太田述正コラム#1771(2007.5.17)
<米国で今何が起こっているか(その1)>
 (予定を変更し、後編と併せて情報屋台に掲載することにしたので、公開します。)
1 始めに
 イラクの泥沼化した状況が、米国内に大きなインパクトを与えつつあります。
 その一端をお伝えしましょう。
2 内部からの米軍上層部批判
 (以下、
http://www.armedforcesjournal.com/2007/05/2635198
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/04/26/AR2007042602230_pf.html
http://www.slate.com/id/2166215/  
(いずれも5月17日アクセス)による。)
 (1)燻っていた批判
 米軍の少佐や中佐の多くは、フランクス(Tommy R. Franks)大将、サンチェス(Ricardo S. Sanchez)中将ら、対イラク戦の上級司令官達が、現実を把握するのが遅く、かつ楽観的すぎることについて、陰で怒りとフラストレーションを表明してきました。
 彼らは、これら将軍達が批判に晒されることなく、またこれまでの戦争の場合と違って低い業績でも交替させられることのないことも気にしてきました。
 彼らは、軍を去るという形でも将軍達への批判を表明してきたところです。
 (2)ついに出た公然たる批判
 そこへ、4月27日、ついに公然たる批判が出現したのです。
 イラクのタルアファー(Tall Afar)という都市に駐留している第3装甲騎兵の副連隊長であるインリン(Paul Yingling)中佐による、Armed Forces Journal5月号への将軍達を真っ向から批判した論考の発表です。
 この装甲騎兵連隊は、ブッシュ大統領がわざわざ言及したことがあり、現在バグダッドで展開されている治安作戦の模範となっただけに、インリン論考の衝撃は大きいものがありました。
 インリンは、この論考を発表することを上司に通知はしましたが、許可は求めませんでした。彼は将軍になる可能性を自ら捨て去ったと言えるのかもしれませんが、米陸軍を辞めるつもりはありません。
 彼は、この論考を事前に30名の同僚達に読んでもらったところ、中佐以下からは、ほぼ全員から賛同の声が返ってきたそうです。
 インリンは、現在の米国の将軍達は、人文・社会科学や外国語を身につけている者が少ないというのでは今時プロの軍人とは言えないし、彼らは責任感や創造力も欠如していると指摘します。
 だからこそ、第一に、彼らは1990年代を通じて、ゲリラ的な敵に対処するための方策を考え、準備することを怠り、第二に、対イラク戦が始まる前に、イラクに即して十分な検討を行うことを怠り、第三に、大統領に対し、フセイン政権打倒後にどんな困難が待ち受けているかを全く説明しなかった、というのです。
 結局、ロクな計画もないまま、しかも兵力不足でイラクに乗り込み、不穏分子の跳梁を許した挙げ句、常に不穏分子の力を過小評価する一方でイラク政府やイラク治安部隊の能力を過大評価するとともに、一般住民の死傷数を常に過小に発表する等米国民にイラクの治安状況を正確に提供することにも失敗した、とインリンは将軍達を批判します。
 将軍達はラムズフェルトを批判するヒマがあったら、自分達自身のことこそを反省せよ、というわけです。
 そして、インリンは、将軍に昇任させるにあたっては、若手の士官達の意見も聞け、と提案します。若手の士官達は、実際の戦場で誤った戦術がもたらす弊害に直面することから、その誤った戦術を最初に是正せざるをえない立場にあり、革新的で柔軟性がある将軍候補者を推すであろうからです。
 更に彼は、ダメ将軍は交替させられ、降格させられるべきであると提案します(注1)。
 (注1)第二世界大戦の初期には、上級士官の数が圧倒的に不足していたにもかかわらず、平時にしか役立たないとみなされた55人の将軍と245人の大佐が、司令官達によってクビにされた。(Fred Kaplan)
 インリンは、将軍達の人事に米上院がもっと関与の度合いを強めるべきであるとも提案するのです。
 米軍内に漲っている下克上の気運がひしひしと伝わってきますね。
(続く)