太田述正コラム#2135(2007.10.20)
<防衛省不祥事報道に思う>
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<コラム#2133の脚注の続き>
10月19日(続):
 午後、今まで取材を受けていなかったTV局から本日夜のニュースで防衛省不祥事をとりあげたいので、録画撮りをさせて欲しい(出演して欲しい?)という電話がありました。
 そこで、朝の局に対してと同様、以下のようにやんわりとお断りしました。
 業者にただで、もしくは安くゴルフをやらせてもらった、あるいはごちそうになった、ということが悪いことであることは誰にでも分かる。
 そんなことを言うために私がTVに出ても意味はない。
 守屋氏がその業者に何か便宜を図ったというのならより深刻な問題だが、その類の話はまだ報道には出てきていない。
 なお、仮に便宜を図ったとしても、守屋氏がゴルフとごちそうの見返りに業者に便宜を図るような矮小な男だとは思わない。
 私自身は、守屋氏が、防衛省全体のためになると信じてその業者のために便宜を図った可能性はあると思っているが、それが例えば天下り先の確保、といったことであったのかどうか、そのことを推測させるような事実もまだ一切新聞報道がなされていない。
 このような現状では、しゃべりようがないではないか、と・・。
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1 始めに
 防衛省不祥事のその後の報道を見ていると二つの疑問が湧いてきます。
 どうして守屋氏がかくも脇が甘かったのか、どうして主要メディアが私が知ってからだけでも3ヶ月もこの不祥事を報道しなかったのか、という疑問です。
 
2 守屋氏の脇の甘さ
 現時点では、基本的に守屋氏(前防衛事務次官)の山田洋行によるゴルフ接待疑惑(注2)だけが報じられていますが、それが事実だとすれば、守屋氏が官房長を務めていた2000年に施行された倫理規定(注3)では受注業者とのゴルフが禁じられているにもかかわらず、自らこの倫理規定を踏みにじっていたことになります。
 (注1)山田洋行は、老舗防衛専門商社であり、昨年度までの5年間に同省から装備品約170億円分を受注している。同省地方機関発注分を除く山田洋行の受注額は、2001~2005年度、毎年約25億~50億円にのぼり、商社やメーカーなど同省の全受注業者のうち、2003年度を除き上位40位前後(受注額ベース)に食い込んでいた。ちなみに、上位20社は大手メーカーと大手総合商社が占めており、専門商社の中では常にトップクラスだった。
 (注2)接待ゴルフは、山田洋行のグループ会社が経営する千葉県いすみ市や埼玉県寄居町のゴルフ場で行われており、回数は計100回以上に上るとみられ、多いときで毎週末行われることもあったという。守屋氏は、この業者の社員が運転する車で送迎を受けており、妻と2人でゴルフ接待を受けることもあり、ゴルフ場の受付でプレーヤーの名前を記載する際には、夫婦ともに実名を使わず、偽名が使われていたという。接待ゴルフが行われた回数は計100回以上に上るとみられ、多いときで毎週末、行われることもあったという。業者は交際費等として経費を計上していたという。
 (注3)1996年に発覚した厚生省次官による汚職事件を受けて、制定された。
 分からないのは、どうして守屋氏がそんなばかなことを続けてきたのか、です。
 守屋氏が毎週のようにゴルフがやりたかったのであれば、防衛省の幹部クラスが準会員扱いで使える、東京近郊の3~4箇所の米軍のゴルフ場を使えばよかったのです。
 接待ゴルフの際、1万円出す時もあったというのですから、米軍のゴルフ場のメンバー・フィーを払った場合とちょぼちょぼです。(交通費やメシ代は持ち出しになりますが・・。)
 そうすれば、偽名を使う必要もなかったわけです。
 それでも、奥さんの話は救いようがありませんが・・。
 絶対にばれないと思っていたのかもしれませんが、20年来の知り合いで守屋氏の接待ゴルフに常に同行していたらしい山田洋行の専務が昨年同社を退職して競合する商社「日本ミライズ」を設立し、あまつさえ、山田洋行とこの元専務の間で訴訟沙汰が起こっており、山田洋行サイドから情報がリークされる可能性が出てきたというのに、守屋氏はこの日本ミライズに便宜を図った疑惑(注4)すら取り沙汰されており、彼の余りの脇の甘さに呆れてしまいます。
 (注4)航空自衛隊の次期輸送機CXのGE製エンジン(1基)の2007年度発注先が、これまでの山田洋行から日本ミライズに変更になった。なお、守屋氏自身は、「職権を特定の人のために行使したことはない」と在任中の記者会見で語っている。
3 主要メディアの報道「自粛」
 さて、ゴルフ接待疑惑は、防衛省不祥事疑惑の全貌のほんの入り口に過ぎないと言われています。
