太田述正コラム#8752005.9.22

<六カ国協議の「進展」をめぐって(その2)>

3 ブッシュ政権豹変の理由

 (1)緊急度の低い北朝鮮問題

 ブッシュ政権が態度を豹変させた理由は、同政権が四面楚歌の状況に陥っている今、そのうち相対的に一番緊急度の低い北朝鮮の核問題の解決は先送りにせざるをえなかった、ということなのです(注4)。

 (注4)共同声明中で軽水炉に言及することについては、さすがにブッシュ政権にとって苦渋の決断だったようだ。中共政府が、これを飲まなければ、六カ国協議が破綻した責任は全面的に米国にある、と言うぞ、と米国政府を脅し、ブッシュ大統領自身の決断によって軽水炉への言及を米国が飲んだ、と報じられている。(http://www.nytimes.com/2005/09/20/international/asia/20korea.html?pagewanted=print(9月21日アクセス)及びこの記事を紹介したhttp://www.sankei.co.jp/news/050921/kok002.htm。(9月21日アクセス)参照)

 より緊急度の高い問題とは、カトリーナ・イラン・イラクの三つです。カトリーナとイラクのせいで、ブッシュ政権の支持率は、政権発足以来最低に落ち込んでいることはご存じだと思います。

 (以上、ワシントンポスト前掲、FT前掲、及びNYタイムス上掲による。)

 (2)ハリケーン・カトリーナ

 今回の六カ国協議の共同声明について、ブッシュ大統領がコメントしたのは、カトリーナ対策についての閣議の席上であった(NHKTVニュース)ことが示しているように、ブッシュは既に4回もカトリーナの被災地に足を運び、落ちるところまで落ちた政権イメージを回復しようと大わらわです(カトリーナについては、コラム#850853855参照)。

 (3)イラン

 イランの核問題が、にわかに緊急度を増したのは、アフマディネジャド(アフマ)がイラン大統領に就任して以来です(コラム#769?772775

 アフマは就任後、余り日も経たないうちに、ウラン濃縮計画の再開を認めました(コラム#828)。

 それだけならまだしも、アフマが17日に国連総会で行った演説は、彼に対する残されたかすかな期待をも打ち砕くとんでもない代物でした。

 彼は、やたらとコーランの引用をちりばめつつ、またイスラエルへの非難を繰り返しつつ、2001年の9.11同時多発テロが本当にテロリストによって実行されたか疑わしい、と米国諜報機関による陰謀説に立脚した見方を開陳し、あろうことか、カトリーナによってもたらされた惨害は米国の自業自得であると述べ、更に米軍はイラク駐留の自国部隊に毒を盛っているなどということまで口走ったのです。

 この演説の結果、それまでは米国の度重なる説得にもかかわらず、慎重姿勢を崩さなかった英仏独のいずれも、つまりはEUが、イラン核疑惑問題の国連安保理への上程に賛意を表するに至りました。

 とはいえ、ロシア・中共・インドが依然、国連安保理への上程に反対している(注5)ので、まずは、期限を切ってイランに査察受け入れを迫り、その間にイランが受け入れなければ国連安保理に上程するという決議をIAEAで通すべく、米国と英仏独は連携して関係国への根回しを開始しています。

(以上、http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/09/18/AR2005091801144_pf.html(9月20日アクセス)による。)

(注5)米国から見れば、久しぶりに新悪の枢軸三カ国が揃い踏みをした、といったところか。

なお新悪の枢軸については、ロシアはコラム#281?283、インドはコラム#284?288315301?303317318、中共は#347?350352353参照。

この動きに対し、イランはNPTからの脱退を示唆つつし、強く反発しています(http://www.nytimes.com/2005/09/20/international/middleeast/20cnd-iran.html?ei=5094&en=ee29eafe16b09191&hp=&ex=1127275200&partner=homepage&pagewanted=print。9月21日アクセス)。

 (4)イラク

 イラクはイラクで、スンニ派不穏分子のテロ・ゲリラ活動が新たなフェーズに入り、もはやその根絶は期しがたいことがはっきりしてきています。

 新しいフェーズとは、自爆テロリストのイラク人化と、テロのターゲットのシーア派一般市民へのシフトです。

(続く)