太田述正コラム#11102006.3.6

<ブッシュ三題噺(その4)>

 しかし、反対論には圧倒的な米国世論の支持があります。

 ある世論調査によれば、米国民は反対が70%で、共和党支持者でさえ58%が反対していますし、もう一つの世論調査によれば、反対64%、賛成17%という具合です(http://www.csmonitor.com/2006/0303/p03s03-uspo.html、及びhttp://www.slate.com/id/2136768/(どちらも3月4日アクセス))

 (4)既視感

 このように見てくると、皆さんも既視感にとらわれるのではないでしょうか。

 日本が真珠湾攻撃して米国の太平洋艦隊が大打撃を蒙った時と、日本の高度成長が続いて日本の企業が米国の企業や施設を買い漁り始めた時の、米国の朝野を挙げてのヒステリー症状(注4ですよ・・。

 (注4)ロサンゼルスタイムスは、今回の米国の朝野の反応について、hysteriaparanoiaNarrow-minded protectionismxenophobiaであると嘆いている(http://www.latimes.com/news/opinion/editorials/la-ed-foreign4mar04,0,5126063,print.story?coll=la-news-comment-editorials。3月5日アクセス)

 

前者においては、米国の朝野は「黄色い猿」たる日本人に対する人種差別意識をむき出しにし、在米日系人は全員強制収容所に入れられてしまいましたし、後者においては、さすがに人種差別意識は露骨には現れませんでしたが、日本を念頭に置いて、国防生産法(Defense Production Act of 1950)にエクソン・フロリオ条項(Exon-Florio provision)修正が施され、米大統領に国家安全保障上の理由から米国内での外国の直接投資(企業買収等)を禁止する等の権限が付与されました(注5)(http://blogs.washingtonpost.com/thedebate/2006/02/ports_of_dubai.html?http://blogs.washingtonpost.com/thedebate/2006/03/alienating_our_.html上掲、及びhttp://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/invest_02/(3月6日アクセス))。

 (注5)その日本の東芝が、英核燃料会社(BNFL)のグループ会社であるウェスティングハウス社の買収によって、米国内で少なくとも6つの原子力発電所・・国家安全保障と密接な関わりがある・・を所有することになるというのに、誰も問題視していないことは興味深い。これは、米国人が日本人への差別意識を完全に克服したからなのか、凋落した日本は脅威ではないということなのか、はたまた日米関係が極めて緊密化したからなのか。

今回、明らかになったのは、2001年の9.11同時多発テロで米国の金融・軍事中枢が攻撃を受けたことを契機に、陥ったヒステリー症状から、米国の朝野がまだ全く回復していない、ということであり、それが今回の件を契機に、アラブ人への人種差別意識の形で顕在化したわけです(注5)。

 (注5)もう一つの要素も忘れてはなるまい。(昨年10月の)マイヤーズ(Harriet E. Miers)女史の最高裁判事任命失敗・(昨年12月にすっぱぬかれた)国内でのテロ容疑者の捜査令状なしの盗聴問題・今年2月に発生したチェイニー副大統領猟銃誤射事件の情報開示遅滞問題、といったことによって共和党と大統領との間がぎくしゃくしていること、これらに加えて、閉塞状況を呈するイラクはもとより、カトリーナ直撃前のビデオ会議問題(後述)等もあり、ブッシュの支持率が34%(イラク政策の支持率は30%)と低迷している現在今年米議会の中間選挙が控えている共和党の議員達の間で、民主党に共和党が得意とする国家安全保障問題でお株をとられてはまずい、という意識が働いている、という点だ(http://www.csmonitor.com/2006/0303/p03s03-uspo.htmlhttp://www.latimes.com/news/politics/la-na-ports23feb23,1,7788757,print.story?coll=la-headlines-politics、及びhttp://www.latimes.com/news/politics/la-na-portassess26feb26,1,7542765,print.story?coll=la-headlines-politics(いずれも前掲)。

(続く)