 そうだとしても、朝日が本当に、「自衛隊は約25万人からなる実力組織だ。少しのミスで隊員の命を失わせ、外部にも損害を与えかねない。こうした組織を運営するには、厳しい規律とルールの順守こそが求められる。その規律とルールをトップが自ら破ったのだから、罪は深い。」(同紙の20日付社説)と思っているのなら、どうして10月19日に報じるまで何ヶ月もかかったのでしょうか。
 上述のように情報が、交際費の記録等を持っているであろう山田洋行サイドからリークされていると思われる上、この情報のウラをとるのも、ゴルフ場の係員等から取材すればむつかしくないと思われるだけに、大変不思議です。
 朝日は防衛記者クラブ会員であることから、干されることを懼れて守屋氏の事務次官在任中は報道を自粛していた可能性があります。
 そうだとしても依然分からないのは、どうして守屋氏の退任後1ヶ月半も待ったのか、です。
 名誉毀損で守屋氏に訴えられるのを懼れ、検察が確実にゴルフ接待疑惑を含む防衛省不祥事を立件するという心証が得られるまで待ったという可能性ぐらいしか考えられません。
 私が録画撮りを行った某TV局が、15日の時点でそのような心証を得ていたこと、かつ19日に産経新聞も、本件を報道したことから、その可能性は高いのではないでしょうか。
 だとしたら、これも大変深刻な問題です。
 名誉毀損をめぐる裁判所の判断が、情報発信者に厳しくなりすぎているのだとすれば、何とかしなければならないのではないでしょうか。
4 終わりに
 民主党は、守屋前次官を国会に証人として喚問して本件を含め問い質すべきだとしており、喚問が実現しない場合は週明けから審議拒否も辞さない構えです。
 もはや、インド洋で海自補給艦による給油活動が、近い将来に再開できる可能性はゼロになったと言っていいでしょう。
 守屋前次官は、その責任をどうとるつもりなのか、注視したいと思います。
 (以上、米軍のゴルフ場の箇所を除き、事実関係は下掲のほか、部分的に一部TV報道によった。
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007102090071125.html
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007101901000645.html
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007101901000589.html
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2007102002057753.html
(いずれも10月20日アクセス)
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 有料版のコラム#2136(2007.10.20)「中台軍事バランスの変化をめぐって」のさわりの部分をご紹介しておきます。
 コラム全文を読みたい方はこちらへ↓
http://www.ohtan.net/melmaga/
 ・・
 9月の末に、在日米軍司令官のライト空軍中将(Bruce Wright)(注1)は、中共の防空能力が向上し、米国がアジアに配備しているF-15やF-16では中共を攻撃することがほとんど不可能になったと語りました。
 
 (注1)私が旧防衛施設庁で在日米軍との折衝の総括責任者になった時、その実質的カウンターパートたる在日米軍司令部第3部長だったのがライト大佐(当時)だった。彼はすぐ代わってしまったが、率直に言ってやや傲慢な印象を受けた。今度岩国で起きた、米海兵隊員による19歳の日本人女性集団暴行事件でも、彼には恐らく機敏な対応はできないだろうし、またその意思もなかろう。
 (注2)中共を攻撃するためには、ステルス能力(レーダーに探知されない能力)があるF-22かF-35が必要だが、F-35はまだ就役しておらず、12機のF-22が今年初めに沖縄に配備されたが、臨時配備に過ぎず、恒久的配備の計画はない。
 そして中将は、米軍のF-15の製造後の年数の平均は約24年、空中給油機のKC-135は46年であるのに対し、中共はロシア製のスホーイSu-27(フランカー)やSu-30、それに今年就役したばかりの国産のJ-10(コラム#1627)の新造機をどんどん配備しており、史上初めて、米国は他国、すなわち中共、に戦闘機の製造後年数で下回られてしまった、述べたのです。
 中将は言及しませんでしたが、中共の防空レーダー網の能力も最近、先進国のレベルにほぼ到達したと中共の空軍幹部が軍事雑誌に書いています。
 中共の防空ミサイルも充実してきています。
<中略>
 中台軍事バランスの変化や、このところの米国の台湾の安全保障に係る腰が引けた姿勢が、日本のメディアの電子版ではほとんど報じられていないので、日本の皆さんに警鐘を鳴らすつもりで本篇を執筆しました。
 コラム全文を読みたい方はこちらへ↓
http://www.ohtan.net/melmaga/