太田述正コラム#13002006.6.16

<施設庁談合事件はどうなった?(番外編)(その3)>

社会保険庁不祥事についても、疑い出すときりがありません。

(株)ネットラーニング設立、代表取締役社長の岸田徹氏(http://www.yukan-fuji.com/bn/archives/2004/07/post_61.html。6月15日アクセス)が、私がざっと見たところ、ネットの世界では最も的確に直近の社会保険庁不祥事についての論考をものされている(http://kishida.biz/column/2006/20060530.html。6月15日アクセス)ので、まずはその論考の概要をご紹介しましょう。

一、タイトル:はめられた村瀬<清司社会保険庁>長官

二、社会保険庁が年金保険料の免除申請を勝手にやった「不祥事」は、そのための事務コストが我々の納めた社会保険料や税金から賄われたことと、それを行った公務員が文書偽造罪に問われるということだけの問題であって、基本的に国民に不利益を蒙らせたわけではない。(保険料が免除された人にとっても、受け取る年金が三分の一になってしまうものの、受け取る年金がゼロになるところを救われた、と見ることもできる。)

三、たったそれだけの話が、社会保険庁解体論に発展し、村瀬長官の辞任論に至ってしまっているのは異常だ。

四、村瀬氏が20047月に民間から長官に就任した理由は、当時グリーンピアなどの年金財源の無駄遣いや国会議員の年金未納問題などが騒がれ、国民年金の納付率も下がりっぱなしであったところ、民間から社会保険庁に活力を与えるためだった。

五、厚生労働省が、当時損害保険協会の会長だった損保ジャパン(旧・安田火災)の平野社長に長官の務まる人材を紹介してくれと依頼し、損保ジャパン内で人選を行った結果、代表取締役副社長だった村瀬氏(旧・安田火災海上保険出身。http://www.sankei.co.jp/life/kaeyo/050414_001.htm。6月15日アクセス)が行くことになった。

六、年金保険料の納付率が一挙に10%近く下がったのは2002年だが、それは、保険料の徴収をそれまで地方の自治体が行なっていたのを社会保険庁が行うようになったためだ。理由は、小泉「改革」の一環として、地方の自立を中央が要請したものだから、今まで中央の仕事を地方に委任していたものを引上げなくてはならなくなり、市区町村の方が地方税の納付状況を把握しているので徴収事務は地方に残した方がよかったのに、国民年金の徴収事務も引き揚げてしまったことによる。そこで、200410月に国民年金法が改正され、社会保険事務所が市町村から住民の所得情報の提供を求めることができるようになった。各地の社会保険事務所で不正免除を行なうようになったのはこの時からだ。

七、この「不祥事」を朝日新聞社(週刊朝日と朝日新聞)が知るところとなったが、5月23日に記事になる前に、大阪・長崎・東京等の社会保険事務局が公表した。

八、これは、この頃までに「不祥事」を把握しつつあった社会保険庁中央、すなわち厚生労働省キャリア官僚達が、村瀬長官を蚊帳の外に置いたまま、朝日新聞社にこの「不祥事」をリークするとともに、上記社会保険事務局を指導し、記事になる前にこの公表を行わせたと考えるべきではないか。

5月23日は、過度なノルマの行き過ぎたセールス体制の下、お客が支払うべき保険料を社員が立て替えて保険契約を結んだとして近々損保ジャパンに厳しい業務停止命令が金融庁から出ることになっているという記事が夕刊(日経)に出た日でもある。厚生労働省キャリア官僚達は、このタイミングに合わせて「不祥事」をプレイアップすることによって、損保ジャパン出身の村瀬長官が同社の「過度なノルマの行き過ぎたセールス体制」を社会保険庁に持ち込んだことがこの「不祥事」の原因であるという印象を醸成し、村瀬長官を辞任に追い込むとともに、今国会に上程されていたところの、社会保険庁の解体につながるとされる社会保険庁改革関連法案の成立阻止を図った、と考えられる。

九、このところ金融庁は、業界トップを狙うために過度なノルマの行き過ぎたセールス体制をとったという点で共通する、アイフル、明治安田生命、三井住友銀行、そして損保ジャパンに立て続けに厳しい処分を行ってきた。しかし、本来、行き過ぎたセールス体制かどうかを判断し是正するのが役人であってはならない。行き過ぎかどうかは、顧客や社内の役職員、あるいは「被害」を報道するマスコミやその報道に接した市民が判断することであり、行き過ぎたセールスが市場で認められなければ、悪評が立ち顧客や株主も去っていくというルールが民主主義経済の基本のはずだ。

 これは素晴らしい論考であり、私も全くそのとおりだと思います。

 この(東大)経済学部出の岸田氏(夕刊フジ前掲)の論考に、私の役人時代の知識経験を踏まえたスパイスをほんのちょっときかせてみましょう。

五について:損保業界は、旧大蔵省(現金融庁)の所管であり、財務省から出向している総理秘書官・・厚生労働省は秘書官を出していない・・を通じて、小泉首相に損保業界から社会保険庁長官を起用すべきことを吹き込んだ上で、損保ジャパンに村瀬氏を差し出すように「指示」したと考えるのが自然です。また、村瀬氏は、社会保険庁長官就任にあたって、旧大蔵省関係者に「指示」を仰いだはずであり、その際、(将来の一般会計歳出からの補填を回避するため)納付率アップを「指示」された可能性があります。

六について:住民の所得情報の基本は住民税納付情報であり、その典拠は国の所得税納付情報です。財務省主税局(ないし国税庁)は住民の所得情報を社会保険事務所がどのように「活用」しているかに関心を持ってフォローし、村瀬氏に対する上記納付率アップ「指示」を行った経緯もあることから、早い時点で「不祥事」に気付いていた可能性があります。

七について:旧大蔵省勢力は日本経済新聞と経済記事に関して強い競争関係にある朝日新聞に対し、政府関係経済情報の最有力ソースとしての優越的地位を背景に、「不祥事」情報をリークした上で、記事にすることと、そのタイミングを「指示」した可能性があります。

 そのねらいは、社会保険庁の徹底的な権威失墜(三参照)であり、解体した上での社会保険庁の国税庁への吸収、すなわち歳入庁への改組でしょう(注3)。

 (注3)社会保険庁の最高顧問(無給)をしている堀田力氏(元法務省官房長・元東京地裁特捜部検事)も歳入庁論者だ(http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/hotta.cfm。6月15日アクセス)

八について:旧大蔵省勢力が、財務省の予算査定権を背景に、民間人長官の「押しつけ」に反発し、社会保険庁解体に怯える厚生労働省(特に旧厚生省)のキャリア官僚達に対し、目先のニンジンをぶらさげて振り付けをすることはいとも簡単なことだったでしょう。

九について:金融庁は、旧大蔵省勢力の一環として、規制・準司法的権限を駆使することによって、旧大蔵省時代の裁量行政の復活と金融庁の肥大化を図っている、と考えられます。前にも申し上げたように、その先には、財務省と金融庁(と歳入庁!)の合併によるスーパー大蔵省の復活と大増税が待っている(?)のです。

 いささか先を急ぎすぎましたが、四でも言及されているように、社会保険庁に関しては、現在議論の的になっている「不祥事」以外にも、これまで次々に不祥事が明るみ出てきたことはご記憶のことと思います。

 これらの不祥事についても、旧大蔵省勢力の陰謀を疑えば、疑えます。

(続く)