太田述正コラム#1408(2006.9.15)
<日本の学校教育の荒廃>

1 「世界に冠たる」日本の学校教育

 7月の朝鮮日報電子版(日本語)に、同紙東京特派員の面白い記事が出ていました。
 韓国企業等の東京駐在員が「日本でのんびり暮らしたあと、韓国に戻ってくると、子どもも学校でバカ扱い、親も社会でバカ扱いされる可能性が高い・・。だから東京駐在員の中には帰国前に子どもたちに家庭教師をつけ・・たり、帰国前に家を探すために<ソウルの>江南<区>で不動産めぐりをしたり・・するケースが多い」というのです。
 子供がバカ扱いされるのは、勉強させない日本の学校で過ごして韓国に帰ると勉強について行けないからですし、親がバカ扱いされるのは、ソウルの高級住宅地域である江南区の住宅価格が高騰して手が出せなくなっていて、来日前に住んでいた江南区に戻れないからです。
 この特派員は、東京では、ソウルでのように、金持ちが特定の区に住んでいるというようなことはない、と補足しています。
 そして彼は、記事の最後で、「生きることとは何か、幸せとは何であるか・・本質的な側面で、われわれ<は>日本の国民に比べ、明らかに肩の凝る毎日を送っている」と結び、日本の平等でのんびりした現状を皮肉っています。
 (以上、特に断っていない限り
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/07/24/20060724000048.html
(7月25日アクセス)による。)

 間違ってもこの記事を日本の学校教育への讃辞だなどと受け取ってはならないでしょう(注1)。

 (注1)米国の電子雑誌のスレートが、この10年間日本の学校では宿題を減らし続けてきたが米国では逆に増やし続けてきたとして、宿題の効用、とりわけ限界効用は小さいのだから、日本を見倣えと論じる論考を載せている(
http://www.slate.com/id/2149593/
。9月15日アクセス)のも、当然日本の教育への讃辞ではなく、皮肉と受け止めるべきだろう。

 子供を学校で勉強をさせないような社会は、平等社会であり続けることはできないはずだからです。
 なぜか?金持ちはカネを出して塾に通わせる等により、子供に勉強をさせる結果、金持ちの子供とそれ以外の人々の子供とで、学力格差がどんどん増大して行くからです。
 既に日本は急速に格差社会化しつつあり、それが問題になっていますが、その大きな原因の一つは、日本の学校教育の荒廃による学力格差の増大なのではないか、と私は考えています(注2)。

 (注2)もっとも、韓国の子供は世界一(?)勉強させられており、しかも対GDP比で世界一の学校教育費が投じられている(後述)というのに、現在の韓国が日本よりはるかに深刻な格差社会であることには当惑させられる。これは、韓国での勉強が(科挙の伝統から?)受験勉強のための勉強に堕しており、かつ韓国が(両班跋扈時代以来の?)構造的格差社会であるからであると思われるが、いずれ更に掘り下げてみたい。

2 日本の学校教育荒廃の原因

 では、一体どうして日本の学校教育は荒廃したのでしょうか。
 いわゆるゆとり教育のせいでしょうか。
 それもあります。しかし、より根本的な原因として、学校教育にカネをかけていないことが挙げられます。
 2000年のデータで見ると、学校教育費の対GDP比は、多い順に、韓国、米国、デンマーク、スウェーデン、カナダ、フランス、オーストラリア、ノルウェー、ニュージーランド、ポルトガル、オーストリア、スイス、フィンランド、メキシコ、ベルギー、英国、ドイツ、ポーランド、ハンガリー、イタリア、スペイン、オランダ、日本、アイルランド、チェコ、ギリシャ、トルコとなっており、日本は27カ国中ビリから四番目の4.6%という低水準です。ちなみに韓国は7.1%、米国は7.0%です。
 学校教育費ですから私立学校への支出も入っていますが、塾や家庭教師関係の支出は入っていません。
 こんなに低いのは、日本では学校教育費の公的支出が著しく少ないからです。
 公的支出の対GDP比では、何と日本はトルコ(3.4%)とビリ争いしてかろうじてブービーの3.5%に過ぎません。ちなみに、一位のデンマークは6.4%、二位のスウェーデンは6.3%です(注3)。
 (以上、特に断っていない限り
http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/3950.html
(9月15日アクセス)による。)

 (注3) 日経が、「大学など高等教育機関への日本の公的な支出の・・GDP・・に対する割合は0.5%で、加盟国中最低だった。私費負担を含めた高等教育費全体のGDP比率でも日本は平均を下回った」という記事をニュースとして報じた(http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20060913AT1G1202512092006.html。9月13日アクセス)のはいかがかと思う。日本の学校教育費、就中その公的支出が少ないのは今に始まったことではないし、この学校教育費中の高等教育費が少ないことについても同様である(
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/15/01/030114.htm
。9月15日アクセス)からだ。ただし、この記事が末尾で「日本の4年制大学の卒業者に占める女性の割合は40%で最低だった。各国平均は54%。また大学学部を卒業した女性の就業割合は67%と、韓国、トルコに次いで3番目に低かった。」と女性問題に触れた部分は意義がある。

3 コメント

 日本は、戦後一貫した自民党政治の下で、国際貢献費、就中軍事費が異常に少ない国であり続けた上に、このように、人的資源への投資、就中公教育費まで異常に少ない国に成り果ててしまったのです。
 これでは日本で、公立学校における教育が荒廃し、金持ちの子供が私立学校に流れ、受験塾や補習塾が隆盛を極め、ひいては日本が急速に格差社会化しつつあるのも当然だと言えるでしょう。
 日本の防衛政策と同様、教育政策も一刻も早く抜本的な是正が求められています。