太田述正コラム#708(2005.4.30)
<米単独開戦前夜(?)の朝鮮半島(その1)>
1 始めに

 このシリーズで取り上げるのは最新の朝鮮半島情勢です。
 タイトルだけから言えば、「風雲急を告げる北東アジア情勢」(未完)シリーズの中で取り上げるべきかもしれませんが、「風雲・・」は日中台三カ国間の問題に焦点をあてているので、別立てにしました。
 そして、内容的に言えば、「ブッシュの一般教書演説と北朝鮮(続)」シリーズ(コラム#640、644)(未完)の続きに位置づけるべきところ、コラム#644を執筆して以降、朝鮮半島情勢が大きく変化した、と考えていることから、新しい表記のようなタイトルにしました。従って、「ブッシュの・・」シリーズは完結扱いにさせていただきます。
 いずれにせよ、朝鮮半島情勢に関する比較的最近のコラム(#582?584、586、587、617、640、644)に最低限目を通しておいていただくと、本シリーズの理解が深まると思います。

2 米韓関係の険悪化

 (1)北朝鮮の核問題に関心のない韓国
 2月10日に北朝鮮は核保有「宣言」をしましたが、韓国の人々は、北の核の脅威など意に介していません。
 「宣言」直後に実施された世論調査によれば、58.9%の人が「宣言」を脅威だと受け止めておらず、若くて教育程度の高い人ほどその傾向が強いことが分かりました。そして、対北経済協力の凍結や経済制裁をすべきだと考える人は22.8%しかいませんでした(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200502/200502170028.html。2月18日アクセス)。
 ノ・ムヒョン政権は、この「宣言」は、援助をせしめることを狙った北朝鮮のいつものこけおどしに過ぎない、と総括して見せました。しかもあろうことか、今年の国防白書から、北朝鮮を主要な敵であるとしてきたこれまでの記述を落としたのです。(http://www.atimes.com/atimes/Korea/GD08Dg01.html。4月8日アクセス)
 更に国防相は、北朝鮮は、核を使ったらおしまいだと思っているはずであること、核弾頭をミサイルに搭載する能力がまだないのでイリューシンIL-28に核爆弾を搭載するしかないが、北の核爆弾は4トン以上と考えられているところ、IL-28の爆弾搭載能力は3.5トンなのでそれも不可能であることから、実際問題として核を使うに使えない状態である、と述べ、心配がないと力説しました(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200502/200502170032.html。2月18日アクセス)。

 (2)風前の灯火の米韓同盟
  ア 韓国側からの動き
 韓国のノ・ムヒョン大統領は、3月に韓国の空軍士官学校で行った演説で、100年前に朝鮮半島で日本・ロシア・支那が戦ったとき、朝鮮半島の人々はなすすべもなくこれを見ているよりなかったけれど、今では自らを防衛するための十分な力を持っているとした上で、在韓米軍を韓国の同意なくして朝鮮半島以外(台湾?)に投入することは認められないとし、10年以内には韓国軍の指揮権を完全に取り戻し、独立した作戦が遂行できるようにすべきだ、と述べました。(http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2005/03/21/2003247213。3月22日アクセス)
 これは、掛け値なしの米韓同盟訣別宣言である、と言って良いでしょう。
 ノ・ムヒョン大統領が「有言実行」の人であることは、疑う余地がありません。
 北朝鮮の金正日体制が崩壊する徴候を見せ始めた場合に対処するための米韓連合軍司令部の作戦計画5029(Op-Plan 5029。2003年策定)の2005年改訂版を作成する作業が、内容についてのノ・ムヒョン政権のクレームで今年1月から中断していることが、4月中旬に明るみに出ました。
 この作戦計画では、核や生物・化学兵器などが外部に流出する恐れや大量難民の発生に対処するために早期に軍事行動とることになっていますが、ノ・ムヒョン政権は、早期の軍事行動は北側を刺激して南北間の戦争になる懸念があり、また、北朝鮮内部の「異変」の段階から「戦時」とみなし、韓国側が「平時」に持っている韓国軍の指揮権が、在韓米軍司令官が兼務する米韓連合司令官に移る点についてもノ・ムヒョン政権は、主権侵害の要素がある、と反発した結果である、と報じられています。
 米国政府が同意しない限りは、この作戦計画そのものが白紙化されることにはならず、この作戦計画の改訂前バージョンが生き続けることにはなりますが、いずれにせよこれは、ノ・ムヒョン政権が、金正日体制崩壊を望んでいないこと、そして米韓同盟よりも北朝鮮との宥和を優先すること、をこの上もなく明確に示すこととなった大事件です。
 (以上、http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20050415i317.htm(4月16日アクセス)、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200504/200504150031.html(4月16日アクセス)、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-collapse16apr16,1,706382,print.story?coll=la-headlines-world(4月17日アクセス)、及びhttp://english.chosun.com/w21data/html/news/200504/200504200024.html(4月21日アクセス)による。)

  イ 米国の側からの動き
 以上ご紹介したような非常識な韓国側の動きに対し、米国側から激しい反発が出るのは当然です。
 今年3月にソウルで開催された米韓有識者会議で、米側から次のような意見が提示されました。
 米国のあるシンクタンクの研究員は、米国は朝鮮半島に、その費やしているコストと犠牲に見合う死活的利害を有さないので、米韓同盟は解消されるべきだと主張しました。
 また、米下院外交委員会の顧問は、2003年は、米韓同盟50周年であり、日米修好150周年であるとともに、台湾関係法成立25周年の年であったけれども、この年、日米と米台については、これらを祝う決議が米上下両院で圧倒的多数で可決されたものの、米韓については、当時既に険悪化していた米韓関係から、50周年を祝う決議は上院だけで可決され、下院では上程すらできなかった、と指摘しました。
 更に、米空軍大学の教授は、前世紀の日本による朝鮮半島の併合も、朝鮮戦争の勃発も、朝鮮半島の政権の同盟戦略の誤りの当然の帰結であった、と言い切りました。
 (以上http://english.chosun.com/w21data/html/news/200503/200503250034.html及びhttp://english.chosun.com/w21data/html/news/200503/200503250027.html(どちらも3月26日アクセス)による。)

(続く)