太田述正コラム#1180(2006.4.13)
<裁判雑記(その1)>
1 始めに
 私に対して提起された裁判について、訴状に対する私の反論を整理する作業を現在行っているが、この作業の状況をご披露する。読者の皆さんのご批判やアドバイスをどうぞ。
2 訴状の核心部分
 元東村山署副所長たる原告による訴状の核心部分は、次のとおりである。
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 2 被告の不法行為
被告<(太田)>は、2003年11月26日にインターネットの本人のホームページで、・・女性市議に対する万引(窃盗)事件はでっちあげで同市議の転落死は殺人である、捜査及び広報の責任者である副所長すなわち原告は創価学会員であると断定し、続けて、殺人犯人は創価学会関係者であったことから原告が組織防衛を図るために万引き事件をでっちあげ殺人事件を隠蔽したとの記事を掲載した。
 この記事を見た一般の読者は、「創価学会員の原告が万引き事件をでっちあげ、殺人事件を隠蔽した」との印象を持つものである。
 よって、被告は、「創価学会員の原告が万引き事件をでっちあげ、殺人事件を隠蔽した」との事実を摘示し、もって原告の警察官としての職務能力、中立性、忠実性などを疑わせ、原告の職務遂行についての社会的評価をいたく低下せしめた。」
3 被告の責任
 被告は、本件記事を掲載した者として、原告の蒙った損害の賠償の責任を負う。
4 損害
 原告は創価学会員ではなく、万引(窃盗)事件を捏造し、殺人事件を隠蔽した事実は一切ないのであり、記事の虚偽性は明白である。また、事実を捏造してまでして原告を陥(ママ)めようとした極めて悪質な記事である。かかる虚偽性のある悪質な被告の行為により原告が蒙った損害は甚大であり、これを金銭的に評価すれば140万円を下らない。
5 結論
 よって、原告は被告に対し、民法第709条に基づく損害賠償として、・・記載の通りの金員の支払いを求める。
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3 私の反論
 原告が問題にしている私のコラム#195(以下、「コラム」という)の大部分は、コラム冒頭で言及した一冊の本(矢野穂積・朝木直子「東村山の闇」第三書館)の内容を私が要約・紹介したものに過ぎない。
コラムの終わり近くに「(以上、特に断っていない部分は矢野・朝木 前掲書により)」と記されていることからも、このことは明らかであるし、コラム中のどの部分がこの本の要約・紹介であるかも分かるようになっている。
 原告は、コラム中のこの本の要約部分に「虚偽性」があり、原告本人の「社会的評価をいたく低下せしめた」と主張しているところ、この本の著者または出版社を追及するのならともかく、この本の内容の単なる要約・紹介者に過ぎない私を追及するのは筋違いである。
 (ちなみにこの本は、現在も引き続き販売されている。例えばhttp://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4807403338/249-3757603-8711569(4月12日アクセス)参照。)
 仮に、発言や出版物において引用した本等の内容の非虚偽性(真実性)について、引用した者が証明しなければならない、ということになれば、世上のほとんどの発言や出版ができなくなり、表現の自由は有名無実になってしまうだろう。
 仮にこの反論が通らないとしても、私は下記の理由から、民法第709条(不法行為)に基づく損害賠償責任を負わないと考える。