太田述正コラム#12596(2022.2.26)
<坂本一登『岩倉具視–幕末維新期の調停者』を読む(その21)>(2022.5.21公開)

 「岩倉のこうした改革志向がもっともよくあらわれているのは、明治初年の宮廷改革である。
 当時の天皇は一日のほとんどを高給で女官に囲まれてすごし、政治と縁のない生活を送っていた。
 こうした状況が続けば、君徳を培養し、天皇を中心とした新たな国家の建設など机上の空論にすぎない。
 それゆえ岩倉は、同様の危機感を共有する大久保利通らとともに、まず大阪遷都を提案した。
 公家や女官が差配する伝統的な有職故実の世界から、天皇を切り離し、本格的な帝王教育を開始できる新たな政治環境を創ろうとかんがえたのである。
 それが保守的な空気の強い新政府内で否定されると、今度は大坂行幸を計画した。
 大坂行幸は、1868年3月21日から、結果として50日におよぶ長期間のものとなった。<(注39)

 (注39)「鳥羽・伏見の戦い直後の<1868>年・・・1月17日・・・、参与・大久保利通は、総裁・有栖川宮熾仁親王に対して、明治天皇が石清水八幡宮に参詣し、続いて大坂行幸を行って、その後も引き続き大坂に滞在することを提言した。これにより、朝廷の旧習を一新して外交を進め、海軍や陸軍を整えることを図るとする。さらに同年1月23日には、太政官の会議において浪華遷都(大坂遷都)の建白書を提出するに至った。その中で宮中の「数百年来一塊シタル因循ノ腐臭ヲ一新」するために遷都が必要で、遷都先としては大阪が適していると主張している。しかし、大坂が京都に隣接しているとは言え、遷都を行えば千年の都である京都を放棄することとなるとして、これに抵抗の大きい公卿ら保守派の激しい反対を受け、同年1月26日に廃案となった。続いて大久保は、副総裁・岩倉具視を通して、保守派にも受け入れられやすい親征のための一時的な大坂行幸を提案し、同年1月29日これが決定した。
 大坂行幸の発表により、これが遷都に繋がるのではないかと捉えた公家や宮中・京都市民から、反対の声が高まった。そのため、太政官も同時に移すという当初の計画は取り下げられた。<1868>年3月21日、天皇が京都を出発。副総裁・三条実美ら1,655人を伴い、同年3月23日に大坂の本願寺津村別院に到着、ここを行在所とした。天皇は天保山で軍艦を観覧するなどして、40日余りの大坂滞在の後、同年閏4月8日京都に還幸した。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%A5%A0%E9%83%BD

⇒「注39」のように、一般には、大坂行幸は、もっぱら大久保利通のイニシアティヴで行われたとされているところです。
 というか、一貫して、岩倉具視は、近衛忠煕/薩摩藩の島津斉彬コンセンサス信奉者達、の指示の下で言動を行った、というのが私の見方であるわけです。(太田)

 その間、岩倉は、海軍と陸軍の親閲やイギリス公使との引見を実施し、さらには従来の慣行を破って無位無官の大久保や木戸孝允に対面させるなど、天皇の政治的関心の啓発につとめたのであった。

⇒この大坂行幸の際に豊国神社再興の御沙汰書が発出されたことへの言及が、坂本のみならず、一般になされないのは、これまで、誰もそのことの重大な意味に気付いていなかったからでしょうが、ただただ呆れるほかありません。(太田)

 「さらに岩倉らは、天皇親政主義を打ち出していった。
 まず1868(明治元)年3月14日、天皇が神前で公卿・諸侯を率いて五箇条の御誓文を誓い、閏4月21日、その誓文を実現するべく政体書を公布して、太政官<(注40)>を設置した。」(49~50)

 (注40)正しくは、行政官であり、「政体書により定められた「七官」中の一つ。輔相以下弁事,史官,書記などの官から成り,行政事務の総括という,政府行政部の中心機関としての任を負っていた。明治2 (<18>69) 年の官制改革で,太政官と改められた。」
https://kotobank.jp/word/%E8%A1%8C%E6%94%BF%E5%AE%98-52756

⇒御誓文の一番最初に来る「廣ク會議ヲ興シ萬機公論ニ決スベシ」のどこに、坂本は、親政主義があるというのでしょうか。
 なお、、今気付いたけれど、後の方に来る「舊來ノ陋習ヲ破リ天地ノ公道ニ基クべシ」の「「天地の公道」(木戸当初案では「宇内の通義」)とは、普遍的な宇宙の摂理に基づく人の道を指しているものと解される。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E7%AE%87%E6%9D%A1%E3%81%AE%E5%BE%A1%E8%AA%93%E6%96%87
ところ、「公道」とは、私の言う「人間主義」、と見てよさそうですね。(太田)

(続く)