太田述正コラム#2367(2008.2.16)
<日本論記事抄(その1)>
1 始めに
 今年の1月末から現在まで、英米の新聞の電子版が日本の社会について、どんな記事を掲載しているかをご紹介し、私のコメントを付したいと思います。
 日本のメディアでも報道されている話が多いのですが、英米の新聞が何をいかなる角度からとりあげたかが興味深いのではないでしょうか。
 日本人の生き様、日本における夫婦関係、日本文明、の三つのジャンルに分けてご紹介することにしましょう。
2 日本人の生き様
 (1)科学者
 島津製作所社員の田中耕一(1959年~。東北大工卒)氏は、2002年のノーベル化学賞者として有名ですが、彼は現場にいることを好んだため、昇進の話をたびたび拒み、ノーベル賞受賞時も島津製作所で年齢的に不相応な係長という職にいました。
 ノーベル賞受賞に伴い、島津製作所が待遇を上げた上で現場に留まれる「フェロー」という職制を新たに創設したのですが、会社は田中氏を取締役待遇フェローに遇しようとしたところ、「急に待遇が上がるのは好ましくない」と田中が拒んだため、しばらくの間、部長待遇のフェローとなり、その後執行役員待遇となって現在に至っています。
 また、NHKから、2002年の紅白歌合戦に審査員として出演依頼されたのですが、「私は芸能人でも博士でもありません。」と辞退しています。
 (以上、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E4%B8%AD%E8%80%95%E4%B8%80
(2月12日アクセス)による。)
 日本ではこの田中氏のような科学者は決してめずらしくありません。
 東北大学加齢医学研究所の川島隆太(1959年~。東北大医卒)教授は、継続的に読み・書き・計算を反復学習することによって、認知症患者の脳の再活性化を促し、脳機能の改善、回復を促すという「学習療法」理論を構築し。これを一般の人向けにアレンジした本や玩具やゲーム・ソフトが爆発的に売れています。
 しかし、川島氏は、2006年度にゲームソフトや知育玩具の監修料として支払われた約4億4000万円の内、大学の規定で個人の取り分となる半額分を含めて全額を研究室に投資し、東北大学加齢医学研究所に研究棟を新設したほか、2008年2月の時点で、ゲーム会社や出版社、各種メディアからのロイヤルティは23億円にのぼったが、川島氏はそれらの受け取りを放棄。家族に反対されるも「金が欲しいなら働いて稼げ」と諭したとされています。
 (以上、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%9D%E5%B3%B6%E9%9A%86%E5%A4%AA
(2月12日アクセス)による。)
 最近では、昨年11月に論文が発表されて政界的話題になったところの、ヒトの皮フ細胞からあらゆる細胞に分化出来る万能細胞(人工多能性幹細胞=iPS細胞=human stem cells)をつくることに世界で初めて成功した、京都大学再生医科学研究所の山中伸弥(1962年~。神戸大医卒)教授の例が挙げられるでしょう。
 ちなみに、どうして世界的な話題になったかと言うと、体細胞からつくるiPS細胞は、作製の際に受精卵(embryo)を壊さなくてすむため、倫理問題を回避できますし、患者自身の体細胞を使えば、移植での拒絶反応も回避できるからです。
 (以上、
http://dndi.jp/mailmaga/mm/mm071121.html
(2月12日アクセス)による。)
 ロサンゼルスタイムスの編集委員(staff writer)は、山中氏が、金持ちになったり有名になることには関心がない科学者であるとし、同氏の、「自分は科学者になる前は医者だったので、患者さん達のために自分の発見がどんな貢献ができるかにもっぱら関心がある」という言葉を引いています。
 そして、日本は即席ラーメンやウォークマンといった世界的発明を生み出してきた国だが、日本では科学は有用なものを創り出す営みであると考えられてきたとした上で、栄光の瞬間においても科学者に謙虚さとカネへの関心のなさを求める日本人の科学者像にぴったりだと指摘します。
 そして、上述したような川島隆太教授の業績と逸話を紹介しつつ、同教授が休暇すらとろうとせず、ひたすら高齢者を助けるための研究を続けることを好んでいる、と指摘します。
 そして、更に上述したような田中耕一氏の業績と逸話を紹介しつつ、同氏がささやかなボーナスしか与えれなかったものの、これに不平を言うことなく、彼の同僚達のおかげであるとし、会社が実験の自由を与えてくれたことを多とし、自分は突然有名に成りすぎた、早く本来の生活に戻りたい、と語ったことを紹介します。
 (以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-scientist11feb11,1,83215,print.story  
(2月12日アクセス)による。)
 われわれ日本人にしてみれば、必ずしもめずらしくない話ではあるけれど、米国人にとって、このような研究者像が極めて新鮮だからこそ、ロサンゼルスタイムスの編集委員は記事にしたのでしょう。
 
(続く)
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太田述正コラム#2368(2008.2.16)
<日本論記事抄・後編(その1)>
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