太田述正コラム#11792006.4.12

<フランスとタイの政治的混乱の結末(その2)>

ついにフランスの知識人の中からさえ、学生達に対し厳しい批判が投げかける人物が現れた(注3)というのに、この結末です。

(注3)レジオン・ドヌール勲章受章者でオックスフォードやケンブリッジでも教えた地理学者でソルボンヌ大学学長のピット(Jean-Robert Pitte)は、「私は若者及びフランス人一般の扇動・無知・愚かさに憤慨している。・・今日の若者は夢を抱く代わりに幻想を抱いている。夢を抱くということは、挑戦し甲斐のある艱難を克服しようとすることだ。ところが若者はあらゆるものに係る権利を持っていると信じ込み、その通りにならないと、第三者の責任にする。」と述べたhttp://www.guardian.co.uk/france/story/0,,1745582,00.html。4月3日アクセス)。

英国の大方のメディアは、呆れかえって言葉もないということなのか、事実を淡々と伝えるにとどめていますが、一貫して厳しい批判をフランスの若者や政治家等に投げかけ続けた米国のメディア(注4)は、今回の結末に対し、罵倒に近い論評を行っています(注5)。

(注4)コラムニストのイーブス(Elisabeth??Eaves)は、抗議の声を挙げている連中(抗議者達)は、「レクリエーションに参加しているつもりの若者」・「破壊と犯罪を旨とする移民の若者」・「不安(precariousness)に反対の若者」、の三種類だとし、三番目のグループが一番多いけれど、アングロサクソンとしては、彼らのことを理解するのは最も困難だとするとともに、政治家達は政治家達で何も考えていないとこきおろし、「フランスの抗議者達と政治家達のキチガイじみた未成熟さ(The maddening immaturity of the French protesters and politicians)」と総括した(http://www.slate.com/id/2138949/。3月30日アクセス)。

    なお、繰り返しになるが、二番目のグループは初雇用契約制度ができても自分達が雇用されることはありえないと思っており、「恵まれた」三番目のグループとは完全に同床異夢だ(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-vandals11apr11,1,3291011,print.story?coll=la-headlines-world。4月12日アクセス)。

 (注5)ニューヨークタイムスは社説で、今回の結末について、フランスの学生も労働組合も政治家も、要するにフランスの全員が敗北した、と指摘した(http://www.nytimes.com/2006/04/11/opinion/11tue4.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print。4月12日アクセス)。

 ずるずると後退を続けたフランス政府に最後のトドメを刺したのは、このままでは経済に悪影響が出るとして、経営側まで初雇用契約制度に係る法律の撤回を求めるに至ったことです。

 しかし、勢いに乗った学生達は、その後も闘争態勢を解こうとしないままです。

(以上、http://www.nytimes.com/2006/04/10/world/11cnd-france.html?ei=5094&en=ddb1f2fd9333a8e9&hp=&ex=1144728000&partner=homepage&pagewanted=print(4月11日アクセス)、及びhttp://www.cnn.com/2006/WORLD/europe/04/11/france.labor.ap/index.html4月12日アクセス)による。)

こうしてフランスは戦後の、大部分が後ろ向きの直接民主主的騒擾史(注6)に新たな不毛の頁を付け加えたのです(http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/4865034.stm。4月3日アクセス)。

(注61968年5月のいわずとしれたあの学生騒擾は、学生自治の増進やドゴールの退陣につながったという点で前向きの要素があった。しかしそれからは、改革を挫折させた騒擾・・1986年(大学改革)・1993年(フランス航空リストラ)・1994年(若者の低賃金雇用制導入)・1995年(年金改革)・2005年(学校改革)・・ばかりだ。

このままでは、フランスの優秀な若者の英国への流出(http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2006/04/09/2003301779。4月10日アクセス)が続く等、フランスの地番沈下は進む一方でしょう。

4 所感

 歴史が浅いというのに、既にまがりなりにも機能しているタイの自由・民主主義と、フランス革命以来の長い歴史がありながら、依然として機能障害が続くフランスの自由・民主主義の違いは一体何に由来するのでしょうか。 

 タイには君主制があるけれどフランスは君主制を廃棄して久しいこと、は大きいと思いますが、それだけではなさそうですね。