
 なお、「「ル(助詞のノ)メ(女)ノ(助詞)ムチ(尊貴)」ではないかと思うのですが・・。(太田)

 この注記には、「日神系」と「天照系」とを融合させようという意図を読み取ることができる。
 主文内の注記は、それ以後の主文・一書のすべてに対して効力を持つから、第五段主文の日神は第六段主文の天照として読むことができる。」(189)

(続く)