太田述正コラム#1683(2007.3.7)
<米アフリカ軍の新設>(2007.3.15公開)

 (これは、ミニコミ誌「フォーラム21」3月15日掲載予定の拙稿に注をつけたものです。転載はご遠慮下さい。→転載可(2007.3.15))

1 始めに

 米国は唯一の超大国であり、自らを世界の警察官であると思っています。
 警察に管轄があるように、米国は、全世界を5つに分けてそれぞれに一つずつ地域統合軍を割り当てており(注1)、在日米軍は、地域統合軍の一つである太平洋軍に属しています。

 (注1)地域統合軍には、中央軍(USCENTCOM。中東・中央アジア・東アフリカ)、欧州軍(USEUCOM。欧州・露とアフリカの大部分)、太平洋軍(USPACOM。マダガスカルと中東・中央アジア以外のアジアとオセアニアと太平洋)、北方軍(USNORTHCOM。米加墨)、南方軍(USSOUTHCOM。墨以外の中南米)がある(
http://en.wikipedia.org/wiki/Unified_Combatant_Command
。2月25日アクセス)。

 さんざんイラクで失敗を重ねてきたというのに、懲りない米国は、来年9月末までに米アフリカ軍(USAFRICOM)という6つ目の地域統合軍を新たに設け、この軍にアフリカ大陸を一括して所管させる予定です(注2)。

 (注2)中央軍の所管に留め置かれるエジプトを除き、全アフリカがアフリカ軍の所管となる。アフリカ軍新設の経緯については、
http://www.nytimes.com/2007/02/07/washington/07africa.html?ref=world&pagewanted=print
(2月8日アクセス)、
http://www.guardian.co.uk/worldbriefing/story/0,,2008789,00.html
(2月9日アクセス)、
http://en.wikipedia.org/wiki/United_States_Africa_Command
(2月25日アクセス)参照。

 アフリカ軍の任務は、軍事介入よりもむしろ、紛争の予防のための外交的・経済的・人道的支援であり、米地域統合軍としては初めて、副司令官に国務省の文官が任命される、というふれこみです。
 しかし、これはタテマエであって、米国のホンネは次の三つであると考えられています。
 第一に、アフリカ東部でイスラム系のテロリストの活動が活発化しているのでその対策を講じることです。第二に、アフリカ西部への米国の石油輸入依存度が増えつつあるので、アフリカの産油国ににらみをきかすことです。第三に、中国が資源と市場を求めてアフリカに進出してきているので、アフリカの国々が中国になびかないようにすることです(注3)。

 (注3)アフリカ軍の任務については、ガーディアン上掲及び
http://www.moonofalabama.org/2007/02/understanding_a_1.html
http://www.moonofalabama.org/2007/02/understanding_a_2.html
http://www.moonofalabama.org/2007/02/understanding_a_3.html
(いずれも2月25日アクセス)参照。なお、既に東アフリカのジブチ(Djibouti)に、米軍が駐留しており、ソマリア内のイスラム系テロリストの掃討等に従事している(典拠省略)。

 これは、日本にとっても無関係な話ではありません。
米国同様、日本も世界中から石油等の資源を輸入しており、石油等の安定的供給を確保することは極めて重要です。アフリカから石油等が来なくなれば、日本だって困るのです。
 中東に続いてアフリカでもイスラム系テロリストの活動が活発化すれば、アフリカから石油等が来なくなるおそれがあります。ですから、アフリカのテロリスト対策にも日本としても無関心ではおれません。
しかし、何と言ってもアフリカ軍新設の最大のねらいは、日本の隣国である中国を牽制するところにあると私は見ています。

2 米国の中共封じ込め戦略

 つい先だって中国の温家宝首相自身が、中国の民主化には100年かかると述べたところですが、米国は、非民主的体制のままで中国の経済力や軍事力が膨張し続ける可能性が大きいと考えており、着々と中国を封じ込める布石を打っています。
 中国が資源を求めて進出してくるおそれが一番大きい中東・中央アジアには既に地域統合軍である米中央軍が待ち構えていますが、中国が次いで進出してくるおそれが大きいアフリカに、来年アフリカ軍を新たに配置することによって、この両軍と、これらの地域と中国を結ぶ海上交通路をも所管している米太平洋軍(注4)とをもって、米国は、これらの地域と中国との間に楔を打ち込むとともに、いざという時にはこれらの地域から中国が資源を入手できないようにしようというのです。

 (注4)米太平洋軍は、シンガポールに引き続いてインドを取り込もうとしている。シンガポールは事実上米軍に基地を提供している(http://www.globalsecurity.org/military/facility/singapore.htm。3月6日アクセス)が、初の米日印共同訓練が4月に日本近海で行われることになった(http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007030401000587.html。3月5日アクセス)ことは注目される。ちなみに、米国とシンガポールの間の事実上の基地提供了解覚書は、1990年11月、クウェール米副大統領とリー・クワンユー・シンガポール首相(いずれも当時)との間で東京において調印されている(globalsecurity上掲)。また、シンガポールは、米国主導の、大量破壊兵器・ミサイル及びそれらの関連物資の拡散を阻止するためのPSI(Proliferation Security Initiative)の創立メンバーに、アジアから、日本以外に唯一加わった(
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fukaku_j/psi/psi.html
3月6日アクセス)。

 こうした中で、日本がこれまで通り米国に自らの外交・安全保障をゆだね、米国に思いやり経費だけ貢いでいればよいのかどうかが問われています。