太田述正コラム#1347(2006.7.18)
<ガザ・レバノン情勢の急変をどう見るか(その2)>

2 戦端を開いたのはハマス・ヒズボラ側

 何週間にもわたって、ガザのパレスティナ・ゲリラがロケットをイスラエル領内に打ち込み、これに対し、イスラエル軍が砲撃等を加える、という応酬が続いていたところ、パレスティナの一般住民の犠牲者が多数出るに及び、ハマスの軍事部門は、2005年2月に自ら宣言した対イスラエル休戦を撤回するに至っていました。
 そこに起こったのが6月25日(日曜)早朝(現地時間)の事件です。
 ハマス要員を含むパレスティナ・ゲリラが、エジプトとの国境付近のイスラエル領内へ向けてガザから掘ったトンネル(全長2マイルでイスラエル領内分300ヤード)を通ってイスラエル軍兵士達を襲い、2人を殺害し、3人を負傷させ、1人(負傷)を誘拐したのです。
ハマスが関わったイスラエル軍兵士誘拐事件としては、これは1994年以来のものです。その時には、イスラエル軍が救出作戦を敢行した際に誘拐された兵士は殺害されています。
 その時もそうでしたが、今回もハマスらの目的は、イスラエルによって収容されているパレスティナ人達とこのイスラエル軍兵士との交換でした。
(以上、
http://www.nytimes.com/2006/06/25/world/middleeast/26mideastcnd.html?ei=5094&en=976ced53a8f46bc6&hp=&ex=1151294400&partner=homepage&pagewanted=print
(6月26日アクセス)、及び
http://www.guardian.co.uk/flash/0,,1807749,00.html
(7月18日アクセス)による。)
 7月12日、今度はレバノン南部を事実上支配しているシーア派ゲリラ組織ヒズボラが、イスラエル北部に侵入し、イスラエル軍兵士8人を殺害し、2人を誘拐しました(ガーディアン上掲)。ヒズボラの目的も、イスラエルによって収容されているレバノン人やアラブ人達とこの2人のイスラエル軍兵士との交換です。
 ヒズボラが前回イスラエル軍兵士を誘拐したのは2000年のことであり、その時は3人誘拐し、3人とも誘拐時の傷や誘拐後の処刑により死亡したのですが、2004年になってヒズボラとイスラエルの間で、数百人にのぼるパレスティナ人やレバノン人の収容者とこの3人の遺体の交換が行われています
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/07/13/AR2006071300278_pf.html。7月13日アクセス)。
 以上から言えることは、第一に、イスラエル・ガザ「国境」においても、イスラエル・レバノン国境においても、戦端を開いた(正確にはガザについては、紛争をエスカレートさせた)のはそれぞれハマスとヒズボラの側であり、イスラエル側ではなかったことであり、第二に、ハマスやヒズボラの側は、今回もイスラエル側は、収容者と誘拐されたイスラエル軍兵士の交換に応じるか、せいぜい兵士奪還作戦を発動するか程度だろうとタカをくくっていた可能性がある、ということです。

3 イスラエルはハマス・ヒズボラ壊滅作戦を発動

 ところが、イスラエルの反撃はすさまじいものでした。
 ガザではイスラエル軍は、地上部隊を侵攻させ、航空部隊の協力の下にハマスの指導者やハマスの行政・軍事拠点を攻撃するとともに、橋や発電所の攻撃も行いました(ガーディアン上掲)。イスラエルが、ハマスそのものの勢力の減殺を図るだけではなく、パレスティナの一般住民の生活を困難に陥れ(注2)、もって彼らとハマスとの離間をも図ろうとしていることがうかがえます。
 レバノンでも同様であり、イスラエル軍は、主として航空部隊によって、ヒズボラの指導者やヒズボラの行政・軍事拠点を攻撃するとともに、レバノンの南部を中心に道路・橋・石油精製所や発電所を空爆し、更にレバノンの海域と空域の封鎖を宣言し、ベイルート国際空港やベイルート港を爆撃しました(ガーディアン上掲)。こちらでもやはりイスラエルは、ヒズボラそのものの勢力の減殺を図るだけでなく、レバノン南部の一般住民(その多くはシーア派)の生活を困難に陥れ(注2)、もって彼らとヒズボラとの離間をも図ろうとしていることがうかがえるのです。
(以上、特に断っていない限り
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-smash17jul17,0,77442,print.story?coll=la-headlines-world
(7月18日アクセス)による。)
 このようにイスラエルは、明らかに均衡を逸する反撃、しかも以前から練っていたことを思わせる反撃を行っているわけです。

 (注2)これは、厳密に言うと、一般住民への報復攻撃(collective punishment)を禁じた1949年の第4ジュネーブ条約違反だ
https://registration.ft.com/registration/barrier?referer=http://www.ft.com/world&location=http%3A//www.ft.com/cms/s/a9361eae-14ee-11db-b391-0000779e2340.html
。7月17日アクセス)。

(続く)