太田述正コラム#1815(2007.6.16)
<軍事と国家>(2007.8.5公開)
1 始めに
 軍事は国の大事です。
 これは戦後の日本では常識ではありませんが、世界の常識です。
 とりわけ、アングロサクソンにとっては、軍事はかつては彼らの生業であり(コラム#852、857)、さすがにそうではなくなった現在においても、彼らの潜在意識の中にはそうであった時の記憶が刻み込まれています。
 それは、世界中に軍事基地を張り巡らせ、何かあるとすぐに軍事力を行使する米国をご覧になれば、私の言いたいことがお分かりになると思います。
 また、軍事産業を維持・発展させるために、条約違反や法律違反を犯してでも賄賂を積んでサウディ等への武器輸出に血道を上げる英国のことも思い出してください。
 今回は、パキスタンとイスラエルで、いかに軍事が国の大事であるかをご説明したいと思います。
2 パキスタンの軍人ビジネス
 イスラム教と反インド感情だけが紐帯となっているパキスタンで、一貫して国を支配してきたのは軍部です。
 何せ、インドと何度も熱戦を戦い、国内では、分離主義グループや不穏分子と戦い続けてきたお国柄ですから、軍部の力が強くなるのは当たり前とも言えます。
 現在なお65万人の要員を擁するパキスタン軍は、パキスタンが1947年にインドと分離独立した後、1958年に政権を掌握し、爾来幾度となく政権を担ってきました。
 よくご存じのように、現在のムシャラフ政権も軍部の政権です。
 また、軍のメインの諜報機関であるISIは度重なる政治介入で悪名をはせています。
 
 そのパキスタンでは、軍部の5つの共済団体が、石油給油所、パン屋、銀行、保健所、大学、工場等をパキスタン全土にわたって経営しています。
 こうして軍部は、重工業の三分の一、そして民間資産の7%を支配しているというのです。
 軍部は、収益を教育・医療・厚生施設に還元していて、900万人もの受益者がいると主張していますが、その根拠は定かではありません。
 共済団体によって経営されている企業は殆ど情報公開をしていないからです。
 
 ムシャラフ大統領になってから、軍部の影響力は更に大きくなっています。
 ムシャラフは、1,200名もの将校を公益的組織や大学や職業訓練校等に天下りさせてきたのです。
 このようなパキスタンの軍人ビジネスは、政府の土地や軍事資産を無償で使用できるし、経営が困難になると無利息で融資が与えられる、というのですから、濡れ手に粟であり、どれもこれも放漫経営がなされている、という評価がもっぱらです。
 (以上、
http://books.guardian.co.uk/news/articles/0,,2092182,00.html  
(6月2日アクセス)による。)
3 イスラエルの軍需産業
 ガザでハマスがファタとの戦いに勝利して、ガザはハマスの掌握するところとなりました。また、レバノンのヒズボラの暗躍は続いていますし、シリアとの敵対関係は相変わらずであり、イラクはご案内のとおりであり、イスラエルを抹殺すると宣言しているイランは核装備を目指しています。
 このように、イスラエルを取り巻く情勢で、いい話は全くない昨今です。
 しかし、そのイスラエル経済は今絶好調です。
 まさに、いい話が全くないからこそ、経済が絶好調なのだ、という説が唱えられています。
 一時苦境に陥っていたイスラエル経済は、2001年の9.11同時多発テロで息を吹き返しました。
 イスラエルが、四六時中にテロに備え、テロに対処してきたからこそつくり出すことができた信頼性が高く高性能である対テロ機器・・ハイテクフェンス・無人機・生体認証機器・ビデオ監視機器・航空機乗客プロファイリング装置・囚人尋問システム、等・・を中心とする武器の輸出が、その後どんどん増え、米国への輸出だけでも1999年には2億7,000万米ドルだったのが2006年には12億米ドルに増えたおかげです。
 この結果、イスラエルは、賄賂を駆使して武器の販路確保に努めてきた武器輸出大国の英国さえも追い抜き、世界第4位の武器輸出大国になりました。
 (以上、
http://www.guardian.co.uk/israel/comment/0,,2104439,00.html  
(6月16日アクセス)による。)