太田述正コラム#10722006.2.6

<ホントのコワーイ話(その1)>

1 始めに

 ずっと以前に、私が自分のホームページの掲示板で、これまで日本という国をフィールドワーカーとして観察してきた、と書いて一部の読者の皆さんの反発をかったことがあります。自分達がサル扱いされた、と「誤解」されたようです。

 本篇では、またまた皆さんの反発をかうことが必至である上、友人・知人の何人かを失うことになるかもしれないのですが、私の日本国観察記録の一端をご披露したいと思います。(一部内容をぼかしています。)

2 コトバが鴻毛より軽い国日本

2001年に選挙で落選した翌月の8月下旬、友人の防衛庁キャリアから電話がかかってきました。

「再就職先が決まっていないのなら、世話をしようか」というのです。恐らく当時の官房長と相談をした上でのことでしょう。丁重にお断りしました。

彼も官房長も当然私の「防衛庁再生宣言」には目を通していたはずですから、私が再就職がらみの防衛関連企業との癒着について厳しく防衛庁、とりわけ防衛庁キャリアを批判していたことは百も承知の上で、私に声をかけてきたことになります。

 この友人は、私の口封じのために、再就職話を切り出すような人間ではありません。だから、彼らは、私の著書での主張など、選挙向けのスローガンに過ぎず、私が本気で防衛庁の構造的腐敗を糾弾しようとしているなどとは考えもしなかったらしい、ということです。

 またその頃、私の主張をよく知っている防衛庁のOBが、私の再就職先の企業を彼の友人が見つけてくれた、と連絡してきました。ところが、話を聞いてみると、その企業は、防衛庁の官房長から一本「太田をよろしく」との電話をもらうことが条件だ、と言っているというではありませんか。この話もまた、丁重にお断りしました。しかし、この防衛庁OBがなかなか納得してくれなかったのには、弱りました。彼もまた、私の主張なんぞは全く意に介さなかったようです。

 以上は、防衛庁関係者の話です。

 それ以外の話としては、こういうことがありました。

 私の主張に共鳴したとして、選挙運動で私が某県を回った時、ボランティアで道案内を務めてくれた民主党支持の学生がいました。その学生が、わざわざ上京したと思ったら、大卒を対象とする一般幹部候補生試験を受験したいので、太田さんに口をきいてもらえないか、と私に頼むのです。誰が口をきいても、結果は左右できないよ、と言い含めて(注1)お引き取りを願ったのですが、裏切られたようで、まことに哀しい気持ちになりました。

 (注1)公務員の再就職(出口)は、企業との癒着の下で不明朗な形で行われるというのに、公務員への就職(入口)では、不必要なほど厳格で公平な試験が行われる。まことに日本は面白い国だ。

私が防衛庁内局に勤務していた時、当時の防衛政務次官(もちろん自民党)が、「自分の選挙区の高校生が二人防衛大を受験しているので、合否が分かったら、発表前に教えてくれ」、と指示してきたのには弱った。一般にこのような要請を政治家から受けた場合は、合格発表の前日に、合否と、不合格の場合、適当に「かなり合格ラインを下回っています」とかを伝えれば済む(合否いずれにせよ、その政治家は、受験生の父兄からしかるべき御礼をもらうことになる)のだが、上司たる政治家からの指示となると、仮に不合格の場合、一体どれくらいの成績だったのか聞かれると正直に答えなければならない。他方、受験成績順位何番までを合格とするかは、入学辞退者が必ず出るので、その年の辞退者数を見積もった上で、防衛大学校と内局が協議して決める。最悪の結果が出た、上記二人は、どちらもこの合格ラインをほんの少し下回る成績だったのだ。これでは合格ラインを下げよ、と言われる懼れがある。そこで、私は一計を案じ、防衛大に依頼し、この二人の得点を下方修正して順位をはるか下位に下げた一覧表を偽造してもらって、政務次官のところにこの表を持参して説明した。彼はすこぶるつきの不愉快そうな顔をしたが、ご納得いただけた。

 また、私の友人から、「懇意にしている大監査法人の幹部の公認会計士に、太田さんという、役所を、その腐敗体質を告発する形で飛び出して選挙に出て落選した人がいて、再就職先を探している、という雑談をしたところ、その公認会計士が、自分が心当たりの企業を紹介してもいいと言ってくれた」、と連絡があったので、私はさっそくその公認会計士のオフィスを訪問しました。

 その彼が、ある具体的な企業名を出して、そこに再就職する気はあるか、と問うので、「先方と私のニーズが合致したら、喜んで再就職させていただきます」と答えたところ、初対面だというのに、「自分が、この人を受け入れろと言ったら、一も二もなくその企業はあなたを受け入れるのだ。その言い方は何だ。そんな態度では民間では通用しない」と叱りとばされ、オフィスを追い出されました。

 私が愕然としたのは、彼の無礼千万な言動もさることながら、監査法人が監査対象たるクライアント企業といかに癒着関係にあるかを実感したからです。どうやらカネと人事をめぐる癒着関係は、公務員の世界だけではなさそうだ、ということをその時はっきり自覚しました(注2)。

 (注2)その1?2年後、この公認会計士は、粉飾決算に関与した廉で、逮捕された。しかし、公務員とは違って、公認会計士は、みんな企業と癒着しているわけではないことだけは、誤解のないように申し添えておく。

 日本は何という国だ、とクラーい気持ちになったものです。

 いずれにせよ、彼もまた、腐敗体質の告発者としての私の行った言挙げになど、一顧だに与えなかったわけです。