太田述正コラム#1837(2007.6.26)
<米アフリカ軍の新設(続)>(2007.8.8公開)
1 始めに
 毎日新聞が、「ヘンリー米国防筆頭副次官(政策担当)(注)は・・来年秋に国防総省が創設する地域統合軍 「アフリカ軍」について、「中国は経済問題を通じて一定の政治的影響力を行使している・・アフリカをよりよい地域にし、それによって米国や他の諸国が将来、共に利益を分かち合うことができるが、資源獲得における中国の進出はそれとは少し異なる・・現段階で中国は軍事面でアフリカに深く関与してはいないが、一定の政治力を発揮している。国務省出身の副司令官を置くことで、アフリカでの中国の影響力を正確に把握することができる」と述べ、資源獲得などを目的にアフリカ諸国との政治的・軍事的関係 構築を強める中国を監視する狙いがあることを明言した。」(
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/news/20070624k0000m030110000c.html
。6月24日アクセス)という記事を書いてくれたので、私が3月上旬に書いたコラム#1683の分析が正しかったことが裏付けられました。
 (注)Ryan Henry, principal deputy under-secretary of defence for policy
 そこで、時間が経過したこともあり、補足することにしました。
2 つまはじき者の米国
 コラム#1683で、「さんざんイラクで失敗を重ねてきたというのに、懲りない米国は、来年9月末までに米アフリカ軍(USAFRICOM)という6つ目の地域統合軍を新たに設け、この軍にアフリカ大陸を一括して所管させる予定です」と、この構想の前途が多難であることを示唆したところ、これについても裏付けられました。
 最近、アフリカ北部を、400人から1,000人の米アフリカ軍本部受け入れを求めて回ったヘンリー米国防筆頭副次官以下の米代表団は、リビアとアルジェリアに、ひじ鉄を食わされたばかりか、周辺諸国が米軍を受け容れるのにも反対するとまで言われてしまいました。
 親米でならすモロッコでも、色よい返事はもらえませんでした。
 この界隈では、そもそも米国の「無法な」対テロ戦争に協力し過ぎている、という世論が圧倒的だからですし、米軍を受け容れるとその米軍がテロの目標になることも懸念されるからです。 
 困った米国は、アフリカ軍は、司令部らしい司令部を設けず、ネットワーク的な組織にすることを検討しています。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/06/23/AR2007062301318_pf.html
(6月24日アクセス)、及び
http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,2111473,00.html 
(6月26日アクセス)による。)
3 こちらも評判の悪い中共
 興味深いことに、タテマエはともかくとしてホンネでは米アフリカ軍創設の最大のねらいである中共の牽制の対象たる中共の評判も、アフリカではよろしくないのです。
 評判の悪いことの第1は、中共は、現地の人々を雇うより、支那人を連れてきては、石油や鉱物資源をアフリカから奪い去る植民地主義だ、というイメージが広まっている点です。
 もっとも植民地主義などと呼ばわるのは、アフリカで奴隷貿易を行ったこともなければ、アフリカを植民地にしたこともない中共にはやや酷ではないでしょうか。
 第一、ホンモノの植民地主義はすさまじい代物でした。ポルトガルなんて、1975年に独立を認めるまで、アンゴラを500年間も統治したというのに、アンゴラ人の役人や将校を一人も養成せず、独立した時点で、首都ルアンダには一人の現地人医師、弁護士、エンジニアもいなかったのですから・・。
 要するに、中共は大国ではあるけれど同時に発展途上国でもあるのであり、中共が国内で鉱山の大事故を頻発させたり、ダムを造るときに乱暴な強制立ち退きをさせたり、汚職まみれで開発プロジェクトを推進したりするのと同じことをアフリカでもやっているだけだ、と見ることができるわけです。
 評判が悪いことの第2は、鳴り物入りで実施されている中共の対アフリカ経済援助は、好ましくないとして米・欧・日がとっくの昔に卒業した、いわゆるひも付き援助だという点です。
 すなわち、中共の援助額の7割は中共の企業、主として国営企業が受注することになっていますし、残りの3割もほとんどは中共と受け入れ国の合弁企業が受注します。
 これも、中共がまだ貧しいので、米・欧・日のようにきれい事は言ってられない、という風に解釈すべきなのかもしれません。
 評判が悪いことの第3は、中共が、スーダンやジンバブエといった芳しからざる国々を支援し、もっぱら石油や鉱物資源の確保だけを目指し、環境や社会問題にほとんど関心を払わないという点です。むろん、こういった芳しからざる国の政府からは、中共はガバナンスの確立だの腐敗撲滅だの改革だの人権だのとうるさいことを言わずに経済援助をしてくれるのですから歓迎されています。
 中共に言わせれば、支那が列強の介入によってひどい目にあったから、自分達は他国の主権尊重、内政不干渉で行くのだ、ということなのですが、欧米諸国からすれば、内戦や人権抑圧を行っている国から手を引いたところに、しめしめと中共が入り込んでくる、としか見えません。しかも中共は、芳しからざる国の政府に軍事援助(武器の売却)までする、また、これらの国の政府に対し、欧米諸国が国連安保理で制裁や平和維持軍派遣を決議しようとすると中共が拒否権をちらつかせてそれに反対したり抵抗したりする、というのですから、欧米諸国としては、不愉快極まりない思いでいるわけです。
4 展望
 サハラ以南のアフリカのGDPの成長率は1970年代と80年代にはマイナスでしたが、1990年代以降は5%を超えています。
 中共はそのアフリカとの間で昨年550億ドルもの貿易を行っており、米国の910億ドルに次ぐ第二位です。ちなみに、第三位はフランスで470億ドルでした。しかも、5年以内に中共は米国を抜くと見られています。
 (以上、
http://www.csmonitor.com/2007/0625/p11s01-woaf.htm、  
http://www.csmonitor.com/2007/0625/p12s01-woaf.htm  
(どちらも6月25日アクセス)、
http://www.ft.com/cms/s/908c24f2-2343-11dc-9e7e-000b5df10621.html
(6月26日アクセス)、
http://www.csmonitor.com/2007/0626/p01s08-woaf.htm  
(6月26日アクセス)による。)
 ですから、上述した中共批判、就中欧米諸国による中共批判は、この経済が活況を呈しているアフリカで着々と地歩を固めつつある中共に対するやっかみから来ている面が強いのです。
 とはいえ、中共が非自由・民主主義国家であることは忘れてはならないでしょう。
 現在のままの中共がアフリカで主導権を握ることは、欧米はもとより、日本にとっても決して歓迎されることではありません。
 しかし、そのアフリカで、中共を政治・軍事的に牽制する役割を米国が一国主義的に担うこともまた、好ましくありません。
 私は、米地域統合軍は基本的に解消し、したがって米アフリカ軍の創設も取りやめ、NATOを拡大して、豪州や米国から自立した日本が拡大NATOのメンバーとなり、更にインドも取り込み、この拡大NATOが米国を中心として、多国籍的にアフリカを含む世界の安全保障を担う、という体制を確立することが望ましいと考えているのです