太田述正コラム#8462005.9.1

<政権交代の必要性について>

1 始めに

「郵政解散の意味」シリーズと「岡田民主党敗れたり」シリーズは、互いにオーバーラップしつつも、前者では主として国家戦略について自民党や民主党の政治家に成り代わって論じ、後者では主として今次総選挙に臨む民主党の戦術ミスについて論じているところですが、私のHPの掲示板に、「マニフェストだけ見ていては民主党の本当の姿は分からない。民主党は改革政党とは言えない。(だから民主党に政権をとらせてはならない。)」という趣旨の投稿があったので、本篇を上梓することにしました。

今次総選挙で「民主党に投票を、と<は>言えない」と(コラム#840で)申し上げたところですが、私自身は民主党に票を入れますし、一刻も早く自民党を政権の座から引きずり下したいという私の思いにも何ら変化はないからです。

2 政党の評価

 有権者は、政党を評価するにあたっては、その党の公式文書と党の首脳の発言を手がかりにして行うべきであり、憶測や党首脳以外の議員の発言等で政党を評価すべきものではありません。

 そうしないと、日本の政治家はいつまで経ってもタテマエとホンネを使い分けて永田町の世界に閉じこもり、有権者の目からは何が行われたのかさっぱり分からないという状況が続くことになりかねません。

 そこで、本題です。

3 「改革」とは何か

 日本の「改革」というと、利益誘導(権益擁護)政治からの脱却を指すということになっているようですが、私は前回の総選挙の際に(コラム#184185で)、「日本の権益擁護政治が社会の発展的変化を阻害している、というのは神話に過ぎ<ない。>」と指摘しました。

そして、日本の「改革」とは、一つは「危機管理が不得手だという・・・<日本の>短所を何とか補う」ことであり、「もう一つは<日本が>、・・公共財、特に純粋な公共財である安全保障・・広義の安全保障には少子化(及びこれと裏腹の、移民受け入れ)や女子「差別」問題、等も含まれる・・・への対処が不得手・・・という短所を何とかする」ことだ、と申し上げました。更に、「危機管理と安全保障に関する短所を補う方法については、共通する部分が多い」とも申し上げました。

 その上で、「民主党が政権をとれば、新旧権益擁護集団の交替が促進される」し、「民主党は・・・抜本的な地方分権の推進を謳っており、これが実現すれば、中央の政治においてはおのずから外交・安全保障問題がクローズアップされてくるはずだから」政権交代を実現すべきだ、と結んだところです。

 今でもこの考えに全く変わりはありませんが、若干舌足らずだったので、この際、補足しておきましょう。

4 「改革」の対象

 「新旧権益擁護集団の交替」の最大の眼目は、国家権力の行使に関わる官僚機構を権益擁護集団の座から引きずり下ろすことです。これは役人いじめでも何でもなく、本来権益擁護集団(=私益追求集団)であってはならない官僚機構を、本来の姿である公益(その中心は公共財の整備・維持)追求集団に立ち戻らせる、というしごく当たり前のことです。

 これがなぜ日本の「改革」の中心課題かと言うと、官僚機構が生涯所得最大化互助組合たる権益擁護集団化していて公益の追求が疎かになっている上、官僚の(官僚機構の外の)営利・非営利組織への天下り先を確保するために、天下り先の営利・非営利組織に係る助長・規制行政がゆがめられ、あるいは天下り先の営利・非営利組織からの財・サービス調達価格が上積みされる結果、天下り先の営利・非営利組織・・公的機関すべてと主要企業等・・がスポイルされ、ひいては日本全体の活力が失われているからです。

 そして、官僚機構と(戦後ずっと政権政党として官僚機構のご用聞役を果たしてきた)自民党、(戦後ずっと官僚OBに貢ぎ物を献上させられてきた)財界は、官僚機構を中心とした三位一体の癒着関係にあります(注)。

 (注)これこそ日本型政治経済体制のコアなのだが、このコアのコアたる官僚機構が堕落し、権益擁護集団と化したのは、吉田ドクトリンの墨守による公益追求精神の鈍磨に加えて急速な平均寿命の延伸によって官僚の第二の人生が長期化したためだ。更に、今やグローバル化の時代となり、鎖国を旨とする日本型政治経済体制の維持は不可能になっている。

 財界が、不祥事が続出したために一旦中止していた自民党への政治献金を約10年ぶりに昨年再開したかと思ったら、今次総選挙に当たって1993年以来初めて自民党に対する支持を公式表明したhttp://www.tokyo-np.co.jp/00/sei/20050825/mng_____sei_____004.shtml。8月25日アクセス)のは、この三位一体の頸木からいまだに財界が解放されていないことを示しています。

5 結論

 自民党と民主党のどちらが官僚機構の非権益擁護集団化に熱心であるかは、今回の両党のマニフェストを読み比べれば歴然としていますが、この違いのよってきたるゆえんがお分かりいただけたことと思います。

 このような観点からは、小泉さんが、俗耳に入りやすい郵政民営化を最大の争点にしたのは、争点ずらし以外の何ものでもありません。なぜなら郵政公社は、国営の時代から国家権力の行使に関わる業務を行っておらず、上記の意味での官僚機構に属してはいないからです。

 また私は、前回の総選挙の時はまだ、「民主党が外交・安保問題についての本格的議論をいまだに避けていることに大きな不満を抱」いていました(コラム#185)が、今次マニフェストを見る限り、着実に民主党内での議論は深まっています。

まさに政権交代の気は熟しているのです。

そんな時にかくもお粗末な岡田さんが党首とは、残念としか言いようがありません。