太田述正コラム#1361(2006.7.31)
<イスラエルの反撃の均衡性をめぐって(続)(その1)>

 (前回、書くのを忘れてしまいましたが、オフ会の会費は500円です。この会費の免除は一切いたしません。現在のオフ会出席予定者は4名です。)

1 始めに

 毎日新聞電子版は、7月30日、「イスラエル軍は30日朝、レバノン南部ティールの南東約10キロの町カナの民間人居住区を空爆、住民が避難用シェルターに使っていた建設中のビル・・が破壊された。死傷者数についての情報は錯そうしているが、中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると、子供27人を含む55人が死亡した。依然がれきの下敷きになった人々が多数いるとみられ、死傷者はさらに増える可能性が高い。」等と報じました
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060731k0000m030029000c.html
7月30日アクセス)。
 この記事だけ読むと、いかにもイスラエルの「反撃」は不均衡だ、と誰しも憤りを覚えることでしょう。
 しかし、同じ事件についてのCNN電子版を読むと、誤射爆を誘発するためにこのビル周辺をヒズボラがあえてミサイル発射場所として使っていたこと、イスラエル軍はこの地域の住民にラジオや投下ビラで、戦闘地域なので立ち退くように呼びかけていたことが書いてあります。
 この記事にはそこまで書いてありませんが、イスラエル軍の呼びかけにもかかわらず、ヒズボラが住民達に立ち退きを許さなかった可能性すら排除できません(注1)。

 (注1)あるキリスト教徒たるレバノン政府職員(女性)は、ヒズボラによる報復を懼れて誰も言わないが、ヒズボラの戦士達が、立ち退こうとした住民を殺害したと証言している
http://www.nytimes.com/2006/07/28/world/middleeast/28refugees.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
。7月28日アクセス)

 これだけからでも、日本のマスコミ報道だけを読んでいては国際情勢を理解することは困難であること、また、国際情勢を理解するためには、見る眼(とりわけ、私の力説するアングロサクソン文明対欧州文明の構図の理解)を養うことが望ましいことが、何となくお分かりいただけるものと思います。
この際、「イスラエルの反撃の均衡性をめぐって」シリーズで言い残したことを補っておきたいと思います。

2 一体どこが不均衡なのか?

 ヒズボラはイスラエル側とレバノン側双方において、できるだけ一般住民等の被害を大きくしようと努力しているのに対し、イスラエル当局はイスラエル側とレバノン側双方において、できるだけ一般住民等の被害を小さくしようと努力している、という明々白々な事実を忘れてはいけません。
 (どうして、イスラエル側だけに「当局」という文言を付け加えたか、一般住民等の「等」は何か、は後で説明します。)
 ヒズボラは、イスラエルにミサイルを打ち込むことで、イスラエルの一般住民を恐怖に陥れ、レバノン住民に紛れてミサイルを打つことで、イスラエルに一般住民を誤射爆させ、イスラエル非難の世論喚起をねらっているのです。
 他方、イスラエルは一般住民を対象とする戦略爆撃を行っていると非難されていますが、戦略爆撃であれば、イスラエルはベイルート等に電力を供給しているレバノンの発電・送電システムを爆撃したはずですが、実際に爆撃したのは、軍民両用の橋・道路・滑走路・港湾だけであり、そのねらいはヒズボラへのミサイル等の補給を断つことでした。
 またイスラエルは、レバノン南部の一般住民に対し、繰り返し、ラジオ・投下ビラ・携帯電話向け(ランダム送付)メールによって、危険だからと退去を呼びかけてきました。
 結果として、ヒズボラにイスラエルの次の砲爆撃地域を教え、ヒズボラに避難や再結集、或いは待ち伏せ攻撃の機会を与えることになる呼びかけもあるというのに・・。
(以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/07/27/AR2006072701725_pf.html
(7月28日アクセス)による。)
 ただし、若干の留保が必要です。
 イスラエル当局の姿勢はその通りだとしても、実際に砲爆撃に関わっているイスラエル軍兵士達全員が、「誤射爆」防止のために100%の努力を行っているかどうかは疑問なしとはしないからです。
 どういうことか、ご説明しましょう。

(続く)