太田述正コラム#2000(2007.8.15)
<防衛次官人事問題(続)>
 (本篇は情報屋台の掲示板への投稿を兼ねており、即時公開します。)
1 詳細な経緯
 防衛次官人事問題について、更に詳細が分かってきました。
 小池氏は訪米前日の6日、官邸に首相を訪ねて守屋防衛次官退任の人事構想を伝え、了解を得た。
 7日朝刊に、この小池人事が掲載された。
 守屋氏は小池氏に「絶対に認められない! 就任1か月の大臣に、人事の何がわかるんですか」と食ってかかった。また、残りの省内人事案作りを託された西川官房長を問いつめ、「……大臣に言われ、人事案を作りました」と説明した西川氏に、守屋氏は「恥を知れ!次官に報告しないで、何のつもりだ」とどなった。
 小池氏はその日の午後、訪米した。
 守屋氏は後任人事で巻き返すため、旧防衛庁生え抜きの山崎運用企画局長を次官に充てる人事案を手に、首相官邸関係者などに根回しを始めた。
 自民党の山崎拓安全保障調査会長は9日、「(小池氏が米国)出発前に人事を記者団にリークする形で発表していったが、首相の了承がなければできない人事だ。閣議にかけられた形跡もないものが独り歩きしている」と批判した。
 訪米から帰国した小池氏は13日午後、首相官邸で塩崎官房長官に、首相の了解は得ていることを明らかにした上で、9月1日付で防衛次官を退任させるための人事検討会議開催を求めたところ、「人事は、内閣改造で選ばれた次の大臣が決める」と言われた。
 そこで、小池氏は辞任をほのめかして席を立ち、安倍首相にことの次第を説明した。
 翌14日午後、小池氏と守屋氏が「会談」。小池氏が再び西川氏の次官就任に協力を要請したのに対し、守屋氏は「私のクビはいいが、役所としてはそんな人事は絶対に認められない。・・西川氏では組織がまとまらない」と言い放った。
 的場順三官房副長官は14日午後の記者会見で、防衛次官の後任人事の決定について、27日予定の内閣改造後になるとの見通しを明らかにした。的場氏は「事務的に相談を受けていないので遅れる。明日の閣議に間に合わなければ、来週は閣議がなく(改造前には)物理的に間に合わない。人事検討会議を開く手続きは今のところなく決めようがない」と述べ、閣議了解人事は「常識的には、きちんと決まってから報告するもので、事前に漏れるのは良くない」と不快感を示した。
 安倍首相は14日夕、「人事はまだ何も決まっていない。防衛省は国の安全保障を担っている。この国民の生命と財産を守る役所に、ふさわしい人事を考えていかなければならない」と述べ、事態を静観する姿勢を強調した。
 小池氏は15日の閣議後の記者会見で、・・守屋氏が人事案を事前に聞かされなかったと反発していることについて、「(報道前日の)夜に2度、次官の携帯に電話しても返事がなかった。これまでも同様のことがあり、危機管理上どうか」と批判、不信感をあらわにした。 
 塩崎官房長官は15日の記者会見で、防衛次官人事の決定時期について、「閣議了解事項であり、次の組閣後でいいんじゃないか」としながらも、検討会議の開催時期については明言を避けた。さらに「手続きの問題で、中身のことを言っているわけではない」と語り、人事案そのものには同調を示唆した。
 (以上、
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070810AT3S0900L09082007.html
(8月10日アクセス)、
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007081401000800.html
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007081401000704.html
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe7700/fe_022_070815_01.htm?from=yoltop
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070815AT3S1500I15082007.html
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20070815k0000e010073000c.html
(いずれも8月15日アクセス)による。)
2 コメント
 私が予想したとおり、小池全面勝利の方向で本件は進んでいますね。
 ところで、本件では、小池、西川両名以外の関係者は全員失格です。
 まず、守屋氏はもってのほかです。
 人事権者が人事対象者に事前に人事を相談しなければならない、なんてことがあるわけがありません。
 それに、上司が自分の部下に直接仕事を命じたことにイチャモンをつけるのもおかしい。その部下が事後的に自分にそのことを報告しなかったことだって一概には咎められません。
 許し難いのは、上司、しかも政治家たる上司の指示に一軍事官僚が従おうとせず、あまつさえ、自分が受けた指示を覆すための根回しを省外で行ったことです。
 これは、懲戒免職に値する、とすら私は思います。
 そもそも、何度も上司からの電話に出ず、あるいはすぐに電話を返すことをしなかったことは、危機管理を旨とする官庁の一官僚としては失格であり、それだけでも懲戒免職に値します。
 次官を統合幕僚長に置き換えてご覧になれば、私の言うことにご納得いただけるのではないでしょうか。
 的場氏もどうかしています。
 この人事を安倍首相の了解を取り付けた上で小池氏が進めている以上、直属の上司たる官房長官が異を唱えているとはいえ、これまた一官僚の分際で小池氏への非難にわたるような物言いをすべきではありませんでした。
 的場氏は、前任者までずっと、旧内務省及びその流れを汲む官庁出身者の指定席だった事務担当官房副長官職に、初めて旧大蔵省出身者として就いたことからすれば、守屋氏の後任に大蔵省出身の飯原一樹(1974年入省)防衛省人事教育局長(前防衛局長。防衛庁採用の山崎運用企画局長と同期)ではなく、旧内務省の流れを汲む警察庁出身の西川氏が擬せられていることに不快感を表明した、とかんぐられても仕方ないでしょう。
 塩崎氏もおかしい。
 いくら小池氏と反りが合わない、あるいは政策的に対立しているとしても、安倍首相のお友達として、しかも内閣の番頭たる官房長官として、安倍首相を困らせるようなことをすべきではありませんでした。
 (14日午後の守屋氏との「会談」での冒頭、小池氏は「互いに安倍さんに迷惑をかけないようにしましょうね」と声をかけた(
http://www.asahi.com/politics/update/0814/TKY200708140384.html
。8月15日アクセス)が、この事実は小池氏自身が紹介したものであり(TV報道)、これは明らかに塩崎氏や的場氏に対する当てこすりだ。)
 しかも、一官僚が、しかも一軍事官僚が上司たる政治家に対して反旗を翻した行為に対し、政治家として厳しく咎めてしかるべきところ、その官僚の肩を持つようなスタンスを塩崎氏がとったことは嘆かわしい限りです。
 いずれにせよ、ことここに至った以上、小池氏のクビを切れない以上は、守屋氏のクビを即刻切るしかないのです。
 軍事を司る官庁が機能不全に陥っている・・ナンバー1と実質ナンバー2が角突き合わせている・・ことの深刻さが塩崎氏には全く分かっていないとしか思えません。
 一番問題なのは安倍首相です。
 13日午後に小池氏から説明を聞いた時点で、ただちに塩崎氏を執務室に呼びつけ、人事検討会議の開催を命じておればそれで一件落着していたはずなのに、今度もまた、(小池氏もお友達ですが、)お友達の塩崎氏に気兼ねして、決断を先延ばししてしまったのですから・・。
 安倍氏は、一体何度同じ失敗を繰り返せば気が済むのでしょうか。