太田述正コラム#2401(2008.3.4)
<過去・現在・未来(続x4)>
1 再びコソボの歴史について
 マルコームのコソボ史に対し、ロンドン大学ゴールドスミス校(Goldsmiths)のジョキッチ(Dejan Djokic)歴史学講師が反論を同じガーディアン紙上で行っているので、紹介しておきます。
 コソボが現在の領域における政治的単位となったのは、1946年に、新しく成立した社会主義ユーゴスラビアにおいて、セルビア内の自治地域とされた時以降の話だ。
 ちなみに、この1946年にできた自治地域(後に自治州)の名称はメトヒジャ(Metohija)であり、これはそれまでに存在していたコソボ地域とメトヒジャ地域が一緒になったものだ。(現在でもセルビア政府はコソボのことをメトヒジャと呼んでいる。)
 オスマントルコ時代にコソボと呼ばれる州(vilayet)が存在したことは事実だが、その実態と領域は現在のコソボとは全く異なる。
 また、マルコームの、現在のコソボはセルビア国家発祥の地ではないという指摘は正しいが、それが中世セルビア史の大部分において中心的地域であったことも事実だ。実際、セルビアの首都がしばらくコソボに置かれたことがあったし、セルビア首教座(patriarchate)はコソボにおいて創設されている。
 更に、マルコームの、現在のコソボが社会主義ユーゴスラビアにおいて連邦の単位でありかつセルビアの自治州であるという二重の地位を(ヴォイヴォディナとともに)有していたという指摘は正しいが、コソボ(やヴォイヴォディナ)は、セルビア、クロアチア、スロベニア等と違って、分離独立する権利を与えられていなかったことを忘れてはならない。
 この二重の地位の否定に向けて最初に動いたのはセルビアではなく、コソボのアルバニア人達であり、1981年・・チトー大統領が死んでから一年、ミロシェビッチがセルビア共産党の党首となる5年前・・のことだ。
 (以上、
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/mar/04/kosovo.serbia
(3月4日アクセス)による。)
2 囚人人口超大国の米国
 昨年、米国の囚人人口は約230万人となり、米国の成人人口が2億2980万人であることから、米国は成人の99.1人に1人が囚人である囚人人口超大国、ということになります。
 (総人口に対する比率で言うと、130人に1人という勘定です。)
 2006年のデータによれば、成人人口で言うと、ヒスパニックの36人に1人、黒人の15人に1人、20歳から34歳の黒人男性の9人に1人、35歳から39歳の白人女性の355人に1人、同じ年齢帯の黒人女性の100人に1人が囚人です。
 中共の人口は米国よりはるかに多いけれど、囚人人口は米国に次いで世界第二位の150万人であり、世界第三位のロシアは89万人です。
 また、総人口比では、米国と比較して、英国は五分の一、ドイツ八分の一の囚人しかいません。
 これだけ大勢の犯罪者を刑務所に送り込んでいるおかげで、過去20年間に米国の暴力犯罪は、1987年の10万人あたり612.5件から2007年の464件まで25%も減少しています。
 しかし、囚人1人当たりに平均して年23,876米ドルもかかり(於2005年)、各州の公務員の9人に1人が矯正施設で働いていることから、果たしてこのような米国の政策が今後とも維持できるのか、疑問の声も米国内で出ています。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2008/02/29/us/29prison.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
(2月29日アクセス)、及び
http://www.guardian.co.uk/world/2008/mar/01/usa  
(3月1日アクセス)による。)
3 男女別教育ブームの米国
 1995年には米国に男子だけまたは女子だけの公立学校は2校しかありませんでしたが、現在では49校もあります。しかもその65%は過去3年間に設けられたものです。
 また、男子だけまたは女子だけのクラスを設けている公立学校は、2002年の秋の時点で12校前後しかなかったのに、昨年の秋には360校を超えたと推計されています。
 米国はついに人種超越社会へと進化したかもしれないけれど、再び男女の違いに敏感な社会に戻りつつあるのかもしれません。
 (以上、データは
http://www.nytimes.com/2008/03/02/magazine/02sex3-t.html?_r=1&oref=slogin&ref=magazine&pagewanted=print  
(3月2日アクセス)による。)
4 朝鮮日報の親日論調再訪
 朝鮮日報の3月2日付電子版に掲載された、「朝鮮人は戦争加害者なのか、被害者なのか」と題する上中下からなる論説は、注目されます。
 「上」だけ全文転載しましょう。
 
【新刊】韓日、連帯21編『韓日歴史認識論争のメタヒストリー』(根と葉) 
 植民地・朝鮮出身の19歳の青年が日本軍に志願した。陸軍中尉となった彼は神風特攻隊員に名乗り出た。出撃前、彼は故郷の親兄弟に宛てて遺言を録音した。数十年の歳月を経て、その遺言が録音されたLP盤が発見された。ところが古いレコード盤の雑音の間から聞こえる声は、悲しみに暮れたものではなかった。それは「“天皇陛下”に対する忠誠」と「両親の健康を祈願」する日本軍陸軍中尉としての力強い声だった。彼は戦死した後、靖国神社にほかの朝鮮人2万 6000人と共に合祀された。
 さらに驚くべきことは、こうした内容を記録したテレビドキュメンタリーが3年前に放送された後の状況だった。「日本」という単語がマイナスイメージで語られた瞬間、興奮状態に陥るのが常だったこれまでの韓国社会とは違い、このときは何の反応もなかったのだ。なぜだろうか。彼らは不当な死を強要された犠牲者であると同時に、「天皇陛下万歳」と叫んだ「日本軍少尉以上の階級を持つ者」たちだったからだ。数十年間、韓日問題で支配的だった「親日派論争」では、彼らについて説明するすべがなかったのだ。
 この本の編者である「韓日、連帯21」は、韓国と日本の知識人が「21世紀にふさわしい新たな韓日関係を模索するため」、2004年に発足させたグループだ。このグループはこれまでに両国間で起きた対立関係を越え、「さらに成熟した」姿勢で自らを顧み、連帯する方法を模索している。一言で言えば、今や互いに偏狭なナショナリズムから脱し、歴史を見つめようということだ。そこでこの本の執筆者たちは、即自的な民族主義から一歩下がり、顧みることで独自の新たな視点を示している。
 (以上、
http://www.chosunonline.com/article/20080302000003  
(3月2日アクセス)による。)
 この論説は、かつて朝鮮半島の住民が日本列島の住民と共有していた日本帝国臣民としての意識を直視しようとする画期的なものです。
 ただし、「中」と「下」は、韓国人読者からの反発に先回りして、トーンダウンした内容になっています。
 ついでに、その翌日の同紙の電子版に載った記事も紹介しておきましょう。
 世界で1番、日本語を熱心に勉強している国は韓国であることが分かった。
 日本の国際交流基金が世界各国の日本語学校を対象に調査(日本人と日本国内の学習者は除く)したところ、韓国では91万1000人が学校や塾などで日本語を学んでいることが分かった。これは全世界の日本語学習人口の30.6%に相当する数字だ。
 次いで多かったのは中国68万4000人、3位はオーストラリアで36万6000人だった。人口に対する日本語学習者の割合も、韓国は52人に一人で最も高かった。
 (以上、
http://www.chosunonline.com/article/20080303000029  
(3月3日アクセス)による。)
 「世界で1番、日本語を熱心に勉強している国は韓国であることが分かった。」という冒頭のセンテンスが、朝鮮日報の親日的スタンスを如実に物語っています。
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太田述正コラム#2402(2008.3.4)
<アブラハム系宗教の好戦性>
→非公開