太田述正コラム#9182005.10.22

<ガーディアンの靖国神社ブログ(その2)>

3 その後の成り行き

 (1)ブログ突然閉鎖?

 20日の時点で、私のホームページの掲示板で、ガーディアンの靖国神社ブログ(http://blogs.guardian.co.uk/news/archives/2005/10/17/not_bowing_to_pressure.htmlの新規投稿受付が終わったのではないか、と申し上げたところですが、今朝、私の5回目の投稿が掲載されていることを発見すると同時に以降の投稿がなされいることも知って、更に6回目の投稿(その訂正を含む)をしておきました。

 この5回目の投稿以降のやりとりを、すべてそのまま(邦訳の上)、以下に収録させていただきました。

<太田>

Sho-chanさん。私の議論が間違っていることを示す国会議事録を、よろしければお示しください。(私の議論は、いくつかの二次資料源によっています。)

<ご指摘のように、>「少数の<大政翼賛会に所属しない>無所属の議員が<先の大戦中の日本の議会に>いた」ことが重要なのです。例えば、米国の共和党と民主党の違いは、大政翼賛会に所属していた議員達の間の違いよりも小さい上、遺憾ながら米国の議会には無所属の議員がほとんどいませんね。

それに大政翼賛会は、戦後の日本の政治システムのさきがけなのです。すなわち、<戦後においては、>自民党が社会党と癒着しながら、日本型の社会主義的諸政策を追求しつつ、権力の独占を続けてきました。(大政翼賛会システムとの違いは、再軍備を回避した、という点だけです。)

もう一つ。<特高が幅をきかせていたとおっしゃいますが、>グアンタナモ<米軍基地における収容者の扱い>を見てもお分かりのように、戦時下においては、いかなる民主国家であれ、自由や人権は制限される傾向が見られるものです。

もしあなたが日本語を読めるのなら、私のホームページ(http://www.ohtan.net)に掲げるコラムの中の#4748をご覧下さい。

LJPさん。あなたの世界観は誤りです。

戦争をやっている国がプロパガンダで言ったことを信じてはいけません。

(もっとも、大英帝国は第二次世界大戦で日本と戦うことによって崩壊しました。その限りにおいて、日本が(プロパガンダとして)掲げた戦争目的は達成されたことになります。これは皮肉なことだと思いませんか。私は<どの国によるものであれ、>植民地化は悲劇であり愚行であったと考えていますが、私としては英国に同情を禁じ得ません。)

歴史的事実と向き合ってください。

(価値を共有した者同士による、最初の日本とアングロサクソンの同盟であった)日英同盟が終わった1920年代から(価値を共有した者同士による、二回目の日本とアングロサクソン同盟である)日米同盟が始まった1950年代の間に生じた歴史の逸脱は、主として未熟な覇権国たる米国の軽率さと人種的偏見がもたらしたものなのです。

ところで、<私が、小泉さんは若いときから靖国神社に行っていたのであり、首相になったから行くなと言うのはいかがなものか、と指摘したことに対し、あなたは、若いときから売春宿に行っていたからといって、首相になってからも売春宿に行ってよいということにはならない、と言われましたね。>私は小泉さんの知的洗練度はブッシュのそれといい勝負だということは認めますが、小泉さんは、地球温暖化という科学的事実を否定したり、国際刑事裁判所問題など国際法の進展に反対したりしているブッシュに比べてはちょっとはマシのように思うのですがいかがですか。これはブッシュがキリスト教原理主義者(born again Christian)だからですかね。

LJP

太田述正さん。

私の世界観が「歪んでいる」とのあなたのご指摘は、私の書き方がまずかったことによる私の文章の誤読です。私は正反対のことを言ったつもりです。

 私は小泉首相及び彼の内閣が日本と支那、及びアジア全体の長期的な共通の利益のためにダメッジ・コントロールをすることを願ってやみません。彼はロンドン・スクール・オブ・エコノミックス卒(在籍したのみ(太田注))であり(一つの言葉しか使えないブッシュよりマシで)二つの言葉が使えます(ブッシュはスペイン語ができるのでは?(太田注))が、大英帝国のリアルポリティークの伝統に染まりすぎているように見受けられます。

 他方、われわれ支那人としても、日本とよりよい相互関係を構築するために、やらなければならないことが沢山ありそうです。

 ところで、私はあなたのホームページにアクセスしてみました。面白いですね。私の乏しい日本語の力で、あなたの北方領土についてのコラムを読ませていただきました。大変勉強になりました。

 それにしても、あなたの該博な歴史知識と、当然のことながら軍事に関する知識に大変感銘を受けました。このあなたの該博な知識とあなたの豊富な経験を生かしてこのサイトにおける議論を行っていただいたことに対し、御礼申し上げるととともに、今後ともお元気で。

Sho-chan

 確かに民主主義には色々な意味があります。太田サンのおっしゃることは、私にソ連時代にロシア人が、自分達のシステムは「中央集権的民主主義」であると言っていたことを思い起こさせます。これは、「統制された、ないし操作された民主主義」なるものが存在する可能性を示唆しています。ということは、まず言葉の定義で一致する必要がありそうですね。あなたの要求した「国会議事録」については、私としては、あなたが依拠した「二次的資料源」を先に教えていただきたいものです。

<太田>

 LJPさん。おっしゃられたことに心から感謝します。

 Sho-chanさん。私は日本の民主主義が第二次世界大戦の終わりに向かっての期間、必然的にある程度「劣化」したことを認めます。しかし、第二次大戦中の日本を外部から直接的な軍事的脅威を受けていない現在のロシアと比較するのは全くもって不適切です。

 しかも日本は、(普通選挙、報道の自由、機能している司法、下院で多数を占めた政党(または複数の政党)が内閣を形成する、という)完全な民主国家に、1920年代には早くもなっていました。それに対しロシアは、最近のソ連の崩壊以前には民主国家であったことがありません。

 また、私のあなたに対する証拠開示要求に対し、あなたが、自らが依拠した二次的資料にすら言及することを避けつつ、私の方こそ先に証拠を見せろ、とおっしゃったことは、議論のルールに反しますし、あなたの見解は、全くの推測以外のなにものでもなかったのではないか、との印象を持ちました。

 そろそろ議論を閉める時が来たようです。

 私は楽しく議論をすることができました。ガーディアンがこの議論の場を提供されたことに感謝の意を表します。

<太田>

 当然のことながら、私は現在のロシアの「民主主義」ではなく、ソ連の「民主主義」について論じるべきでした。

 しかしながら、私の意のあるところはお酌み取りいただけた、と思います。

(続く)