太田述正コラム#1512(2006.11.17)
<国内不祥事のその後(その1)>

1 始めに

 この数日間の日本の新聞の本紙や電子版に、昨年から今年にかけて世間を騒がしたいくつかの不祥事のその後に係る記事が出ていましたが、結構当時の私の指摘は、かなりいい線を行っていたな、と思います。
 判定は読者の皆さんにしていただくことにしましょう。

2 不祥事のその後

 (1)耐震偽装事件

 私は、昨年12月21日付のコラム(#1012)で、「日本の構造計算偽造をめぐる問題は、どうやら倫理感覚が欠如していて無能極まる構造計算専門の一級建築士だった姉歯氏一人に、関係者及び日本人全体が振り回されただけのようですね。そんな姉歯氏の唯一の功績は、国土交通省の建築・土木行政の杜撰さを、改めて炙り出してくれたことでしょう。」と指摘しました。

 結果は、「捜査当局は、関係業者が共謀した「組織的詐欺事件」とみて捜査を始めたが、偽装行為は・・姉歯・・の個人犯罪だったことが判明、・・<元木村建設・篠塚東京支社長に対する11月1日の東京地裁>判決で・・当初描かれた事件の構図は大きく崩れた・・それでも、ある捜査幹部は「事件を機に建築関係法令が改正され、建築制度のあり方が大きく変わった」と話す。」(日本経済新聞2006年11月17日朝刊)と、私の指摘どおりになりました。(
http://www.sankei.co.jp/news/061101/sha022.htm
(11月2日アクセス)も参照した。)

 叩けばホコリが出るもので、関係業者は脱税やら見せ金等の罪には問われたけれど、彼らは耐震偽装とは何の関係もなかったわけで、大山鳴動してネズミ一匹とはこのことです。
 マスコミも野党も、そして捜査当局も、まことに罪作りなことをしたものです。

 (2)ライブドア事件

 私は、ライブドア事件について、今年1月、コラム#1060(2006.1.26)をめぐる掲示板上での議論の中で、
「堀江氏は、違法性の認識は一貫してなかったのではないか、と現在のところ私は見ています。(違法行為を犯したと自覚していたとすれば、元警察官僚の亀井氏に選挙で挑戦するようなことは控えたはずです。)・・宮内氏らは、違法性の認識はあったけれど、そのことを堀江氏には説明しなかったため、堀江氏、すなわちライブドアは結果的に誤判断をしたのだ、と現在のところ私は見ています。」
と申し上げたところです。

 これに対し、一人の読者から、証券取引法違反容疑で逮捕された「ライブドアマーケティング」前社長岡本文人・・が2004年秋、ダミーの投資ファンドを利用して高騰した自社株を売り抜ける不正な手法について、「99.9%発覚するおそれがない」と関係者にメールで連絡していた・・メールには・・堀江・・と相談したことを示す記述がある」という記事(
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060126/mng_____sya_____012.shtml
)を引用しつつ、堀江にはやはり違法性の認識があったのではないか、という反論がなされました。

 その後、公判の中で、前ライブドア財務担当取締役の宮内亮治が、この手法を自ら堀江に報告したと証言したのですが、堀江は、「そんな記憶ない。宮内さんからの報告もなかった」と否定しました(
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061114-00000047-mai-soci
11月17日アクセス)。
 また、同じく公判の中で、この手法を説明したメールを多数堀江が部下から受け取っていたことも明らかになったのですが、堀江は、「忙しさによってメールは読んだり読まなかったりだった」と述べ、また、メールの題名によっては「知っても仕方がないこと」と考えていたと話しました(
http://www.sankei.co.jp/news/061114/sha015.htm
。11月17日アクセス)。
 つまり、堀江は、違法性の認識どころか、この手法がとられるという事実すら知らなかったと主張しているわけです。本当に知らなかったとすれば、違法だの合法だのという認識を問題にする意味がなくなります。

 常識的には、こんなものは眉唾ものの抗弁だと言われても仕方ありませんが、私は、堀江はウソをついていないのではないかと考えています。
 堀江は、宮内被告がライブドアの預金を担保にスイス系金融機関から私的に50億円を借り入れたことなども「全く知らなかった」と述べた(ヤフー上掲)ように、財務について、全く注意を払っていた様子が見えないからです。
 堀江自身、「軍隊じゃないんで(私が)グループ全体を強力に指揮統括していたというのは実態と違う」と述べ、宮内とは「上下の関係と思ったことはない。ビジネスパートナーだ・・<2001年以降は>腫れ物に触るような感じになった。めったな事は言えないと思った」と語っている(
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061107-00000021-mai-soci
。11月17日アクセス)ところからみると、堀江は、財務に関心を持っていなかったというよりは、宮内が財務を担当していたので、財務については口を差し挟まなかった、いや、挟めなかった、ということではないでしょうか。

 それにしても、堀江が、「<ライブドアはM&A(合併・買収)の会社ではなく、>インターネット関連企業です。・・ファイナンスは利益を上げても市場から評価されない。機械的に利益が出る会社にしないとライブドアをやっている意味がない。・・<ライブドアの時価総額経営については、>社員には営業利益世界一を目指そうと言っていた。(マスコミに聞かれて)面倒になってそういうこと(時価総額経営)かもしれないと言った。独り歩きしている」と証言している(http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20061107/eve_____sya_____003.shtml
。11月8日アクセス)ところを見ると、一体堀江とは、ライブドアとは何だったのか、と言いたくなりますね。

 堀江は、綱渡り的なものではあっても、少なくとも新しいビジネスモデルを生み出した、という私の評価(コラム#1059)は買いかぶりであったようです。
 こうなると、堀江は、経営者としての最低限の資質を欠いているし、ライブドアは組織の体をなしていない、と言わざるをえませんね。

(続く)