太田述正コラム#1382(2006.8.20)
<現在進行形の中東紛争の深刻さ(その8)>

 (一昨日にある読者からご招待があり、昨日午後遅くこの読者の車で東京の大田区の自宅を出発し、三浦半島の油壺の隣の湾に赴き、船外機付きボートで湾内に停泊中の(彼のヨット仲間の)大きな双胴ヨットを訪問。このヨットの空調機付きのキャビン内でビールやシャンパンを片手に歓談した後、甲板に出て花火大会の鑑賞をしてきました。久しぶりにのんびりとした時間を過ごし、心豊かな気分になりました。)
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 その後の南方戦域の状況ですが、パレスティナ当局のアッバス大統領は8月17日、ハマス等がイスラエルとの停戦に同意したと発表しました。しかし、拉致されたイスラエル兵がまだ解放されていないとして、イスラエルは停戦を拒否しています
http://www.nytimes.com/2006/08/18/world/middleeast/18abbas.html?pagewanted=print
。8月19日アクセス)。
 それどころか、8月19日には、イスラエル軍はパレスティナ当局のハマス内閣の副首相(注12)の隠れ家を急襲し、同副首相を拉致しました。ハマスと連携したパレスティナ過激派にイスラエル軍兵士1名が拉致されて以来というもの、イスラエルは、ハマス内閣の閣僚8名と議長を含むハマスの議員10数名を次々に拉致してきましたが、ついに副首相まで拉致してしまったわけです。

 (注12)英国のマンチェスター大学の比較宗教学の博士号を持ち、ハマス政府内で最も現実派と言われている。教育相も兼任。45歳。

 また、ヨルダン川西岸では、イスラエル軍兵士1名が殺され、その下手人のパレスティナ人が射殺されました。更に、同じヨルダン川西岸の別の場所では、パレスティナ人の4人組が車で検問所を突破しようとして、1名が射殺され、残りの3名が負傷しています。
(以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/08/19/AR2006081900172_pf.html
(8月20日アクセス)による。)
 他方、北方戦域でも大きな動きがありました。
 8月19日、レバノン東部のベッカー渓谷の、シリア国境から20マイル、バールベックの西10マイル、レバノン・イスラエル国境から60マイルのヒズボラ根拠地の一つを攻撃したのです。
 イスラエル軍は、戦闘機の衝撃波にまぎれてヘリコプターで2両の車両(Humvee vehicle)を運び入れ、(レバノン政府軍を装った)コマンド部隊がこの車両に乗って走行し始め、ヒズボラの検問所を、アラビア語を使って通り抜けようたところ、ヒズボラ民兵との銃撃戦になり、イスラエル軍将校1名が死亡し、コマンド兵士2名が負傷してしまい、戦闘機と武装ヘリコプターからのロケット射撃等の掩護を得つつ、40分後に撤収しました。
 イスラエルは、ヒズボラへの武器の外国からの補給は先般採択された国連安保理決議で禁じられているところ、レバノン政府軍はイランやシリアからの陸路でのヒズボラへの武器補給を阻止しようとせず、UNIFILもいまだ阻止を行いうる態勢にないので、阻止するために自ら攻撃を行ったものであり、これは決議違反にはあたらない、と主張しています。
 しかし、ヒズボラ側も消息通も一様に、イスラエルは、ヒズボラに拉致された2名の兵士の救出か(この2名との交換を期して)ヒズボラ幹部の拉致を狙っていたのだろうとしています。
 レバノンのシニオラ首相は、このようなイスラエルの行為は明白な安保理決議違反であると非難し、同国国防相は南レバノンへのレバノン政府軍への展開の中止も考えると述べ、国連事務局もまた、アナン事務総長名で、イスラエル機のレバノン空域侵入もイスラエル軍コマンドによる攻撃も安保理決議違反である、との声明を出しました。
 イスラエル軍は南レバノン各地に斥候兵を残しており、しかもイスラエル軍によって上記のようなコマンド攻撃が行われたというのに、指導者ナスララが行った「イスラエル軍がレバノン領内にとどまっている限り攻撃を続ける」との宣言に反し、ヒズボラが南レバノン内のイスラエル軍やイスラエル領内への攻撃を行う気配は全くありません。ヒズボラには、停戦を何が何でも守らざるをえない家庭の事情があるのでしょう。
 こうした中、同じ日に、現在2,000人に過ぎないUNIFILを飛躍的に増強するための第一陣たる約50人のフランス軍兵士が南レバノンに到着しています。
(以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/08/19/AR2006081900217_pf.html
http://www.nytimes.com/2006/08/20/world/middleeast/20lebanon.html?ei=5094&en=29d5a780e1d505a5&hp=&ex=1156046400&partner=homepage&pagewanted=print
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-mideast20aug20,0,5449101,print.story?coll=la-home-headlines
(いずれも8月20日アクセス)による。)
 レバント紛争の行方は、一層不透明感を増しつつあります。
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(続く)