太田述正コラム#9402005.11.10

<日本が破綻させた日米韓同盟(その1)>

1 始めに

 戦後の東アジアの国際秩序は、日米と米韓の名実相整った同盟関係及び日韓の事実上の同盟関係からなる、日米韓三国同盟がロシア(ソ連)・中共・北朝鮮と対峙することで維持されてきました。

 しかし私は、拙著「防衛庁再生宣言」(日本評論社)の中で、日米同盟が、日本の行政府と米軍との関係を見る限り、名存実亡状態に陥っており、その責任は日本にあると指摘しました。

 また、このコラムで私はかねてより、米韓関係と日韓関係が悪化してきていることを累次指摘してきたところです。

 その責任もまた、基本的に日本にある、という問題提起を今回してみたい、と考えました。

うまく行けば、乞うご喝采。

2 破綻した日米同盟

 私が2001年に防衛庁を飛び出し、選挙に出たのは、長年にわたる吉田ドクトリンの墨守が、日本の安全保障担当者達にモラル・ハザードを引き起こしており、(つまり、やる気のなさと事なかれ主義が蔓延していて、)その結果米軍は日本の安全保障担当者達に怒りと軽蔑の念を抱くに至っており、そのために日米同盟は名存実亡状態にある、ということを訴えるためでした。

 そのために、「防衛庁再生宣言」も世に問いました。

 この捨て身の行動が、何の反響も呼ばなかったことは、当時の私の国内情勢判断がいかに甘かったかを物語っています。

 湾岸戦争が起こったり、北朝鮮の不審船や核・ミサイル問題が大きな話題になったといっても、依然日本の大部分の人々は日本の安全保障問題に関心を持っておらず、とりわけ防衛庁内局にいた人間が何を言おうと、全く関心がない(注1)ことを思い知らされ、愕然とした時には後の祭りでした。

 (注1)確か1990年に2週間の防衛研究所主催の研修を一緒に受けた天木直人氏(研修には出ていたが、全くネットワーキングを行おうとしない人物だった記憶がある)が、これも確か2003年に駐レバノン大使の座を擲ち、外務省を飛び出し、以来外務省批判を行っているところ、彼の方が私よりはるかに注目を集めている。イラク戦争に対する姿勢は、彼と私とでは180度異なるが、問題意識に共通する所も少なくない。この際、エールを送っておきたい。

 このコラムの読者の中には、さすがに日米同盟が名存実亡状態にあると言われて気にならないような極楽とんぼの方はおられないと信じていますが、そう言われれば気にはなるけれど、いくら何でもそんなことはないだろう、と思われる方はおられるかもしれません。

 確かについ先だってもブッシュ米大統領は、小泉首相について「国際社会の中で親友の一人」であると持ち上げており(http://www.asahi.com/international/update/1107/010.html11月7日アクセス)(注2、日米同盟関係は順風満帆のように見えます。

 (2)これは、ブッシュがブラジル訪問中の6日に行った発言だが、その中で相も変わらず、「父のブッシュ元大統領が第2次世界大戦中、海軍パイロットとして日本と戦ったことを紹介した上で、日本がその後民主化したと称賛」している。日本は戦後民主化したわけではない、ということを、一体いつになったら誰かがブッシュにレクしてくれるのか。

 しかし、ブッシュの発言は、何でも米国の言うことを聞き、しかも惜しげもなく米国にカネを貢いでくれる日本の小泉政権に対するリップサービスに過ぎません。

 私が防衛庁にいた当時に比べて、日米同盟関係の名存実亡状態が一層悪化したことは、米軍だけでなく、米国防省の幹部たるシビリアンまで、対日不信を公言するようになったで分かります。

 ローレス(Richard Lawless米国防省アジア太平洋担当副次官(defense deputy undersecretary for Asia and the Pacific)は、10月末に東京で、次のように語りました。

 米国の東アジア安全保障政策の礎である米日同盟は、「<日本の>地域的諸問題に関するいつ果てるともなき対話」によって傷つけられる懼れがある。・・われわれは、不決断・無関心・先送り、によって失われた時間を取り戻すために、<日本に係る米軍再編>協議をあらゆる課題について劇的に促進させる必要がある。」

 異例にも、この時点で前防衛庁長官であった石破茂衆議院議員は、このローレス発言に対し、「私は、小泉首相が<安全保障問題就中>沖縄<の基地問題>に関心がないとは言わないが、彼はこの問題の解決に精力を注いでいない(does not have a strong commitment to solving)。・・<また、>内閣官房・防衛庁・外務省は懸案事項を解決すべく良く連携して仕事をしているとは言えない」と首相及び関係省庁を批判した上で、「<ローレス副次官>が怒ったフリをしているとは思わない。私は彼が本当に怒っていると思う。・・彼が一ヶ月ちょっと前に私に会いに来た時、彼は「どうして日本はこの問題を何とかできないのか。一体誰が本件について責任を負っているのか」と言っていた。」と理解を示しました。

(以上、http://news.ft.com/cms/s/81bcc9d2-4540-11da-981b-00000e2511c8.html1026日アクセス)による。)

このように、米国の政府関係者が対日不信を募らせているのですから、そのことが次第に米国の有識者達の日本観に影響を及ぼし始めているとしても驚くにはあたりません。

外務省は8月25日に、今年2月から3月にかけて米国で実施した世論調査の結果を公表しましたが、それによると、「日本は信頼できる友邦」と回答した一般人は72%で、調査を始めた1960年以来最高となり、 有識者でも90%が日本を「信頼できる」としたことだけを見ると、日米関係には何の問題もなさそうです。

しかし、「アジア地域の中で最も重要なパートナー」を有識者に聞いたところ、日本が48%でトップとなったものの、昨年調査の65%からは大幅に低下し、逆に2位の中国が昨年の24%から38%と評価が急上昇しているところを見ると、日米関係の先行きには暗雲が立ちこめている、と言えそうです。 

(上記世論調査結果はhttp://www.nikkei.co.jp/news/main/20050825STXKE051825082005.html11月3日アクセス)による。)

(続く)