太田述正コラム#1749(2007.4.27)
<地球温暖化によるパラダイムシフト(その2)>(2007.5.29公開)
 面白いのは、高齢で大手術をして一時再起不能説がささやかれたキューバのカストロ(Fidel Castro)大統領が、健在ぶりをアッピールするためか(典拠省略)、ブッシュ米大統領の上記2017年を目標年に設定したバイオ燃料奨励計画を批判する論考を3月末に発表したことです。
 その論考によれば、米国はバイオ燃料を主としてトウモロコシから確保しているところ、1トンのトウモロコシからわずか平均413リットル(109ガロン)のエタノールしか生産できず、2017年に350億ガロンのエタノールを生産しようと思ったら、3億2,000万トンのトウモロコシが必要だが、米国のトウモロコシの生産量は現在(2005年)2億8,020万トンでしかないことだけから見ても、トウモロコシ等、バイオ燃料に用いられる食用作物の大幅な値上がりは必至(注1)(注2)であり、現在少なく見積もっても世界で30億人が飢えや渇きで苦しんでいることを思えば、こんな計画はとんでもない、というのです。
 (以上、特に断っていない限り
http://www.zmag.org/content/showarticle.cfm?SectionID=57&ItemID=12462 (4月2日アクセス)による。) 
 (注1)「米政府がエタノール増産に力を入れる理由のひとつに、テロ対策がある。エネルギーの中東依存を減らす計画だ。・・シカゴ先物市場でトウモロコシ相場は1ブッシェル=4ドル強と、昨年より8割近く急騰。史上3位の豊作にもかかわらず、96年以来となる高値をつけた。 ・・全米で・・、今年のトウモロコシ作付けは約10%増え、高水準となる見通しだ。・・トウモロコシ価格を押し上げているのは、国内生産の2割を消費するエタノールの急ピッチな増産だ。・・米政府は10年間で、代替燃料の供給量をエタノール換算で7倍ほどに増やす計画だが、実現には、全米のトウモロコシ生産のすべてを回しても足りないといわれる。・・トウモロコシへの転作が進むにつれ、作付けが減ったほかの穀物価格も上昇。小麦は10年ぶり、大豆もほぼ3年ぶりの高値をつけた。・・<また、>トウモロコシの6割近くは牛や豚、鶏などの飼料などに使われる。価格上昇は食肉産業にとって頭痛の種になりかねない。」(
http://www.asahi.com/business/topics/TKY200703290030.html 
。3月31日アクセス)
 (注2)メキシコの主食でトウモロコシを原料とするトルティーヤが、60%も値上がりしたため、1月には暴動が起きた(
http://www.csmonitor.com/2007/0420/p07s01-woam.htm  
。4月21日アクセス)。
 4月中旬に開催された南米エネルギーサミットの席上、大産油国ベネズエラのチャベス(Hugo Chavez)大統領は、トウモロコシを原料とするエタノール生産は、車に食わせるために貧者を飢餓に追い込むものだ、とこのカストロ論考と同趣旨の批判を米国に対してぶつけました。
 このサミットには、トウモロコシならぬサトウキビを原料にしたエタノール生産大国であるブラジルのルラ(Luiz Inacio Lula da Silva)大統領も出席しており、同大統領と3月にブラジルを訪問したブッシュ大統領の間で、ブラジルと米国のエタノール生産推進協力を合意したばかりであったため、気まずい雰囲気になったと伝えられています。
 (以上、CSモニター上掲による。)
 結局、食用作物のデンプンや糖分を原料とするエタノールでは、放出炭酸ガス減少効果は10%~15%にとどまるところに問題があるわけです。
 そこで、各国が、非食用植物のセルロース(cellulose)を原料とするエタノールを安く生産する研究開発にしのぎを削っています。この第二世代のバイオ燃料なら85%程度の放出炭酸ガス減少効果があります。
 この研究開発で最先端を走っているのがデンマークでありカナダであり日本です。
 (以上、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6539379.stm  
(4月12日アクセス)、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/04/19/AR2007041902519_pf.html  
(4月21日アクセス)、及び
http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20060208304.html  
(4月22日アクセス)による。)
 日本でも、ついにバイオエタノール(から合成した物質ETBE)を7%ガソリンに混ぜた「バイオガソリン」が26日から横浜で売りに出されました。
 元売り各社は、「バイオガソリン」を販売する給油所を10年度に全国へ広げる計画です。
 しかし、現時点では日本のバイオエタノール生産はわずかであり、フランスから輸入されたETBEが用いられています。
 (以上、
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007042601000077.html 
(4月26日アクセス)による、)
 欧米に比べてバイオ燃料の導入が遅れた日本ですが、第二世代のバイオ燃料を安く生産できる体制が整えば、急速に欧米に追いついていくことが期待されます。
 最後に一言。
 第二世代のバイオ燃料といえども、自動車の完全電気自動車化や水素自動車化までのつなぎにほかならないことを忘れてはなりません。
 というのも、バイオ燃料だって有毒な排気ガスを排出する点ではガソリンと変わりがないからです。
 4月18日に発表されたばかりの最新の研究によれば、ガソリンよりバイオ燃料(この研究では85%バイオ燃料を混入したガソリンを用いた)の方が排気ガスがきれいだと思われていたところ、バイオ燃料はベンジンとブタジエンの排気は減るが、formaldehyde と acetaldehydeの排気は増え、その結果、ガンの発生率は両者の間で変わらないだけでなく、バイオ燃料はガソリンより空中のオゾン(ozone)をより増やし、そのためスモッグがより増える、というのです。
 スモッグが、肺機能や免疫機能を低下させ、様々な疾病を引き起こすことはご存じですね。
 (以上、
http://news-service.stanford.edu/news/2007/april18/ethanol-041807.html?view=print (4月27日アクセス)による。)
(完)