太田述正コラム#1802(2007.6.11)
<地球温暖化問題でのコンセンサスの裏側>
 (本篇は、PRのため、即時公開します。)
1 始めに
 「主要国(G8)首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)で最大の焦点となった地球温暖化対策で、米国は最終的に「2050年までに温室効果ガスの排出量半減を検討する」との表現を容認した(注1)。「数値目標」を盛り込むことに慎重だったブッシュ米大統領がなぜ合意へと急ハンドルを切ったのか。」と東京新聞は問題提起をしました(
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2007060902022828.html  
。6月9日アクセス)。
 (注1)しかも米国は、「国連を通じて」「2009年までに」合意が形成されるべきことにまで同意した(
http://www.guardian.co.uk/g8/story/0,,2098213,00.html  
。6月8日アクセス)。
 そこで、そのあたりをさぐってみました。
2 安倍首相の功績?
 「今回の主要国首脳会議・・で果たした日本の役割には意義がある。安倍晋三首相は渋るブッシュ大統領を説得し、米国に日本、欧州、カナダの合意を尊重し、長期的な目標を設定することを受け入れさせた。この合意をもとに米国と並んで中国、インドなど京都議定書に参加していない世界の二酸化炭素(CO2)<の>・・主要排出国が参加できる枠組みをつくる道筋を付けた。」と、日本の安倍首相の自画自賛を真に受けた、知人の田村秀男編集委員(注2)による論説が、産経新聞に載りました(
http://www.sankei.co.jp/keizai/kinyu/070610/kny070610000.htm  
。6月10日アクセス)。
 (注2)田村さんは、私がかねてから高く評価してきた記者であり、日本経済新聞から昨年だったか産経新聞に転身した。これから、こういうことは増えて行くだろう。
 日本のTV各局も、ニュースで安倍首相の自画自賛発言をそのまま流していたので、そう思いこんでいる日本国民が多いのではないでしょうか。
 しかし、冒頭に掲げた東京新聞の記事は、日本のメディアの中ではめずらしく、「盟友のブレア英首相は間もなく政権を去る。ドイツのメルケル首相、フランスのサルコジ大統領ら主要国の新リーダーたちと関係を強めるため、<ブッシュ大統領としては、>両氏の顔を立てる戦略もあったとみられる。」といった観測を載せており、安倍首相功績説を間接的に否定しています。
 もっともこれは、英独仏側を取材して裏を取った記事でないことは、明らかです。
 では、本当のところはどうだったのでしょうか。
3 ブレア首相の功績
 結論から申し上げれば、これは、「ブレア首相がメルケル首相から頼まれて、ブッシュ大統領との密接な関係を活用してブッシュに働きかけたおかげで<米国政府の方針転換が>実現した」のです。
 私の信頼するガーディアンが、英国政府筋から裏を取って記事にしている(
http://www.guardian.co.uk/g8/story/0,,2098250,00.html  
。6月8日アクセス)ので間違いないでしょう。
 このことは、ブレア首相が、「巨大な前進だ。・・これは大きな大きな前進だ。(a huge step forward.・・This is a major, major step forward.)」と大喜びし、メルケル首相も、「大変、大変実質的で顕著な前進である。(a very, very substantial and significant step forward)」と大喜びして見せたのに対し、フランスのサルコジ大統領が、「もし君達が、私にわれわれはもっと成果を挙げられるはずだったと言って欲しいのなら、そうだと答えよう。私は率直に語りたい。(If you want me to say that we could have done better, then yes. I want to speak frankly.)」とぶっきらぼうに語ったこと(ガーディアン上掲)は、サルコジが本件で蚊帳の外に置かれていたことを示しており、これはメルケル・ブレア協働説を裏付けるものであると思います。
4 感想
 何度も申し上げていることですが、改めて、日本のメディアの国際取材力が、英米、特に英国と比較して格段に見劣りすることがお分かりいただけたでしょうか。
 いずれにせよ、米国の保護国である日本の首相が、米国が重要な国益に関わると考えている案件で、米国の大統領に影響力を及ぼせる、何てことはありえない、ということを肝に銘じておく必要があります。