太田述正コラム#2369(2008.2.17)
<皆さんとディスカッション(続x66)>
<太田>
 コラム#2340で、ということは、月刊誌「自然と人間」2月号で、
 沖縄の米海兵隊・・のグアム・・移転は変なのです。
 つまり司令部をグアムに移し実働部隊を沖縄に残すということなのですが、ほんらい司令部はできるだけ実働部隊の近くにあってしかるべきなのです。それを離してしまうということは、沖縄で海兵隊を使う構想がないということを意味します。中東に実戦部隊を送る以上は、アメリカ本土よりも中東に近い沖縄やグアムに置いたのがいいに決まっていますが、実際に実働部隊にお呼びがかかったときには派遣先の中東で司令部と実働部隊をドッキングさせるので、司令部を沖縄に置く必要がないのです。
と記したところですが、新著の編纂作業の過程で、コラム#1127でこれと一見背馳する次のようなことを記していることに気付きました。
 2000年以降は、米国は、ネットワーク・セントリック戦争・・を戦えるようにすべく、世界的な米軍再編(Transformation。・・)に乗り出している。その一環として出てきたのが、陸軍のケースで言えば、師団を廃止し、軍団司令部の全般的指揮の下、師団の五分の一の1800人規模のミニ旅団が基本単位となって戦争を戦うというラムズフェルト構想だ。これは、対イラク戦のような、一国の占領を目的とするような大規模な戦争は今後は起きない、という前提の下、もっぱら小回りのきくミニ旅団で対テロ戦を戦い、治安維持・民生安定を行うというものだ。・・
 これは二つのことを意味する。
 ITをフル活用すれば、実戦部隊と(軍団)司令部とが離れていても、従来ほど齟齬はきたさないだろう、というのが第一点だ。
 そして、大規模な戦争は起きないのだから、これまでのように、軍団隷下の二個師団相当以上(新構想の下では10個ミニ旅団以上)の兵力が同一戦場に投入されるようなことは考えられず、軍団司令部の全般的指揮の下で、あるミニ旅団はアフガニスタンに、もう一つのミニ旅団はイラクで、更に第三のミニ旅団はイランで戦い、残りのミニ旅団は戦略予備として後置される、といったことが通例になる。とすると、軍団司令部が、特定のミニ旅団と行動を共にする意味はなくなるし、むしろ行動を共にしてはいけなくなる、というのが第二点だ。
 同じことが、海兵隊についてもあてはまる。
 だから、司令部はグアムにいて、即応態勢にある実戦部隊は沖縄等にいても、さしつかえない、というわけだ。
 そこで、読者のご指摘を受ける前に、先回りして、この二つの記述に矛盾はないことをご説明しておきたいと思います。
 コラム#1123で、
 
 在日米軍再編の二つの目玉は、在日米海兵隊の司令部等のグアム移転と、横須賀を母港とする米空母の艦載機部隊の岩国移転です。
 このどちらも、軍事合理性の観点からは疑問符がつきます。
 在日米海兵隊の司令部等のグアム移転問題から始めましょう。
 最新の戦史である対イラク戦の戦史が教えるところは次のとおりです。
 中東を所管する米中央軍は、平時には米フロリダ州タンパに司令部が置かれていますが、2003年の対イラク戦の際には、カタールに進出しました(フランクス・・司令官)。対イラク戦の地上実働部隊をとりしきる司令部(マッキァーナン・・司令官)は、イラクに接するクウェートに置かれました。
 両司令部はこんなに戦場に近かったというのに、対イラク戦を実際に戦った米地上実働部隊(ウォラス・・米陸軍第五軍団司令官、等)とクウェートの上記司令部、このクウェートの司令部と中央軍司令部、更には中央軍司令部とペンタゴンとの間で、深刻な戦況認識の齟齬が生じたのです(注・・)。
