太田述正コラム#11042006.3.3

<中共経済の脆弱性(その4)>

 中共当局自身、3月1日に公表した中国科学院の報告書の中で、世界のGDP計の96%を占める59カ国を対象に2003年現在の資源利用効率を算定したところ、中共が、5種類(一次エネルギー、淡水、セメント、鋼材、常用非鉄金属)の資源を対象に算出された単位GDP当たりの資源消費量で、世界平均の1.9倍に達し、ビリに近い56位であることを明らかにしました。

 これはいかに中共経済に無駄が多いかを示しており、中共の公害のひどさを推し量らせるものです。

(以上、http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2006/03/02/2003295312、及びhttp://j.peopledaily.com.cn/2006/03/02/jp20060302_57878.html(3月3日アクセス)による。)

それもこれも、中共では、政治が経済を政策(法制)、カネ、そしてヒト等の面にわたって全面的にコントロールしていること、しかもその政治が共産党支配の下にあって、経済のコントロールが、もっぱら共産党の党益ないし共産党の有力党員達の私益に資する形で行われていること、更に中共国内においてその事実を指摘し批判することが禁じられていること、に由来しています。

6 中共経済は異常性を克服できるか

 中共経済が以上のような、異常性のよってきたる根本原因を克服できれば、中共経済は真に近代経済(市場経済)の仲間入りができると同時に、その政治の自由・民主主義化も達成できるはずですが、結論から申し上げれば、それは当面不可能である、と言わざるをえません。

 とにもかくにも、中共の経済高度成長が続いている限りにおいては、中共当局の正当性は益々強固なものとなり、自由・民主主義化に向けての圧力は減少するからですし、うまい汁を吸っている共産党有力党員達は、手にすることになった巨大な特権と富に一層しがみつこうとするからです。

 しかも、これら有力党員達は、放っておくと百家争鳴して自分達の敵になる懼れがあるところの知識人達の買収にも余念がありません。

 例えば、上級専門職に就いている人々の8%にあたる145000人が毎月政府特別加給金(special government stipends)を支給されていますし、2004年には、何万人もの大学教授が党員にされて政府の上級ポストをあてがわれています。

 つまり、共産党の有力党員達は、自分達が経済をコントロールできなくなるような、経済の全面的自由化を行うわけがありませんし、政治システムの自由・民主主義化を行うこともありえないのです(注5)。

 (注5)かつての日本型政治・経済システムと現在の中共の政治・経済システム・・どちらも高度成長を達成した・・を比較すると、両者は、政治による経済のコントロールという点でこそ似通っているが、違いは、日本が工業製品の開発・輸出に力を入れたのに対し中共が労働力の輸出に力を入れたこと、日本の政治が経済格差の是正に配意したのに対し中共の政治は強者による弱者の収奪を旨としていること、何よりも日本の政治は早期に自由・民主主義化していたのに対し中共の政治は今だに一党支配であることだ。

     米国は日本が自由・民主主義国でかつ米国の同盟国であるにもかかわらず、日本の工業製品の競争力と日本の対米投資に脅威を覚えた頃から、日本型政治・経済システムの変革を期して強い圧力をかけたというのに、非自由・民主主義国で潜在的脅威である中共に対しては、その労働力輸出政策によって米国企業が裨益しているために、中共の政治・経済システムの変革に向けて今後とも強い圧力をかけそうもない。これはやや露骨に言えば、中国共産党の有力党員達が、党益と自分達の私益のために、中共国民全体の利益に反して、米国に賄賂を送り、米国を籠絡している、という図式だ。

     (以上、(http://www.nytimes.com/2005/07/03/weekinreview/03port.html?pagewanted=print2005年7月3日アクセス)を参考にした。)

 結局、このままでは、中共の政治システムは自由・民主主義化することなく、やがて、かつての支那の歴代王朝がそうであったように、絶頂期を迎えた後、朽ち果てていくことになる可能性が否定できない、と言えるでしょう。

(以上、特に断っていない限りhttp://www.foreignpolicy.com/story/cms.php?story_id=3373&print=1前掲による。)

(続く)