太田述正コラム#1869(2007.7.17)
<国際貢献を放棄した日本>
 (本篇は情報屋台用のコラムを兼ねており、即時公開します。)
1 始めに
 日本は、いつの間にかODAも防衛費も削減してしまい、他方欧米諸国や中国等はどちらの経費も増額しているため、ODA小国、防衛費小国になりさがりつつあります。
 また、日本は移民ないし外国人労働者の受け容れも遅々として進んでいません。
 これでは日本は国際貢献を放棄してしまった、と言われても仕方ないでしょう。
 日本は米国の保護国なので国益云々を口にしてもむなしい限りですが、このことにより、日本の国益は大いに損なわれつつある、と私は思っています。
2 ODA
 OECDがつい最近発表した報告書によれば、日本のODA(海外開発援助)は昨年、米英に次ぐ世界第3位に転落してしまいました。
 日本のODAは1982年に英国を抜いて2位になり、1991年には米国も抜いて1位になって爾後10年間にもわたって1位の座を保ったというのに、2001年に米国に再び抜き返されたと思ったら、今度は英国にまで抜き返されてしまったわけです。
 昨年のODAは、米国が227億ドル、英国が126億ドル、日本が116億ドル、フランスが104億ドル、ドイツが103億ドルでしたが、日本はこのままでは2010年前後にフランスとドイツにも抜かれてしまうだろうと予想されています。
 2001年の9.11同時多発テロ以来、テロ防止の観点からも発展途上国における貧困対策は重要であるとして、欧米諸国は1990年代の援助疲れを克服して再びODAを急速に増やし始めたというのに、日本は財政再建のためと称してODAを減額し始めて現在に至っているのです。
 先進諸国のODAを全部合わせても、まだまだ足らないとされている上、ODAの大盤振る舞いを始めた非・自由民主主義国である中国に対抗する必要性も指摘されている折、日本のODAに対するこのような姿勢は、世界第2位の経済大国としては言語道断ではないでしょうか。
 (以上、
http://www.atimes.com/atimes/Japan/IG17Dh01.html  
(7月17日アクセス)による。)
2 防衛費
 日本はもともと防衛費の対GDP比が低く、これは憲法上の制約からであるとし、だからこそ、ODAに力を入れるという触れ込みでしたが、ODAが以上のような体たらくであるだけでなく、防衛費も昨年までの5年間にわたって毎年減額して来ました。
 他方、欧米諸国は、やはり9.11同時多発テロ以降、(冷戦終焉以降減らし続けてきた)防衛費を急速に増額させ、現在に至っています。
 その結果、冷戦終焉後に一時米国に次ぐ世界第2位に浮上した日本の防衛費は、英仏に抜き返され、ついに昨年には中国にまで抜かれて、米英仏中に次ぐ5位に転落してしまいました。
 しかも購買力平価で比較すると、何と昨年の日本の防衛費は、昨年、米国、中国、インド、ロシア、英国、フランス、サウディアラビアに次ぐ8位であるという試算もあります。
 (以上、
http://www.sipri.org/contents/milap/milex/mex_trends.html
(7月17日アクセス)による。)
 これでは、日本は軍事的に、宗主国の米国のみならず先進国全体にただのりしているという誹りを免れません。
 このように防衛費を国際貢献費としてODAと同じ範疇でとらえることに違和感を持たれる方もおられるかもしれませんが、日本の場合、核の脅威を除けば、直接的な軍事的脅威はほとんどないので、防衛費はほぼ純粋な国際貢献費と言ってもよいのです。
 なお、核の脅威に対するミサイル防衛だって、日本列島内外の米軍基地や米国領の太平洋諸島の防衛に資するものであり、その経費は国際貢献費とみなしてもあながち間違いとは言えないでしょう。
3 移民ないし外国人労働者の受け容れ
 今回の参議院選挙の最大の争点は、結果として、老後の保障をどうするかということになりました。
 しかし、年金にせよ、介護にせよ、更には医療保険にせよ、あるいは生活保護にせよ、老後の保障の問題に本当に取り組むのであれば、(税金・年金等の)国民負担率の上昇と介護士・看護士・医師等の外国人への開放は避けて通れません(
http://www.nikkei.co.jp/neteye5/asakawa/  
。6月26日アクセス)。
 ところが自民党も民主党も、国民負担率の上昇については口を閉ざして先送りし、移民ないし外国人労働者の受け容れについても、依然口を濁しています。
 国民負担率の上昇は、防衛費やODAを増やすため、つまりは国際貢献のため、にも不可欠であり、また、移民ないし外国人労働者の受け容れは、国際貢献の観点からも推進されるべき事柄です。
 このような意味でも、日本は国際貢献を放棄している、と言えるのではないでしょうか。
4 終わりに
 私は、今回の参議院選挙において、年金行政の杜撰さに象徴される日本の官僚機構の堕落や自民党系の政治家の政治資金をめぐる醜聞ばかりが問題とされ、日本の国際貢献の放棄という、考えようによってはより深刻な問題が全く話題にのぼらない現状を心から憂うるものです。