太田述正コラム#11562006.3.31

<前原民主党代表辞任をどう見るか(その1)>

1 始めに

 偽メール問題で、ついに前原民主党代表は辞任に追い込まれました(http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/seitou/news/20060331dde001010063000c.html。3月31日アクセス)

 一体どうしてそんなことになってしまったのでしょうか。

 私に言わせれば、前原氏が無学で、しかも軍事半可通であったからです。

  

2 無学で軍事半可通の前原氏

 (1)無学

 前原氏が無学だというのは、彼の最終学歴が日本(京都大学)の法学部だからです(注1)。

 (注1)前原氏は松下政経塾出身だが、これは学歴とは言い難い。

 以前にも(コラム#1059??1064で)申し上げたことですが、法学は法規に係る実用的ノウハウを体系化したものにすぎず、本来の意味の学問とは言い難いだけでなく、日本の法学部(学部レベル)では一方通行の講義が何百人もの学生に対して行われ、日々フィードバックを伴うべき本来の意味での教育もまたなされていない上、一本の論文を書かせることなく学生を卒業させており、法学部卒業者は、いかなる意味においても学問の基礎(注2)を身につけているとは言えません。

 (注2)自然ないし社会の観察力と、根拠(=典拠または計算)をつけて議論を展開する能力。数学や論理学といった演繹的学問は、ここで言う学問には含まれない。

 

前原氏もその例外であるはずがない以上、彼は無学だと言わざるをえないのです。

 前原氏が、永田議員が偽メールを用いた国会質問を行うことを認めただけでなく、自ら党首討論で偽メールを用いた議論を提起してしまったのは、議論の根拠たるメールの吟味を行わなかったからであり、これは無学だからこそだ、と私には思えてなりません。

 また、メールそのものの吟味以前に、永田議員に偽メールを提供した人物を疑ってかからなかったのは、前原氏の社会観察力の欠如を物語っており(注2)、やはり前原氏の無学さの表れではないでしょうか(注3)(注4)。

 (注2)私が2001年に参議院選挙に出ることになり、選挙準備に入ったとたん、民主党の議員の紹介で、選挙コンサルタントと称する人物が、美容師・スタイリスト・デパート外商員まで引き連れてやってきた。しばらくして、彼らがものの役に立たないと判断し、写真家や印刷所を紹介される前に、スタイリストに違約金まで払って(デパートは別として)全員と関係を断った。(違約金の領収書はくれなかった。)そして彼ら以外にもさまざまな人物が接近してきた。政治家候補に過ぎない私に対してすらこうなのだから、政治家たるもの、よほど人物眼を養わないと、スポイルされるだけでなくひどい目に会いかねないな、とその時思った。前原氏には、かかる認識もなく、従って彼は人物眼もまた養っていなかったのではないか。

 (注3)永田議員は東大工学部卒だから立派な大卒相当だが、彼の場合は年齢も議員としてのキャリアも乏しく、企業で言えば、せいぜい営業部の課長クラスに過ぎない。責任は、代表を含む関係党役員にある。

(注4)法学部卒で、大企業や役所の幹部まで勤め上げてボロを出さずに済む場合が多いのは、大企業や役所は巨大官僚機構だからだ。こういう世界でなら、彼らが法学部で身につけた法規と屁理屈に係るノウハウがモノを言う。遺憾ながら、民主党は事務局機能が弱く、一種の中小企業なので、社長たる代表が、法規と屁理屈に係るノウハウだけしか身につけていないのでは、どうしようもなかった、というわけだ。

 (2)軍事半可通

 前原氏は、安全保障・軍事のプロ(軍事のプロ)を自称していました。

 私自身、かつてこの自称を額面通り受け止めていたこともあって、前原氏が民主党の代表に就任した時はこれを歓迎しました(コラム#870)。

 軍事のプロであれば、戦略・情報収集分析・戦術・危機管理の達人であるはずであり、政府・自民党の最弱点である安全保障・軍事政策に代わる現実的にして未来を見据えた安全保障・軍事政策を提示する等、政府・自民党の政策に代わる諸政策を提示することによって、待ち望んだ政権交代を実現してくれる、と期待したからです。

 しかし、前原氏は、昨年の訪米時に行ったところの、中共が日本にとって軍事的脅威である旨の発言によって、彼が軍事半可通であることを軍事玄人筋に暴露してしまいました。これで、軍事玄人である中共当局同様、口幅ったいけれど軍事玄人であるここの私も、前原氏に見切りをつけるに至ったこと(コラム#1001??1003)はご記憶の方も多々おられると思います。

 軍事半可通は、軍事音痴よりも度し難いと言わざるを得ません。軍事音痴なら、それを自覚しているだけに、訪米時にこんなトンデモ発言を行うわけがないからです。

 とまれ、民主党内の抵抗勢力を押さえ込めるかどうかを心配する以前に、こんな彼に、政府・自民党の政策に代わるまともな安全保障・軍事政策等が提示できるわけがありません。

結局前原民主党がやってきたことと言えば、捜査当局やマスコミが取り上げた自民党の不祥事を後追い的に国会で追及する、というこれまでの民主党の路線の蹈襲でした(注5)。

(注5)自民党の不祥事を追及するのであれば、自民党と日本最大の権益擁護団体である官僚機構との癒着に最重点を置き、独自調査を踏まえて行うべきだった。例えば、ライブドア問題も、自民党と金融庁(元大蔵相)の官僚機構との癒着、この癒着の下でのライブドアの合法違法スレスレ行為の積極的黙認・・という切り口から追及すべきだった。

 そして彼は、偽メールに関し、自民党追及フェーズにおいても、事後処理フェーズにおいても、戦略・情報収集分析・戦術・危機管理のことごとくにおいて、無能きわまりない(軍事半可通である)ことを、一般国民の前に露呈してしまったのでした。

(続く)