太田述正コラム#10397(2019.2.25)
<丸山眞男『政治の世界 他十篇』を読む(その24)>(2019.5.15公開)

 「権力の獲得・維持・増大の為に取られる凡ゆる方策を政治技術(politics as art)といいます。
 例えば革命の戦略戦術といわれているものは被抑圧集団が権力を獲得する為の政治技術に他なりません。
 権力維持の技術は現状維持の政策(policy of status-quo)として現われ、権力拡張は国際政治上の用語をつかえば帝国主義政策(policy of imperialism)として現われます。
 ハンス・モーゲンソー<(注27)>はこうした権力維持及び増大と並んで権力誇示の技術を威信の政策(policy of prestige)と呼んで、この三者を政治政策の基本形態としております(H. Morgenthau. Politics among Nations<(注28)>.p.50f)。

 (注27)1904~80年。「ドイツ・コーブルク生まれ[のユダヤ人]。ベルリン大学、フランクフルト大学、ミュンヘン大学および国際研究大学院で法学と政治学を学ぶ。フランクフルト大学で国際法を教えていたが、ナチスによる迫害を恐れて1937年に<米>国に移住。
 国際政治を権力闘争とみなす現実主義学派の[、ラインホルド・ニーバー(Reinhold Niebuhr。〈1892~1971年〉)、ジョージ・F・ケナン(George F. Kennan。《1904~2005年》)と並ぶ]代表的論者。外交の行動準則として「力 (power) によって定義された利益」としての国益 (national interest) を提起した。この「国益」に照らして、<米国>によるベトナム戦争を批判した。
 現実主義者として著名であるが、一方で軍事力のみに頼ることは危険であるとも結論付けている。」2度にわたって、米国務省顧問を務めている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%82%A6
https://en.wikipedia.org/wiki/Hans_Morgenthau ([]内)
 ニーバーは、「ドイツ系移民の<子で>・・・家族は家ではドイツ語を話した。・・・エール神学校・・・学士・・・修士・・・。・・・自由主義神学者、政治や社会問題についてのコメンテーター・・・
 キリスト教的リアリズムの枠組みの内部において、ニーバーは第二次世界大戦における、<米国>の行動、反共主義及び核兵器開発の支援者となった。しかし、ベトナム戦争には反対であった。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC (〈〉内も)
 ケナンは、父親がスコッチ・アイリッシュ、継母がドイツ系。プリンストン大卒。外交官にして歴史学者。
https://en.wikipedia.org/wiki/George_F._Kennan (《》内も)
 (注28)Politics among Nations: the Struggle for Power and Peace, (Knopf, 1948, 2nd ed., 1954, 3rd ed., 1960, 4th ed., 1967, 5th ed., 1978, 6th ed., 1985, 7th ed., 2006).(上掲)

⇒この際、米国の現実主義国際政治学者3人組についての私の評価を記しておきます。
 まず、モーゲンソーとニーバーですが、それぞれ、ユダヤ系ドイツ人、ドイツ人2世、として、両大戦における米国の敵性国系人であったことを上書きすべく、必死になって米国に過剰適応し、米国のその時々の対外政策を支持し、正当化し続けただけのことであり、まことにお見事な「現実主義」的な生き様であることよ、と私は言いたくなります。
 なお、2人ともベトナム戦争には反対していますが、これは、米国の当時の知識人の大部分の姿勢に同調しただけのことでしょう。
 同調しなければ、識者とはみなされなくなってしまうのでそれを回避しただけだ、ということです。
 また、ケナンは対ソ封じ込め政策の提唱者として有名ですが、これは、日本の戦前の対ソ政策についてのジョン・マクマりー
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%83%BC
の認識、ひいては、日本の戦前の対ソ政策・・但し、横井小楠コンセンサス部分・・そのもの、の剽窃に他ならない、と以前に指摘した(コラム#省略)通りであり、私は、ケナンを全く評価していません。
 そもそも、現実主義だろうが何主義だろうが、国際音痴の米国は、国際政治学の墓場である、というのが私の見解です。
 そんなことだから、杉山元ら、帝国陸軍の指導者達によって、米国は、将棋の駒のように使われてしまい、しかも、いまだにそのことに全く気付いていないのです。(太田)

 最後の権力誇示のための威信という問題について一寸註釈しておきましょう。
 政治的紛争において興味ある点は権力を見せびらかすことが、屡々現実に権力を増大するのと同じ効果を持つことであって、逆に威信を失うということは、固有の軍事警察力に何ら変動が無くても権力にマイナスに作用するのです。・・・」(89)

(続く)