太田述正コラム#1459(2006.10.20)
<北朝鮮核実験(続x3)>

1 緊迫度を増す北東アジアの軍事環境

 北朝鮮は17日、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議について「米国の脚本に基づくもので、わが国への宣戦布告とみなさざるを得ない・・われわれは今後、米国の動向を注視し、それに応じて該当する措置を取る・・われわれの自主権と生存権を少しでも侵害しようとするならば容赦なく無慈悲な打撃を加えるだろう」という声明を発表しました(
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20061018/mng_____kok_____004.shtml
。10月18日アクセス)。
 「無慈悲な打撃」とは、核攻撃ないしそれに準じる攻撃を指すとしか考えられません。 他方、18日のワシントンでの米国の韓国の統合参謀本部議長をそれぞれの長とする米韓協議で、米韓共同作戦計画(OPLAN5027)を、米国の韓国への核の傘を強化する観点から修正することが決まりました。
 これは、具体的には、上記作戦計画に核に係る付属文書を添付する形で行われ、1991年に撤去されて以来朝鮮半島には存在していない戦術核兵器の再持ち込みを意味するのではないかと取り沙汰されています。
 (以上、
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200610/200610200005.html
。10月20日アクセス)による。
 上記作戦計画は、事実上、日米が朝鮮半島有事を想定して策定した共同作戦計画(日本(だけ)有事を想定した共同作戦計画とは異なる)と連動していると考えられますが、戦術核兵器の朝鮮半島への持ち込みともなれば、非核三原則(日本の領空ないし領海内への核兵器の持ち込みも禁じている)を果たしてそのままの形で維持できるのか、という問題が起こってきそうです。
 このように、日本を取り巻く軍事環境は緊迫度を増しています。

2 地政学リスクに鈍感な日本人

 ところが、日本と韓国の国民も企業も、まるでこのような地政学的リスクを意に介していないように見えます。
 ファンドマネジャーの鈴木英寿氏によれば、渦中の韓国では、北朝鮮の核実験当日の9日こそ株式市場(KOSPI指数)が2.4%下落しました(注)が、その後回復して既に事件の前の水準まで戻っていますし、日本株はほとんど影響を受けませんでした。また、為替市場についても、韓国ウォンや日本円が若干下落したものの、それほど長続きはせず、回復に向かっています。

 (注)コラム#1446で記した3.6%という数字は、瞬間値。2.4%は終値。(太田)

 鈴木氏は、その理由として、「おそらく北朝鮮が欧米から地理的にも戦略的にも遠すぎるため、欧米投資家の間では「<地政学的>リスク」としてほとんど認識されていなかったためと考えられます。・・仮に北朝鮮がミサイルを飛ばしたとしても欧州には到達しませんし、米国でもせいぜいアラスカかハワイに届くのみですから、それほど危機感がないのでしょう。・・<他方、>日本の株式市場や韓国の株式市場、また円や韓国ウォンといった為替市場で欧米投資家依存がかなり大きくなっており、国内の投資家は欧米の投資家の動向を見ながらでないと動けなくなっている<のではないでしょうか>」と指摘しています。
 (以上、
http://money.jp.msn.com/investor/mktsum/columns/Columnarticle.aspx?cc=04&nt=04&ac=fp2006101800&wa=wsignin1.0
(10月20日アクセス)による。)
 私自身、北朝鮮の核実験以来、ブログへの訪問者数にせよ、アクセス数にせよ、それまでに比べれば増えたとはいえ、1.2??1.3倍程度にしかなっていないところから見て、日本人は北朝鮮の核問題に対し、極めて鈍感であるという印象を持っています。
 北朝鮮を身内と考え始めている韓国人が、今次核問題で危機意識を募らせていないのはある程度理解できますが、日本人のこの鈍感さにはやりきれない思いがします。
 安全保障問題で日本人に覚醒してもらい、国の自立を実現することを期して5年にわたってコラムを書きつづってきましたが、蟷螂の斧だったのかな、とかなり疲れを覚えている今日この頃です。