太田述正コラム#7612005.6.22

<没落する米国(追加)>

(6)創造性ある人材の枯渇

 昨年、四回にわたって「没落する米国」シリーズ(コラム#308312428429を書き、その没落要因として、(1)無駄だらけの米国経済、(2)経常収支赤字限界に?、(3)一人あたり所得の減少、(4)科学技術の相対的衰退、(5)ソフトパワーの陰り、の五つを挙げたところですが、追加して、もう一つ挙げておきましょう。

米カーネギー・メロン(Carnegie Mellon)大学経済開発論教授のフロリダ(Richard Florida) は、著書 The Flight of the Creative Class: The New Global Competition for Talent 2005 において、知識社会となった現代において最も重要である、創造性ある人材(注1)が米国で枯渇しつつある、と主張しています。

(注1)創造性ある人材とは、科学者、技師、芸術・文化・娯楽関係者、作家、(大学教師・弁護士・会計士等の)専門職の人々をいう。

彼らは世界中で45カ国程度にしか居住しておらず、その数は1億5,000万人くらいであって世界総人口の10%弱に過ぎない。

創造性ある人材は、米国で言えば、労働力人口の30%を占め、著しくばらつきはあるものの、製造業従事者の2倍、サービス業従事者の3倍の平均収入を得ている。

フロリダは、人材やテクノロジーは固定資産ではなく流動資産であるとし、創造性ある人材は、新参者を歓迎し、人材の多様性を嘉するとともに、多彩で質の高い生活を送るために必要なアメニティー(住宅・大学・劇場・レストラン等々)を提供することができる人口密度の高い都市に、地域や国を超えて惹き付けられる、と指摘します。

そして彼は、創造性潜在力(creative potential talent。創造性ある人材の数とその教育水準)、テクノロジー(特許と研究開発支出)、そして寛容性(宗教・女性の権利・民主主義・科学等に対する態度で計測)、という三つの要素からなる世界創造性指数(Global Creativity Index)を、創造性ある人材が居住する45カ国についてそれぞれ産出してみました。

その結果分かったことは、一つは、現在の米国の世界創造性指数は、三つの要素の中の寛容性においては20位まで落ちてしまっているけれど残りの二つの要素においてはいまだ抜きん出ている(注2)ため、スウェーデン、日本、フィンランドに次ぐ4位であることであり、もう一つは、支那やインドの世界創造性指数は非常に低い、ということです。

(注2)米国は、あらゆる国の創造性ある人材を受け入れて発展してきたが、先の大戦前後までは、科学面での英国の人材の受け入れ、技術面でのドイツの人材の受け入れの貢献度が大きい。

(計算の仕方が今一つ判然としませんが、それにしても、経済の長期低迷にあえぎ、しかも厳格な移民規制を行ってきた日本の世界創造性指数の高さは意外でもあり、うれしくもあります。)

その上で、フロリダは、創造性ある人材は国を超えた流動性があるので、国単位の比較は余り意味がなく、都市単位の比較こそ行われなければならない、と主張します。

そして彼は創造性ある人材が好む都市として、傑出した四大都市であるロンドン・パリ・ニューヨーク・東京のほか、米国以外では、ダブリン・アムステルダム・コペンハーゲン・ストックホルム・ヘルシンキ・マドリッド・トロント・バンクーバー・モントリオール・シドニー・メルボルン・パース・ブリスベーン・ウェリントン・上海・台北・バンガロール・ドバイを、そして米国ではボストン・ワシントン・シアトル・サンフランシスコ・オースチン・ミネアポリスを挙げています。

何だ、米国の都市も沢山出てくるではないか、と思われるかもしれません。

(米国の都市6に対し、その他の国の都市が21、という数は、現在覇権国であるところの米国の経済力が世界経済に占めるウェートにほぼ見合っています。)

しかしフロリダに言わせると問題は、米国の各都市が創造性ある人材を惹き付ける力がこのところ、年々急速に衰えてきていることなのです。

その理由としてフロリダは、米国で所得格差が拡大(注3)し、社会の保守化・キリスト教原理主義化が進展し、その上、2001年の9.11同時多発テロ以降、外国人に対する敵意が増大していること等を挙げています。

(注3)所得格差が拡大するということは、創造性ある人材とそれ以外の人材との有機的連携が困難になるということであり、創造性ある人材にとっては困った状況だ。

その結果、米国が特定の国に凌駕されることは当分考えられないものの、米国の相対的な経済力は急速に衰えていくだろう、というのです。

(以上、書評としてhttp://www.amazon.com/gp/product/product-description/006075690X/ref=dp_proddesc_0/002-1455171-4350437?%5Fencoding=UTF8&n=283155http://www.creativeclass.org/_flight_article_pearlstein042505.shtml、及びhttp://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/06/16/AR2005061601247_pf.html著者インタビューとしてhttp://www.alternet.org/story/22104/http://www.creativeclass.org/_flight_article_sydney050805.shtml?oneclick=true、及びhttp://billdoskoch.blogware.com/blog/_archives/2005/5/1/639233.html(いずれも6月19日アクセス)による。)