太田述正コラム#1884(2007.7.30)
<参院選の結果>
 (本篇は、特別に即時公開します。)
1 始めに
 結局NHKの参院選開票速報を2000から2400頃までTVで見てしまいました。
 2300過ぎから、各党首を引っ張り出したインタビューが始まりましたが、気になったのが、安倍首相(自民党総裁)がすっかり老け込んでしまったことや首をずっと右に傾けていたことと、小沢民主党代表が姿を現さずに鳩山幹事長と菅代表代行が代わりを務めていたことです。
 もっと気になったのは、なぜ小沢氏が姿を見せないのか、NHKの記者が誰も尋ねようとしなかったことです。
2 小沢氏の不在をめぐって
 今回の参院選は、自民党が1955年に結党してから参院で占めてきた第1党の座から初めて滑り落ちるという歴史的な結果になったわけですが、改選議席についてだけ見ると、宇野首相が退陣に追い込まれた1989年の参院選の時の自民党の獲得議席36議席より1議席多い37議席を、なお自民党が獲得した(
http://www.asahi.com/politics/update/0729/TKY200707290263.html
。7月30日アクセス。以下同じ)ことに私はいらだちを覚えます。
 1989年以降も、基本的に自民党政権が続いたわけで、同じことを繰り返さないためには、よほど民主党に頑張ってもらわなければなりません。
 ところがその民主党の党首が、選挙に勝利した日に姿を現さず、彼の口から選挙の総括と今後の方針が語られなかったのですからこれは大事件です。
 ところが、本日(30日)の日本の主要紙の電子版中、小沢氏の不在に触れたのは讀賣だけではありませんか。
 しかも、同紙は、「民主党の菅代表代行は30日未明の記者会見で、「遊説疲れでかぜ気味なので、医者から静養するように(言われた)ということだ。(静養は)1、2日だと思う」と述べた。党幹部は「小沢氏は自宅にいる。入院はしていない」と語った・・が、党内では健康不安を指摘する声も出ている。」という程度の記述にとどめています(
http://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin2007/news/20070729ia23.htm
)。
 より踏み込んだ記述をしているのが、隣国韓国の朝鮮日報です。
 同紙は、「小沢氏の首相就任可能性・・<の>最大の弱点は健康面だ。小沢氏は91年に狭心症で倒れて以降、健康問題を指摘されて久しい。今回の参院選でも投開票が行われた29日、疲労を理由に自宅で静養し、民主党圧勝にもかかわらずメディアに姿を見せなかった。」(
http://www.chosunonline.com/article/20070730000007
)と病弱な小沢氏が首相になれるのか、つまりは小沢氏が代表のままで果たして民主党が政権をとれるのか、疑問を投げかけています。
 私は、民主党の心ある人々が、健康問題をとらえて小沢氏に代表辞任を促すべきだと思います。
 その理由を申し上げましょう。
 確かに小沢氏の今回の選挙において果たした役割は大きいものがあります。
 今回の選挙で民主党が勝利したのは、安倍内閣の閣僚達の失言や政治資金をめぐる不祥事のおかげであるという面がありますが、決してそれだけではありません。
 小沢氏は就任後、安倍首相の弱点・・憲法問題等にばかりかかずらわって経済や行政管理に弱く一般市民の身近な関心に鈍感・・を衝いてきました(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-japan30jul30,0,7501386,print.story?coll=la-home-world
)。
 年金問題がプレイアップできたのは、たまたまこの時期に民主党議員達の努力もあってこの問題が露見したというラッキーさがあったとはいえ、上記のような小沢氏の安倍政権に対するスタンスのたまものなのです。
 
 小沢氏がとりわけ力を入れたのが農村戦略でした。
 農村はかつては自民党の金城湯池でしたが、自民党政権が公共事業と農村への補助金を削減してきたため、自民離れが起こり始めていました。そこへ、民主党はコメや小麦、大豆などの重点品目を栽培している販売農家の生産費と市場価格との間に差ができた時に、その不足分を支払う「戸別所得補償制度」の創設を掲げてこの自民離れを加速させたのです(
http://www.nytimes.com/2007/07/29/world/asia/29cnd-japan.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
http://www.chunichi.co.jp/article/feature/saninsen07/all/CK2007072302034975.html
)。
 しかし、小沢氏には致命的な弱点があります。
 朝鮮日報も指摘するように、「小沢氏は政治家の系譜上で「保守本流」に属する。衆議院議員を務めた父小沢佐重喜は、保守本流の祖と称される吉田茂元首相の側近だった。父の選挙区を受け継いだ後も、自民党内で田中-竹下ラインにつながる自民党保守本流の「皇太子」として頭角を現した」のであって、「小沢氏は改憲論争の争点である9条をめぐり、紛争解決の手段としての武力を放棄し、交戦権を認めないとする1、2項を維持し、「正当防衛のための武力保有」のみを許容する3項の新設を主張している。自衛隊を国防に専念させ、日本主導で国連常備軍を別に組織し、国際協力を進めるべきとの立場(
http://www.chosunonline.com/article/20070730000008
)であるという点です。
 つまり、小沢氏の憲法論は吉田ドクトリンの系譜につながる同ドクトリンの亜種であるということです。
 しかし、今回民主党に票を投じた自民党支持層や無党派層(注1)の少なからざる部分は、こんな小沢氏率いる民主党に、文字通りの政権選択選挙である来るべき総選挙で一票を投じることには躊躇せざるを得ないでしょう。
 (注1)今回の選挙の「出口調査での政党支持率は自民38.0%、民主25.5%、公明5.7%、共産4.4%、社民2.4%の順。「支持政党なし」の無党派層は18.7%だった。自民支持層を見ると、選挙区で同党候補に投票したと答えたのは59.4%、比例代表でも62.8%にとどまった。・・これに対し、民主支持層は選挙区で77.7%、比例代表で86.6%が同党候補か同党に投票したと回答。・・無党派層は5割が選挙区、比例代表ともに民主候補か同党に投票したと回答した。自民への投票は選挙区で15.5%、比例代表で16.7%。」(
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/news/20070730ddm012010036000c.html
)。
 せっかく憲法第9条第2項(交戦権の放棄と軍隊保有の禁止)を削除する方向で国民のコンセンサスができつつある(注2)現在、こんな小沢氏の憲法論、つまりは小沢氏にはお引き取りを願うほかないのです。
 (注2)現行の憲法第9条墨守を最大の目玉にして今次選挙を戦った共産党と社民党の(得票率5%未満の)泡沫政党化((注1)の冒頭、及び
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/news/20070730k0000m010170000c.html
)がこのことをはっきり示している。
     ちなみに、公明党も泡沫政党化する寸前だ。参院選挙としては高かった今回の58.64%という投票率を60%台に乗せればたちどころにそれが実現する。それは、終わりつつあるところの、団体に依存した組織選挙にトドメを刺すことにもつながる。(事実関係は、
http://www.asahi.com/politics/update/0730/TKY200707300014.html
による。)
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<太田>
 マイMixiのメンバーは(私を除いて)17人、Mixiコミュニティー「太田述正コラムの広場」のメンバーは(私を除いて)15人に増えました。
 なお、私の判断でとりあえず、コミュニティーに、コラムに書き残したことやコラムに盛り込めなかった資料の紹介を書き込むことにしていますので、興味のある方は、ぜひコミュニティーを覗いてみてください。