太田述正コラム#8372005.8.27

<岡田民主党破れたり(その2)>

 (本篇は、8月25日に上梓しました。)

3 党首の質

 (1)始めに

 結論から先に言えば、岡田さんは参謀としてしか使い物にならない人物であるのに対し、小泉さんは指揮官としてしか使い物にならない人物であるところ、そんな岡田さんが民主党の指揮官になったことが、必然的に民主党の敗北をもたらしたのです。

 (2)岡田・小泉の人物比較

  ア 両者の似ている点

 もっとも、岡田さんと小泉さんには似ている点もあります。

 よい点の第一としては、お二人とももカネにクリーンなところです。

 もっとも、これは岡田さんも小泉さんも都市(四日市と横須賀市)を選挙区にしており、利益誘導をする必要が少ないという点では同じですが、岡田さんの場合、JUSCOが後ろ盾になっていて、選挙資金や選挙のための人手の手配をする必要がないためであるのに対し、小泉さんの場合、選挙地盤を祖父及び父から受け継いでおり、そもそも選挙のことを心配する必要がないため、と若干事情を異にします。

 よい点の第二としては、お二人とも超がつくほどけれんみのない人間であるところです。

 岡田さんについては、私は選挙に出る前と選挙が終わった後に、(岡田さんがそれぞれ政調会長と幹事長代理の時)都合二回会っており、具体的なことは控えますが、このことはその時の経験から間違いありません。一方、小泉さんについては、残念ながらお目に掛かったことがないのですが、郵政民営化関連法案が国会で否決されたら衆議院を解散すると宣言していたとおりに今回解散したことだけをとっても、いかに言行一致の人であるかが分かります。

悪い点としては、お二人とも人心収攬術に長けていない点です。

岡田さんについては、これも具体的なことは控えますが、最初に会った時は口が足らず、二度目に会った時はよけいな一言があり、二回とも私は呆れ、不愉快な思いをして別れた記憶があります。

これまで随分沢山の政治家と話をする機会がありましたが、そんな思いをさせられた政治家は岡田さんと鈴木宗男氏くらいです。媚びへつらう者以外の官僚に対しては罵声とおどしを投げかけるのを常とした鈴木宗男氏もすこぶる不愉快だったけれど、鈴木氏の場合は、メリハリをものすごくきかせて官僚の人心を収攬するという、究極のテクニックを駆使していたと見ることができるのに対し、岡田さんの場合は、単に先天的に人心収攬の能力が欠如しているだけだ、と思っています。

小泉さんについては、子分もいなければ(学者や経済人の)ブレーンもいないという記事を読んだことがありますが、彼は孤高の人、群れない人であって、そもそも人心収攬をしようという気などさらさらない人ではないか、と思います。森さんのはからいがなければ、彼は永久に派閥(森派)の長になどなれなかったはずです。(森さんとは、首相になられるより前でしたが、一度だけお目に掛かったことがありますが、一言二言話をしただけで、抗いがたい魅力を感じ、森ファンになってしまった記憶があります。)

このように見てくると、岡田さんは元自民党の、そして小泉さんは歴とした自民党の政治家ですが、お二人とも、自民党系の政治家としては共通点の多々ある、新人類的なめずらしいタイプの政治家であって、より直截的に申し上げれば、一昔前であれば政治家としてふさわしくない人物である、と言っても良いでしょう。

 イ 両者の似ていない点

しかし、他方でお二人ほど対蹠的な人物はありません。

岡田さんは参謀としてしか使い物にならない人物であるのに対し、小泉さんは指揮官としてしか使い物にならない人物であるところです。

小泉さんについては、これも具体的な名前は秘しますが、私の複数の知人が異口同音に、小泉さんは、政策の理解能力が乏しく、そのくせ思いこみの激しい人物だ、と証言しています。個々の選択肢の詳細を理解し、整理した上で、指揮官の判断に供するようなことができるような人物ではない、つまり参謀は到底務まらないということです。

その代わり、小泉さんは、大局観にすぐれ(大衆が何を欲しているかを感知する能力があり)、単純明快な作戦目標(例えば「拉致問題の解決」、あるいは「郵政民営化」)を設定することができ、指揮官としてのパーフォーマンスに長けている(自らがフォトジェニックであるだけでなく、演劇的空間を創造することができ、一見(いちげん)のお客を惹き付けることに長けている)、という点で指揮官としてはうってつけです。

だからこそ今まで、小泉さんは、自民党の総裁になるだけの一般自民党員の票を集めることができ、また、首相になるだけの一般有権者の票を自民党に集めることができたのです。

以上の正反対が岡田さんだとお考えになればよろしい。

岡田さんは参謀として、民主党内で最も優秀であったが故に、歴代の民主党の指揮官から重宝がられ、政調会長から幹事長代理へ、そして幹事長代理から幹事長へと、確実に「昇任」して行きます。

民主党にとって悲劇だったのは、昨年の5月に党代表の菅直人さんが国民年金の未納問題で突然辞めざるを得なくなり、次の代表に内定していた小沢一郎さんまで同じ理由で代表就任を固辞するに至った時、岡田さんが民主党ナンバー2の幹事長まで登り詰めていたことです。

このような危機にあって、民主党はナンバー2の岡田さんを緊急避難的に党代表にしてしまい、その結果指揮官として最も不適格な人物が民主党の指揮官に就任してしまったわけです。

しかも、その直後の7月に行われた参議院銀選挙で、自民党には勝てなかったものの善戦し、民主党は比例区で第一党になったため、岡田さんは引き続き民主党を率い、今回の総選挙を迎えることになってしまったのです。

(続く)