太田述正コラム#1500(2006.11.11)
<米中間選挙で民主党大勝利(続x3)>

1 対北朝鮮政策に変化なし

 前回(コラム#1498で)、「米国の対北朝鮮政策は・・私は現在のところ、変化はなかろうと見ている」と申し上げたところですが、朝鮮日報(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/11/10/20061110000058.html
。11月11日アクセス)が同じ見方をしているのでご紹介しておきましょう。
 同紙のワシントン特派員は、ハーバード大学ケネディ・スクールのデービッド・ガーゲン教授の、「今回の選挙に関し、北朝鮮とイランが、核拡散関連で米国の断固とした意志が弱まるものと読み間違える危険があり得る。今回の選挙結果は、外交問題に関する限り、北朝鮮とイランよりはイラク戦に関わるもの」という指摘を引用しており、私は、イランに関しては、ガーゲンの指摘は必ずしも正しくないと思うのですが、同特派員による、「北朝鮮を「悪の枢軸」と見なすブッシュ大統領の視点では、彼の宗教的信念とも触れており、民主党も北朝鮮を見る根本的視点では大きく違わないという点、また、北朝鮮との直接協商の話も6カ国協議の枠内という前提の下で出ているという点で、基本的骨組みは維持される可能性が大きいとみられている。」という総括の仕方は的確であると思うのです。
 その根拠を申し上げましょう。

2 その根拠

 (1)中間選挙直前のリーク
 米ワシントン・タイムズ紙は、11月3日、米国防総省は、大統領から攻撃命令が下った場合に対応するための準備として、北朝鮮の核施設に対する具体的な攻撃計画策定作業を数カ月前から始めていたところ、10月9日の核実験実施を受けてこの作業は加速された、と複数の国防総省当局者が語ったと報じました。攻撃対象の一つは寧辺(ニョンビョン)の使用済み核燃料再処理施設であり、海軍の特殊部隊による破壊計画やトマホーク巡航ミサイル6基による爆撃などが想定されており、攻撃による放射性物質の拡散を最小限に抑える観点から多面的な検討が行われている、というのです。(
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061104k0000m030124000c.html
。11月4日アクセス)

 (2)ペリー元米国防長官の発言
 また、クリントン民主党政権で国防長官を勤めたウィリアム・ペリー(William James Perry)(コラム#1339)は、4日、北朝鮮が建設中とされる黒鉛減速炉が稼働すれば、北朝鮮の核製造能力が高まるとの懸念を示したうえで、「中国、韓国が(北朝鮮を)威圧しないなら、原子炉が稼働する前に、米国は唯一の意味ある強制手段をとることになる」と述べ、米国が軍事力を行使する可能性があると語りました(
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20061104id21.htm
。11月5日アクセス)。

 (3)まとめ
 このように、米国の行政府筋と、民主党政権下での国防長官経験者が、北朝鮮の核関連施設に対する米国の武力攻撃の可能性について、民主党の勝利が(少なくとも下院で)確実視されたいた中間選挙直前に、あえて語ったということは、米国は、北朝鮮は決して核を放棄しないという前提の下、対北朝鮮武力攻撃の機会をうかがっているけれど、一点の曇りもない法的根拠を得るべく努力している、という(私が見るところの)ブッシュ政権の対北朝鮮政策の基本が、中間選挙後も変わるはずがないことを示している、と私は思うのです。
 民主党にリップサービスをするために、冒頭に紹介した朝鮮日報の記事でも言及されているように、6カ国協議の枠内で、ブッシュ政権は北朝鮮との2国間協議に積極的に応じるでしょうが、これは、上記対北朝鮮政策の基本の変更を意味するものと受け止めるべきではないのです。

3 付け足し

 スネー(Ephraim Sneh)イスラエル国防副大臣は10日、「<国際社会がイランの核開発に対して効果的な制裁を課する>可能性は高いとは言えない。私はうまくいかないと思っている。・・私はイランに対するイスラエルによる先制武力攻撃を支持しているわけではないし、そんなことをしたら起きるかもしれないしっぺ返しについても重々承知している。私は、先制武力攻撃は最後の手段だと考える。しかし、最後の手段も時には唯一の手段になりうる」と語りました。
 イスラエルの政府高官がこれほどはっきりイランに対する武力攻撃について口にしたのは初めてのことです。
 イスラエル政府の広報官は、副大臣の発言は政府ないしオルメルト(Ehud Olmert)首相の見解を必ずしも反映していないとしていますが、私は、スネー発言は、ブッシュ政権の対イラン政策の転換を見越して、単独ででもイスラエルはイランに武力攻撃をするぞ、それがいやなら、ブッシュ政権は、対イラン政策を転換するな、というイスラエル政府の対米恫喝だと見ています。
(以上、事実関係については、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/6137506.stm
(11月11日アクセス)による。)
 イスラエルと違って、日本は米国にはしごをはずされるようなことにはなりそうもありませんが、どっちにころんでも自分では何をすることもできない日本なんて、まことになさけない限りですね。