 (注・・)対イラク戦開戦後、予想しなかったことに、米地上部隊は、イラクの非正規部隊たるフェダイーン・・の兵站線等への攻撃に悩まされた。一週間ほど経った時点で、イラク内の海兵の実働部隊の情報士官から、「フェダイーンに対して、米軍は大兵力で根絶やしにしないと、バグダッドが陥落した後も彼らによる攻撃は続き、イラクの安定化が妨げられることは必至だ」という情勢分析が上級司令部に上申された。同じ頃に上記ウォラス将軍は、ニューヨークタイムスとワシントンポストの記者に、「われわれが戦っている敵は、非正規部隊なので、ウォーゲームで訓練した相手とはちと違う」と語った。フランク将軍は、このウォラス発言は自分の立てた作戦計画への異議申し立てだと怒り、彼を馘首しようとした。イラク内に入って陸軍と海兵の実働部隊の司令官らと会議を行い、ウォラス将軍と同じ認識を持つに至り、バグダッド進撃を遅らせる決定をしたばかりのマッキァーナン将軍が、あわててとりなしてウォラスの馘首は撤回された。それでも腹の虫の治まらないフランク将軍は、マッキァーナン将軍の司令部に乗り込み、米地上部隊の司令官らは臆病だとどやしつけた。その後、バクダッド陥落が目前に迫ると、ラムズフェルト米国防長官は、予定されていた第一騎兵師団16,000人のイラク投入の撤回を指示した。フランク将軍は、不満だったが、この指示に従った。マッキァーナン将軍は、全く相談にあずからなかった。後から考えれば、第一騎兵師団込みでも総兵力が不足していたというのに、更にこの師団の投入まで撤回したことは、大変なミスであり、戦後の(元フェダイーン要員を中心とする)不穏分子の跳梁やバグダッド等の治安の悪化がもたらされる原因となったと言えよう。
 つまり、いくらネットワーク・セントリック戦争の時代になったと言っても、やはり実戦の時には司令部は実働部隊の近くにいるにこしたことはない、ということなのです。
 にもかかわらず、在沖米海兵隊(第3海兵両用戦部隊)を、司令部をグアムに移転することによって(全ての)実働部隊から引き離す、というわけです。
 これでは米国防省は、この海兵隊を、極東有事(朝鮮半島有事ないし台湾海峡有事)に使用したり、そのために即応態勢に置いたりするつもりは全くないと考えざるをえないことになります。
 極東有事に第3海兵両用戦部隊を用いるのであれば、相手は北朝鮮や中共なのですから、隷下全部隊をあげてあたる必要があることを考えれば、なおさらそうだとお思いになりませんか。
 つまり米国防省は、(現在も、また司令部のグアム移転後も、)第3海兵両用戦部隊を、その隷下部隊の一部をインド洋沿岸地域や東南アジアに火消し的に派遣したり、これら地域における規模の大きい事態において、現地に司令部を進出させて隷下部隊を一元的に運用したりすることしか考えていない、と私は見ているのです。
<YoShu>
 「律令/ボーンズ」掲示板の管理人をされてる(コラム#2364)のは、植田信(うえだまこと)さんと言われて、「ワシントンの陰謀」2002.1 洋泉社を出されています。
 掲示板で、ホームページを教えてもらってきました。
http://www.uedam.com/
<太田>
 歯の調子が悪く、コラム執筆にも支障が生じていますが、何とか頑張っています。
本日は私の59歳の誕生日ですが、何とも鬱陶しい誕生日を迎えたものです。
<読者みはる>
 歯痛にもめげず、メルマガありがとうございます。少しパソコンやすまれたら、と老婆心ながら思いますが・・。(勝手に肩こりからではないかと、思ってますので。 笑 ) 
 革命家としては、お誕生日にものんびりできないのでしょうか。おめでとうございます。 
 これからも興味深いコラム期待してます。
<太田>
 どうもお気遣いありがとうございます。
 ところで、月刊誌「サイゾー」2008年3月号21頁の「根深い企業の水増し請求 国会での追及は不可能?」と題する記事に私が登場するのでご紹介しておきます。
 
 「元防衛庁長官官房防衛審議官で評論家の太田述正氏はこう話す。
 「水増し請求が容認されてきたのは、完了が仕事をしていなかった証拠。天下りという見返りがあるため、請求書に水増しの事実があっても指摘できなかったのです」
 では、守屋疑惑をはじめとする、こうした癒着構造はどう解消すべきか? ・・前出の太田氏は「族議員の絡まない政権交代に託す以外に道はない」と前置きした上で、こう指摘する。「防衛装備に限らず官公庁の受発注により、多くの民間業者が潤っているのも事実。まずは彼らが不正を拒否すべき。当然、政官の責任はあまりに大きいが、今こそ民間サイドも官公需のあり方を考える時期に来ています」」
 (電話取材でしたが、)最後の部分は、そんなこと言ったかなあ?
 ま、いっか。
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太田述正コラム#2370(2008.2.17)
<日本論記事抄・後編(その2)>
→非公開