太田述正コラム#11732006.4.9

<パレスティナ情勢の動態的均衡続く(その3)>

 (ブログへのアクセス状況で見る限り「ユダの福音書」(コラム#1169)への関心は大変なものですね。日本人がこれほどキリスト教に興味があったとは驚きです。(新しい記事が出ている(http://www.nytimes.com/2006/04/08/opinion/08pagels.html?pagewanted=print。4月9日アクセス)のでご参照下さい。)その一方で、キリスト教生誕の地であるパレスティナの現在の情勢に、これまたブログへのアクセス状況で見る限り、日本人がほとんど関心を示さないとは、キツネにつままれたような気持ちです。)

 これら消息通の語るところに耳を傾けてみましょう。

 

 「ハマスは、1967年のイスラエルによる占領の開始から1987年の最初のインティファーダの勃発の間に、社会的文化的活動に焦点をあてた、土着の非武装の草の根運動として始まり、周辺のアラブ諸国の聖域を拠点に武力闘争を行ってきたPLO<(中核はファタ)>とは常に一線を画してきた。」(C

 1993年のオスロ合意により、PLOはイスラエルの存続を承認し、武力闘争の放棄にコミットしたが、実際には武力闘争を完全に放棄はしなかったし、ネポティズムや腐敗が横行し続けた。それに対し、「イスラエルと西側が、自爆テロやオスロ合意反対と結びつけてとらえてきたハマスは、パレスティナの人々の間で、効果的な社会福祉プログラムや誠実さというイメージを確立した。しかも、見事な選挙運動を展開することで、ハマスは、ファタより政党政治に長けているという印象を与えるに至った・」(C

 「イスラエルのとってきた、ハマスの指導者達を暗殺し、ハマスの軍事部門を叩く政策が、結果的に、生き残ったハマスの非軍事部門の指導者達による組織の掌握をもたらし、昨年のPA地方選挙への参加を促すとともに、この選挙による健闘が、ガザとヨルダン川西岸在住の指導者達のシリア在住の指導者に比しての相対的強化をもたらした。」(C

 昨年3月から、ハマスは「休戦」を守ってきており、自爆テロも一件も引き起こしていない。これはハマスの規律の高さを示している。(A

議会選挙の結果、抵抗側から権力側へと移行したハマスは、国際法を遵守しなければならない立場になった。よって今後ともハマスはこの「休戦」を続けざるをえないし、続けることだろう。(B

残された「問題」は、イスラエルの存続承認だが、これをせっつく必要はなく、気長に見守るべきだ。(A

なぜなら、パレスティナには「民主主義の健全な萌芽が既に見られるのであって、三つの新聞がアラブ世界で最も自由な評論を行っているし、司法の独立と法の支配の確立を目指している、戦闘的な独立司法委員会(judicial council)を持っている。またパレスティナは、二大政党制と自由な選挙を持っている。ハマスはこれらの制約の下で活動しなければならず、ファタが権力を奪還しようとしていることも知っている」(B)からだ。

 「<選挙後、>ファタが厚顔無恥にも米国の支援を受けて民主的な<選挙>結果を覆そうとしていると<パレスティナの>人々が感じていることが、ハマスがファタに比べて世論調査で更に支持率の差を広げている原因の一つだ。」(C

 英国の消息通達のこのような認識に立てば、イスラエルから始まり、米国とEUが続いた、PAの資金援助の凍結(http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,1713664,00.html(2月20日アクセス)及びhttp://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060408id21.htm(4月9日アクセス)は、議会選挙で賢明な選択をしたパレスティナの人々をいたずらに苦しめるだけであり、愚の骨頂だ、ということになるわけです。

(続く)