太田述正コラム#10762006.2.10

<防衛施設庁談合事件等に思うこと(続々)(その1)>

1 始めに

 防衛施設庁談合事件のその後の新聞報道等を見ていると、建設部とそのOBの話から余り広がりを見せていない感じがします。このまま、幕引きがなされるようなことは、今度こそないように祈っていますが、検察やメディアの尻をひっぱたく気持ちで、本稿を記しました。

2 天下りシステムは全省庁共通

 (1)始めに

 理念型的に単純化して言えば、中央官庁(関係団体を含む)の業務には、政策立案執行と官需調達とがあります。

 どの官庁でも、この二つの業務をやっていますが、官庁によって、両者のウェートが違います。総務省などの政策官庁は、前者のウェートが高いのに対し、国土交通省などの官需官庁は、後者のウェートが高いことはお分かりいただけると思います。

 どちらにせよ、企業との癒着の下でOBが天下りをしていることは同じです。

 しかし、官需官庁の方がどう考えても、天下りがらみの逮捕者がよく出ることは否めません。

 それはどうしてなのでしょうか。

 (2)官需官庁のケース

 まず、官需官庁について、私が比較的よく知っている防衛庁の例をご説明しましょう。

 防衛庁では、キャリア/準キャリアや自衛官の将官クラスの退職者(「OB」)については、事務次官・官房長・官房秘書課長のラインが、天下りシステム全体の管理・運営を行っているほか、キャリアの天下りについては、個別の天下り人事を行っています。

 キャリアについては、退職後、10年間最終年俸を保証するという時代もあったようですが、現在では最終年俸の8割以下で、期間もはるかに短くなっているようです。

 防衛庁で官需たる大型の装備品(艦艇・航空機等)等は、製造・供給できる企業が限定されるため、基本的に随意契約(随契)で調達されます。

随契にあたっては、積算内訳の中で一般管理費(利益)が計上されます。特定の随契相手企業がこの「利益」が毎年平均してどれくらい帰属するかは、防衛庁側に装備調達長期計画があるので、計算可能です。この計算を踏まえて、防衛庁側は、「OB」を、当該企業とのネゴを経て天下りさせて行くのです(注1)。

 (注1)こんなことは、入庁して数年も経った防衛庁キャリアなら、誰でもうすうす知っている。その頃から私は、絶対に天下りはしない、と心に決めていた。なお、1999年の調達実施本部不祥事以降も、このような天下り実態に全く変化はない。

他方、小物の装備品や建設・土木工事については、入札が行われ、落札企業から調達がなされます。

完全競争入札で調達が行われる場合もありますが、建設・土木工事の場合は、ほとんどにおいて指名競争入札が行われます。

 指名競争入札では、ことごとく建設・土木業界の仕切り役の采配の下、談合が行われています(注2)。

 

 (注2)防衛庁に限らず、あらゆる官需の建設・土木工事の全てについて談合が行われている、と大手建設・土木業界の友人(複数)が、入庁後10年くらい経った頃に教えてくれた。ただしここ数年来、公共事業費の縮小と、談合防止法制の強化によって、談合抜きで指名競争入札が行われるケースが散見されるようになっているようだ。談合が行われる場合とそうでない場合とで、落札価格において20?30%の開きが出るのが通例だ。

 特に、「OB」が天下っている企業に関しては、何年間かを平均して、毎年、その「OB」の年俸額以上の利益が当該企業に帰属するように、官製談合の下で、計画的に当該企業を入札で指名し、落札させていきます。逆に言うと、「OB」を天下りさせる際には、防衛庁側から天下り先企業に帰属利益「計画」を示した上で、その企業と天下り「OB」受け入れ数やその年俸額について「契約」を取り交わすわけです。(注3

 (注3)このカラクリは、さすがに入庁して20年経っても分からなかったが、ある日、建設・土木企業に天下った、準キャリアの知人の「OB」が教えてくれた。それでもまだ半信半疑だったが、仙台の施設局長をやった時に、指名入札の実態を見ていて、ようやく納得した。今回は、こちらの不祥事が浮上したわけだ。

 随契対象企業であれ、指名競争入札対象企業であれ、天下った「OB」は全く仕事はしていません。やることと言えば、時々、防衛庁の本庁や防衛庁の出先(地方の部隊や施設局等の機関)に、(多くの場合天下り先の企業の人と一緒に)顔を出して昔話に花を咲かせるだけです。

 (3)政策官庁のケース

(続く)