太田述正コラム#12343(2021.10.23)
<藤田達生『藩とは何か–「江戸の泰平」はいかに誕生したか』を読む(その1)>(2022.1.15公開)

1 始めに
 
 今度は表記のシリーズです。
 藤田達生については紹介する必要はないでしょう。

2 『藩とは何か–「江戸の泰平」はいかに誕生したか』を読む

 「1598<年>の秀吉死去に伴う朝鮮国からの撤兵、<1600>年の関ヶ原の戦い以降の徳川政権の盤石化は、「革命」を牽引した戦争経済を崩壊させることになった。
 これに並行して、満州・・・における後金(こうきん)の成立と大清帝国(清の正式名称)への成長が、東アジア世界に「泰平の世」をもたらした。
 豊臣政権は、戦争遂行のために繰り返し検地を強行することによって増税を企てたから、年貢米未進、田畑(畠)の荒廃や百姓の逃亡が急増し、地域社会は衰退していった。
 それに加えて、戦争のない状況が続くことによって発生する兵士の大量解雇、牢人や傾(かぶ)き者<(注1)>をはじめとする不平分子の上方都市への滞留が、深刻な社会問題となった。

 (注1)「かぶき者(・・・傾奇者、歌舞伎者とも表記)は、戦国時代末期から江戸時代初期にかけての社会風潮。特に慶長から寛永年間(1596年 – 1643年)にかけて、江戸や京都などの都市部で流行した。異風を好み、派手な身なりをして、常識を逸脱した行動に走る者たちのこと。茶道や和歌などを好む者を数寄者と呼ぶが、数寄者よりさらに数寄に傾いた者と言う意味である。・・・
 かぶき者は色鮮やかな女物の着物をマントのように羽織ったり、袴に動物皮をつぎはうなど常識を無視して非常に派手な服装を好んだ。他にも天鵞絨(ビロード)の襟や立髪や大髭、大額、鬢きり、茶筅髪、大きな刀や脇差、朱鞘、大鍔、大煙管などの異形・異様な風体が「かぶきたるさま」として流行した。
 多くは徒党を組んで行動し、飲食代を踏み倒したり因縁をふっかけて金品を奪ったり、家屋の障子を割り金品を強奪するなどの乱暴・狼藉をしばしば働いた。自分の武勇を公言することも多く、それが元でケンカや刃傷沙汰になることもあった。辻斬り、辻相撲、辻踊りなど往来での無法・逸脱行為も好んで行い、衆道や喫煙の風俗とも密接に関わっていた。・・・
 かぶき者になるのは、若党、中間、小者といった武家奉公人が多かった。・・・ かぶき者の文化は慶長期にその最盛期をみるも、同時にその頃から幕府や諸藩の取り締まりが厳しくなっていき、やがて姿を消していくが、その行動様式は侠客と呼ばれた無頼漢たちに、その美意識は歌舞伎という芸能の中に受け継がれていく。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8B%E3%81%B6%E3%81%8D%E8%80%85
 「17世紀初期に幕府が大坂や江戸の橋や河川、主要道路を整備して都市機能を持たせる政策を打ち出し・・・、多くの牢人に労務管理としての口入業を行わせている<が、>彼らが独自に生み出した珍奇な衣装、言動といったものが都市文化の風俗として捉えられたのが侠客である。これと同時に武士階級であっても存在価値を問われている遊民たちも独自の「風俗」を生じている。すなわち無為無禄の状態に置かれた旗本の次男以下からなる旗本奴、旗本奴に反発する庶民による町奴と謂われる者が侠客であ<る。>・・・
 <侠客とは、>闘争の場も「遊び」とする者たちである<、とする者もいる。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BE%A0%E5%AE%A2
 「歌舞伎の元祖は、「お国」という女性が創始した「かぶき踊」であると言われている。・・・お国が踊ったのは傾き者が茶屋の女と戯れる場面を含んだものであった。ここでいう「茶屋」とはいわゆる色茶屋のことで、「茶屋の女」とはそこで客を取る遊女まがいの女のことである。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%8C%E8%88%9E%E4%BC%8E

⇒平和な縄文モードへの転換期に武家奉公人の間から出現した、ファッション/生き様、が「かぶき」であり、その影響を受けて、戦闘と売買春の遊興化/演芸化、がそれぞれもたらされ、(喧嘩をし仁義を切る)侠客と(荒事と和事からなる)歌舞伎が生まれた、と、要約できそうですね。
 藤田の記述ぶりには、いささか、唯物史観・・暗黒史観!・・の痕跡が残っているように思います。(太田)

 天下統一の時代だった天正年間(1573~92)には豪華絢爛を競った、石垣造りで天守をもつ新型城郭–織豊・・・系城郭も、慶長年間(1596~1615)には老朽化し、メンテナンスにもこと欠くようになったのである。
 結果、その多くは廃城となり、地域拠点は大規模に移動することになる。」(ii~iii)

⇒ここの記述ぶりにも、同様のことが言えそうです。(太田)

(続く)